2004年2月18日(水)「しんぶん赤旗」
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「真っ向サービス」をキャッチフレーズに、効率化やサービスの向上をめざす“切り札”と称して、「トヨタ方式」を導入しようとしている日本郵政公社。ところが、モデル局の埼玉県越谷郵便局では、労働者の負担が増大し、かえって効率が悪くなり、利用者へのサービス低下があらわになっています。
「元旦に届いた年賀状が少なく、みんな遅かったので気になった。どうしたのか?」「以前はきちんと届けられていた郵便物が、最近は不規則で夕刊を取り入れた後配達されているようで、朝刊といっしょに取り入れることがたびたび」―。郵便局の労働者有志が、一月下旬に越谷市内の住民から集めたアンケートで少なくない苦情が寄せられました。
市内一千世帯に料金受取人払いのアンケート付きハガキを配布したところ、現在までに百四十七人から回答が寄せられました。このうち、約六割(八十八人)の人が苦情を訴えています。
苦情の内容は、楽しみにしている年賀状が「元旦に届かなかった、もしくは少ししか届かなかった」が二十人、「同じ市内に出した賀状が他市に出した賀状より三日遅れていた」という「遅配」が二十二人もいました。間違って配達される「誤配」の苦情も十一人からありました。「請求書のようなものだったので、逆の立場だったらと思うとこわい」と厳しい声が寄せられています。
商業紙にも「モデル郵便局、カイゼン空回り? 放置・誤送多発」という記事(「朝日」十二日付夕刊)が載りました。同郵便局で昨年末に投かんされた年賀封書三通が一カ月以上も放置されていたり、年賀状を含む百通が越谷市内のマンションの集合ポストの上に放置されていたり、市内の運送会社が郵送した伝票が誤配され、取引先に届いていなかったなどのミスが相次いでいます。
「郵便物を効率的に配達するためには、番地ごとに区分した郵便物を配達しやすいように並べかえる『道順組み立て』作業が欠かせません。これが『トヨタ方式』で一変しました」。越谷郵便局の集配のベテラン労働者は遅配、誤配が増大した理由をこう説明します。
「『トヨタ方式』でかえって効率が悪くなり、以前は午前十時には配達に出発していたのに、十時半、十一時と遅れてしまいます。午前中はほとんど配れず、午後に持ち越して、情けないけれど日が暮れてからの配達が増えてしまうのです」。日没で確認がしづらく、能率は落ちて、誤配の危険が増えるといいます。
別の労働者も告発します。「『トヨタ方式』が職場に導入されて一年ちょっとたちますが、職場は大混乱、大失敗です。綱渡りの業務がつづき、私たち労働者にサービス残業や過重・長時間労働が重くのしかかり、お客さんへのサービスにしわ寄せが出ているのです」
越谷郵便局のサービス残業問題を一月下旬に現地調査した日本共産党の塩川鉄也衆院議員は、「郵便局長は、『サービス低下はない』と言っていましたが、実際には多大な利用者のサービス低下がおきています。その背景に『トヨタ方式』という現場の実態を無視したやり方の持ち込みがあります。職場や地域の人々とも力を合わせ、国会でも追及していきたい」と話しています。
労働者に極限までの労働強化を強いる究極の生産方式。昨年一月から、七人のトヨタ社員が越谷郵便局に派遣され、労働者の作業をストップウオッチとビデオをもってチェックしました。一つの郵便物を処理するのに何秒かかるのか、一人の労働者がある作業に何秒かかるのかなどを割り出し、作業中にかいた汗をふく時間もないほど「無駄」を徹底的に省き、使用者にとってもっとも「効率」いい作業をロボットのように強制するもの。同郵便局では、「いすに座って作業するのは無駄」といって道順組み立て作業用のいすが撤去されました。
郵政公社は、「トヨタ方式」を四月から全国展開するとしています。