2004年2月21日(土)「しんぶん赤旗」
応能負担というけれど、企業にあまり負担させると国際競争力がなくなるのでは。
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誤解しないでください。事業が苦しく負担能力のない企業に過度な負担を求めているわけではありません。応能負担というのは、能力に応じて負担をしてもらうという考え方です。
日本共産党が先の総選挙で発表した政策(二〇〇三年十月八日)では、年金財源について「事業主の負担分については、“所得の多いものは多く、少ないものは少なく”という経済民主主義をつらぬきます」としています。
日本では、企業の社会保障への負担がヨーロッパ諸国と比べて五割から八割と低く、大企業にたいし国際水準にてらして適切な負担を求めているだけです。その一方で、「中小企業の負担は、現在の負担より重くならないようにします」としているのも応能負担の考え方からです。
社会保障の財源のために負担増になれば「国際競争力が失われる」と主張しているのは、主に地球規模で事業活動をおこなっている多国籍企業とその代弁者たちです。その理屈には、いくつもの勝手なすりかえやごまかしがあります。
まず第一には、本来果たさなければならない社会的責任を「コスト(費用)」にすりかえていることです。
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企業が国民の福祉向上に責任を持つべきであるという考え方は世界的な流れです。たとえば、日米欧の経営者たちの集まりである「コー円卓会議」(注)の「企業の行動指針」(一九九四年)では、「企業はまた事業活動をおこなう国々の人権、教育、福祉、活性化に貢献すべきである」と宣言しています。
第二には、税や社会保険料が高いと国際競争力がなくなってしまう、というごまかしです。欧州のビジネススクールのIMDは毎年、世界競争力順位を発表しています。経済、財政、企業の生産性などを基準にしています。二〇〇三年版によると、日本の順位は十一位でした。ところが、日本よりも負担の大きいドイツは五位、フランスは八位とそれぞれ日本よりも上位に位置しています。
第三には、個別の大企業が国際競争力を国の制度などに責任転嫁していることです。
国際競争力についての代表的な考え方を示しているものとしては、アメリカの『ヤング報告』(一九八五年、注)があります。そこでは「一国が国際市場の試練に供する財とサービスをどの程度生産でき、同時にその国民の実質収入をどの程度維持または増大できるか」であるとしています。
この報告を分析した日本政策投資銀行の報告書(「産業レポート」〇一年十二月)では、「(ヤング報告は)ビジョンと技能、意欲を持った国民こそが米国経済の原動力であり潜在競争力の核心であると定義付けている」と指摘しています。
企業に資本と経営者がいるだけで、競争力がうまれるわけではありません。国際競争力の源泉は、働く労働者・国民にあるのです。
大企業・財界が国際競争力を叫ぶのなら、国民の暮らしを安定させるために、その力にふさわしい社会的責任を果たすべきです。
1 アメリカ
2 オーストラリア
3 カナダ
4 マレーシア
5 ドイツ
6 台湾
7 イギリス
8 フランス
9 スペイン
10 タイ
11 日本
「コー円卓会議」 日米欧の企業トップが年一回、スイス・レマン湖畔のコーに集まり、企業倫理や企業行動のあり方について意見交換をする国際会議です。
『ヤング報告』 アメリカは一九八三年に産業競争力の強化を検討するため、ヤング氏を委員長とする「産業競争力委員会」を設立しました。同委員会が八五年に発表した米国の競争力に関する報告書が『ヤング報告』です。