2004年3月8日(月)「しんぶん赤旗」
「日の丸」の下で卒業証書を授与するためスロープまで設置し肢体不自由の子どもが壇上に上がることを強制―東京都教育委員会が異常な「日の丸」「君が代」の押しつけをしています。「強制はやめてほしい」という声が父母の間で高まっています。
世田谷区に住む古橋知明さん(46)は、娘が都立養護学校中学部を今春、卒業します。一人っ子の奈々さん(15)は、生後三カ月で難病の点頭(てんとう)てんかんと診断されました。言葉をしゃべることはできません。股(こ)関節の脱臼が進行し、移動は車いすです。
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小学部のときは、正面に「おめでとう」の文字。卒業生、在校生、父母がコの字に向き合うフロアでの対面式の卒業式でした。体を横たえた子どもでもお互いの顔がよく見えました。
ところが都教委は昨年十月、学校行事で、日の丸は舞台壇上正面に掲揚する、舞台壇上で卒業証書の授受をおこなう、など会場設営についても細かく指示する通達を出しました。これではフロア形式での卒業式はできず、体の不自由な子どもを無理に壇上にあげなければなりません。
肢体不自由児を壇上にあげるために都立養護学校十四校のうち六校で新たに「卒業式のため」スロープを設置しました。 父母が都教委の方針を知ったのは昨年十二月。今年一月の全校保護者会で、父母から「障害がある子を(壇上に)上げる必要があるのか」「今までどおりフロアでできないのか」と疑問が出されました。以前、壇上から子どもが転落した事故があり、父母の間で心配する声が多数を占めました。
校長は「通達ありき」の姿勢を崩さず、二月二十四日、講堂の壇上にスロープと張り出しステージを約八十万円かけて設営しました。
古橋さんはいいます。「歩行補助の装具をつけて歩ける子もいます。そういう子にとって卒業式は歩く姿を見せる晴れがましい場なのに、設置されたスロープの傾斜や長さはそういった子が登るには厳しい。歩けるのに先生に車いすを押されて壇上に上げられることになるのか。なんのための式なのか。画一化して強制するのはおかしい。子どもたちの心がふみにじられる痛みを感じます」
市民運動などの経験はなかった古橋さんですが、「言葉で表現できない娘の代わりに発言しなければ」と日本共産党の曽根はじめ都議にメールを送りました。議会で曽根都議が、都教委の通達は「内心の自由を侵す」「肢体不自由児まで壇上に上がることを強要するのか」と追及したことを議事録を見て知ったからです。曽根都議のアドバイスも受け、都立学校に通う子どもがいる親たちといっしょに二月十八日に都庁に要請しました。
親たちは、「卒業式・入学式の『通達・実施指針』の再検討を求める会」を結成。「強制は内心の自由を奪いかねない」「戦前、侵略のシンボルだった『日の丸』『君が代』の強制は真の国際化に逆行する」などと訴え、一カ月の間に集めた署名は三千人を超えました。賛同した都立学校の保護者有志は六十七校に広がっています。
奈々さんは学校の友達と過ごすなかで、表情が豊かになりました。「いちじく、にんじん」で始まる歌遊びが大好きで古橋さんが歌い始めると、うれしそうにします。友達も小学部入学前からいっしょの通所施設で育ち、みんなで成長を喜びあってきました。
「娘のような子どもは、いつまでも元気でいられる保証はない。ですから、悔いの残らないよう一回一回の行事を大事にしたいんです」。古橋さんは今後も行動していこうと思っています。
浜島のぞみ記者