2004年3月19日(金)「しんぶん赤旗」
自動車や家電などドイツ経済の屋台骨を支える金属産業で、ドイツ金属労組(IGメタル、二百六十四万人)が経営者側の賃金抑制方針を乗り越え、二月までのたたかいで、三月から2・2%、来年三月からさらに2・7%を上積みする連続賃上げを勝ちとりました。IGメタルの本部フランクフルトで労働協約交渉担当の役員、アルミン・シルト氏に聞きました。(フランクフルト=片岡正明)
ドイツでも日本と同じように、ここ三年間は経済状態が悪く、これを理由にする使用者側との交渉は難航してきました。今年のわれわれの賃上げ要求4%に対し、金属産業経営者連盟は、最初の十五カ月を1・2%、次の十二カ月はこれに1・2%を上積みする低額回答をしてきました。使用者側はまた、週四十時間労働制への後退を提案してきました。金属産業では旧東独地域を除き、週三十五時間労働制を達成しているのに、です。
使用者側との交渉では警告ストが大きな力を発揮しました。(一月末から二月半ばにかけての)二週間にドイツ全土で約五十万人の労働者が参加しました。
実は昨年、旧東独地域で週労働時間三十八時間制を旧西独地域並みの三十五時間にせよと格差是正を求めて、全国でストを敢行したのですが、結果は失敗でした。使用者側は労組の力が弱くなったと見て、賃金抑制に加え、四十時間制への後退の圧力をかけてきたのです。今回はこれに断固たたかうという労働者の意思の強さとあわせ、シュレーダー政権が実施した、社会保障を後退させる政策「アジェンダ二〇一〇」に反対するという二つの要素が労働者を結集させました。旧西独部のバーデン・ビュルテンベルク州から旧東独のザクセン州まで同じ賃上げを勝ちとりました。
四十時間制への労働時間延長の論理は、安い賃金で国際競争力を強め、仕事量を増やし、雇用も増えるというものでした。それは違います。労働時間の延長によって金属産業で三十万人から五十万人の職が失われます。
使用者側の主張は、輸出に頼った経済を続け、米国や日本と競争するために賃金を切り下げるやり方です。しかし低賃金の競争で国際競争力を高めるなどということはドイツでは成功しないし、とるべき道ではありません。輸出頼みの経済では労働力が安い国とは競争になりません。
ドイツでは賃金は高いかもしれませんが、労働者の質や労働生産性が高く柔軟性もあります。教育水準を高め、質の高い労働者を生み出し、新製品開発能力を高め、国内需要・消費を高めることです。ドイツは欧州連合(EU)の経済大国ですからEU域内で需要・消費を他の国とともにつくり循環させていく、こういう経済戦略の代案をわれわれは持っています。
低賃金は消費を停滞させ、経済も停滞させます。「アジェンダ二〇一〇」で政府は、年金、健康保険、失業保険給付などあらゆることで削減、緊縮財政を進めています。国民の収入が減り、景気が悪くなり、労働者の賃金削減にもつながる。そして税収など国の歳入も悪くなるという悪循環を招くだけです。
このような方向で行けば、欧州は米国の質の悪いコピーにしかならないでしょう。金持ちのためのグローバル(経済の地球規模)化でない、市民の利益になる代案、先にのべた代案の方向が必要です。
日本の労働者にいいたい。「賃金が安ければ経済はよくなる」という経営者側の主張を打ち破って、ともにたたかいましょう。