2004年2月19日(木)「しんぶん赤旗」
「小泉改革が着実に進展している成果が表れている」(福田康夫官房長官)――十八日発表された二〇〇三年十―十二月期の国内総生産(GDP)がバブル期並みのプラス成長になったことに、小泉内閣はおおはしゃぎです。しかし、多くの国民はプラス成長の実感がわかないでしょう。それには理由があります。(渡辺健記者)
第一の理由は、「回復」の格差が広がっていることです。
「回復」しているのは一部大企業だけです。とくに輸出型の製造大企業です。一方、中小企業も雇用も家計も置き去りにされています。これでは、プラス成長の実感がわかないのも当然です。
資本金百億円以上の製造大企業の業況判断は大幅上昇なのに、非製造中堅企業は下降(内閣府の法人企業動向調査、昨年十―十二月期)―。
飛び抜けて業況判断が改善している自動車をはじめとした製造大企業の好調さと対照的に、中小企業は製造業、非製造業ともにマイナス圏に沈んだまま(日銀の企業短期経済観測調査、昨年十二月)―。
一部大企業と家計や地域経済との格差も大きく広がっています。
大企業が持ち直していけば、やがて家計や地域経済にも波及していくというのが小泉内閣の考え方です。
ところが、GDP統計でも家計消費(個人消費)は足踏み状態が続いています。国民の所得(雇用者報酬、名目)が三年連続で減っています。
自動車や電機などの大企業が「V字型回復」をはかっている要因は、輸出とともにリストラにあるからです。人減らし、賃金抑制、単価切り下げによる「回復」は、家計や下請け企業、地域経済を直撃します。
小泉政権を支える自民党三役でさえ「二極化で地方は立ち遅れている」(額賀福志郎自民党政調会長)と認めざるをえません。
「二極化」を後押ししてきのは、小泉内閣が「構造改革」の名で進めてきた大企業リストラや中小企業つぶし・失業増の不良債権処理加速策などです。
第二の理由は、先行き不安が広がっていることです。
小泉内閣や輸出大企業が頼みにしている米国経済は、いわば「戦時経済」です。イラク戦費で軍事産業は潤っても、財政の赤字は拡大しています。膨らむばかりの財政と貿易の「双子の赤字」は、ドル暴落の危険をはらみつづけています。
日本にとっては、急激な円高要因を抱えつづけていることになります。円高は、日本経済にはマイナスに働きます。日本の製造大企業は、コスト削減、生産拠点の海外移転や逆輸入で円高の影響を緩和ないしはプラス要因に変えようとします。しかし、「円高対応のコスト削減」は労働者や下請け業者らを直撃します。かたや、日本国内の最大の不安要因は、個人消費に力強さがないことです。
総理府の家計調査によると、全世帯の消費支出は名目で〇三年まで五年連続で減少しました。実質でも〇二年、わずかに増えたものの〇三年に再びマイナスに落ち込みました。
小泉内閣のもとで、一年前と比べ支出を減らした理由は「将来の仕事や収入に不安があるから」「年金や社会保険の給付が少なくなるのではないかとの不安から」がそれぞれ六割前後で推移(日銀の「生活意識アンケート調査」、複数回答)しています。
大企業・大銀行の応援しか考えず、庶民から仕事を奪い、最低限の社会保障すら投げ出し、雪だるま式の負担増を次々に打ち出す小泉内閣。偽りの「構造改革」が、家計をさらに冷やそうとしています。
GDPの約六割を占める家計消費。いまこそ、日本経済の背骨をなす家計を応援する政治への転換が求められています。
GDPとは GDP(Gross Domestic Product、国内総生産)とは、一定の期間に国内で新たに生産されたもの(モノだけではなく、サービスも含む)の合計です。経済の規模や経済成長をはかる指標として用いられます。例えば、部品を仕入れ、製品を売った人は、売り値から仕入れ値を差し引いた残りの部分が「自分が作り出した部分」となります。その部分の金額がGDPに計上されます。各国共通の統計手法である「国民経済計算」に基づいて算出します。しかし実際には、生産額と同額になる需要(支出)に関する統計から推計しています。
小泉「改革」によって景気回復の“芽”が出てきたどころか、「小泉『改革』が景気の足を引っ張っているにもかかわらず、回復の要因が強くなっている」というのは、山家悠紀夫(やんべゆきお)神戸大学大学院教授。不良債権処理の名で中小企業をつぶし、雇用を悪化させ、社会保障「改革」の名で負担増を押し付けてきた小泉「改革」は、個人消費を冷やし日本経済の立ち直りにブレーキをかけつづけてきました。
山家氏は、このところ経済指標が上向いているのは「アメリカの『景気回復』につれて輸出が伸びていること、在庫がある程度適正水準になってきたということが要因」とみています。