2004年3月18日(木)「しんぶん赤旗」
春闘 |
電機や自動車、鉄鋼、造船重機など金属労協(IMF―JC)に加盟する労働組合に十七日、いっせいに回答がありました。賃上げでは自動車で唯一ベースアップ(ベア)を要求した日産自動車が昨年に続いて満額千円を回答。ベア要求を見送った電機では「賃金体系の維持」は確保したものの、個別賃金化が強まる成果主義の導入で実質賃下げが避けられない状況になっています。
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今春闘は財界が「春闘終焉(しゅうえん)」を叫び、賃下げ攻撃を強めるなか、それをはね返すことに労働者の期待がありました。しかし、金属労協に加盟する主要労組はこれに追従し早々とベア要求を断念し、定期昇給分を確保できるかどうかが唯一の攻防となっていました。
今、上場企業の二割が二〇〇四年三月期決算で過去最高益を記録するとみられ、急速に業績を回復しています。これは財界・大企業が相次いで行ったリストラや成果主義などによってもたらされたものです。奥田碩・日本経団連会長のおひざ元のトヨタ自動車。三月期決算で一兆六千億円もの経常利益が予測されるほど高利潤を上げながら、一時金は労組が自粛し年間二万円減となりました。
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大手電機の労働者は「会社の高利潤は従業員の犠牲と血のにじむような努力の結果です。もうかっても賃上げゼロでは労働意欲も減退する。見合った賃上げをしてほしい」と憤ります。
裁量労働制とあいまって労働者はいっそうの長時間労働にかりたてられ、過労死や過労自殺も後を絶ちません。
三年連続ベア要求を見送った春闘は大きな分岐点に立たされています。回答速報後、電機連合幹部が「この線上で取り組みを続けるとすれば、闘争の存在感や求心性の希薄化が懸念される」と述べざるを得ない状況に追い込まれています。
個人の成果配分を重視し、労働者をバラバラにする成果主義賃金。さらに会社の業績次第で一時金の額が自動的に決まるような春闘では、労組への信頼感や求心力が弱まるのは必然です。
大企業だけが利益を蓄積し、労働者は五年連続の賃下げを強いられています。国民の七割が生活不安を訴え、安心できる収入と社会保障を求めています。こうした実態に根ざした春闘こそ多くの労働者の願いです。
春闘はこれで終わったわけではありません。低賃金で苦しむ中小企業の労働者のたたかい、さらには労組もない未組織労働者の賃金の底上げのとりくみが続きます。
企業のお情けにすがっていては、展望が開けないことを今春闘が教えています。労組や労働者が企業側に堂々と要求を突きつけ、たたかいに立ち上がってこそ自らの生活を守ることができ、ひいては日本経済の再生にもつながります。
トヨタでは、「会社は抜群の大もうけ。ところがベースアップはゼロ。これでは会社がいっている社会的責任は果たせない」(堤工場の労働者)と職場の話題になっています。労働者がトヨタ労組の職場委員に回答内容を聞くと、「質問しないでくれ。おれではさっぱりわからない」と困惑しています。
社宅でも、労働者の妻たちが「二番目の子どもが小学校へ入学します。子どもたちの将来が不安」「回答をテレビで見る気もしません。結局、私たちがどんなくらしをしているか、会社も組合も考えてくれないということですね」と訴えます。
軽四輪メーカーのダイハツでは、回答を聞いた労働者が声を荒らげ、「仕事はきついし、人は入れへんし、これじゃ割に合わない」と怒ります。
三菱電機では、すでに四月から定期昇給制度を廃止し、成果主義賃金制度を導入することを労使で合意。その確認をおこなったにすぎません。
兵庫県内の職場では、「自分の給与はいったいどうなるのか」と“職場談議”が花盛り。「処遇制度が変えられたので、自分があがったのか、下がったのかは四月分の給与をみてみないとわからん」と五十代の男性は不安を隠しません。三十代の男性は「二年連続の賃下げで、年収は五十万円も下がったまま。そのうえ定昇も廃止で、生活設計がなりたたなくなる」と怒りを込めます。他方、労働組合は参院選に組織内候補を抱え、選挙活動に力を入れています。労働者から「組合は選挙に熱中して、組合員の生活をほったらかすのは、労働組合として本末転倒だ」との声があがっています。