日本共産党

2004年2月22日(日)「しんぶん赤旗」

群馬 八ツ場ダム

利水でも治水でも目的は破たん

2110億円→4600億円 倍増

総事業費 日本一に


地図

 全国で脱ダムの流れが広がるなか、国土交通省は首都圏の水需要に応えるとして群馬県・利根川水系上流・吾妻川に計画している八ツ場(やんば)ダムの総事業費を、二千百十億円から四千六百億円へと倍増させる案を発表しました。日本一の総事業費で、工事費だけが途方もなく膨れ上がる―。利水でも治水でも目的が破たんしているこの建設の中止を求める声が新たな高まりをみせています。

 (北関東総局・勝又真史記者)


 八ツ場ダム 一九五二年に構想が浮上し、八六年に現在の基本計画が決定しました。現在、代替地の造成工事など周辺工事は始まっていますが、本体工事は未着手のままです。総貯水容量は一億七百五十万立方メートル。幅三百三十六メートル、高さ百三十一メートル。数十年にわたり住民の反対運動が続き、ダム建設を遅らせてきました。

 八ツ場ダム建設に固執する理由に、国土交通省は「東京、埼玉、千葉、茨城、群馬の一都四県の都市用水の確保」をあげます。「新たに首都圏の約四百万人分の水利用を担う」というものです。

 しかし昨年末、首都圏への水供給を主な目的としていた、国交省の外郭団体・水資源機構の群馬・戸倉ダム(総事業費千二百三十億円)の中止が決まりました。水余りが理由です。首都圏の水需要はここ十年、横ばいで推移する一方、首都圏の人口は、二〇一五年にピークを迎え、その後は減少していくと考えられています。相次ぐ水源開発で今も水余り状態なのです。

戸倉ダム中止の一方で

 戸倉ダムはやめても、八ツ場ダムはつくる―。この矛盾を「首都圏のダム問題を考える市民と議員の会」との意見交換会(十二日)で問われた国交省は「水需要がどうなるのか、地方から回答がないので見解を持っていない」と言い逃れました。

表

 もう一つの建設理由にあげている治水はどうか。国交省は、首都圏を中心に利根川が決壊して、東京、埼玉、千葉、茨城、群馬、栃木の一都五県で死者千百人、床上・床下浸水三十万戸の被害を出した一九四七年のカスリン台風規模の洪水を例に、「現状でカスリン台風が再来し、利根川が破堤すれば二百十万人、三十三兆円の被害がでる」としています。

 八ツ場ダム問題に詳しい水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表は、これにたいして反論します。「一九四七年当時の過大な流量は、戦時中に食糧難解消のための赤城山ろくの開墾と、エネルギー源確保のための木材供出による森林伐採の結果です。いまは森林も豊かになり、河川改修も進んで、洪水の危険は少なくなっています」

 先の意見交換会で、国交省は「二百十万人、三十三兆円の被害」の根拠を問われましたが、答えられませんでした。

 さらに嶋津氏は、ダム自体の危険性について「ダム予定地の両岸は、浅間山が噴火したときの泥流が吾妻渓谷でせき止められて、たい積した弱い地層です。ダムを造って貯水すれば、地すべりが起きて、周辺も支えを失い崩落する危険性が高くなります」と指摘。

 ダム上流には、草津温泉などの多くの観光地、嬬恋のキャベツ畑や牧場などがあります。嶋津氏は「多量の栄養物がダムに流れ込み、たまり水に変わると、植物プランクトンが異常繁殖します。水質が悪化し、異様な色のダム湖は観光資源としての魅力はゼロです」と警鐘を鳴らします。

1都5県は負担増

 国交省は、事業費倍増の理由を「水没関係者の補償基準が確定し、物価の変化や消費税導入があった」などと説明します。しかし倍増の根拠は弱く、一都五県の財政負担増に直結します。(表)

写真
八ツ場ダム建設予定地を視察する大門衆院議員(右から2人目)と塩川衆院議員(その左)=2003年9月8日、群馬県長野原町

 倍増案にたいして、東京、埼玉、千葉、茨城、栃木の一都四県の知事は受け入れを表明。群馬県知事は「下流都県の動向をみて対処する」としています。議会も、東京と栃木の各議会は承認しましたが、政党では日本共産党だけが反対しました。二月から三月にかけての埼玉、茨城、千葉各県議会での大きな焦点になり、各党の対応が問われています。

 「八ツ場ダムを考える会」の真下淑恵事務局長は「今後、各地でのシンポジウムや現地見学などを行い、首都圏に住む人たちにダムの問題点を知らせていきたい。ダム見直しを求める署名を集め、国土交通省、群馬県知事や県議会に提出します」と話しています。

 日本共産党は一貫して建設中止を求めてきました。大門みきし参院議員、塩川鉄也衆院議員は二〇〇三年九月、現場を訪れ、地元住民から話を聞きました。ことし一月三十日に国会内で、党国会議員団と一都五県の議員団、都県委員会の代表が集まって、今後、連携しながら運動を強めていくことを確認しました。

ゴリ押しの背景に利権構造

 大門みきし参院議員(参院比例代表候補)の話 建設の根拠がなくなり、目的を欠いても、ゴリ押しする背景には、ゼネコンなどの利権がからんでいます。ダムをめぐる利権構造にもメスを入れる必要があります。

 同時に、中止になった場合の補償の問題、村の再生、地域振興などの対策も考えなければなりません。今後、現地調査や地元住民との話し合い、行政への申し入れなどの取り組みをさらに強め、市民団体と力を合わせて中止に追い込みたい。国会質問でも取り上げたいと考えています。



もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp