日本共産党

2004年2月10〜12日「しんぶん赤旗」

春闘――財界の経済戦略を切る


一、リストラ、雇用・労務管理の新たな展開

1、人減らしと不安定雇用化

 東証上場製造業九百三十社の二〇〇三年三月期末の従業員数は、前年同期比十一万七千六百人減(5・8%減)の百八十八万九千八百三十人、業種別では電気機器で四万千四百三十四人減、輸送用機器で一万七千九百三十二人減、機械で一万三千五十七人減などとなっており、十五業種すべてで減少しています。

従来型に加え

 希望退職募集、新規採用の縮減・凍結、退職者不補充などの従来型に加え、国際的産業再編のもとで、持ち株会社化をテコにした分社化、アウトソーシング(外注化)、事業の海外展開、組織構造の変革などの事業・生産体制の多様化・再編による人減らしです。

 NTTでは、まったく同じ職場で同じ仕事をしていながら分社化で看板がかわるだけで15%〜30%の賃金カットがおしつけられたり、「どんな仕事でもいいから探してきて、会社の売り上げを上げなければつぶれるしかない」などの攻撃がされています。

 電機関係などでは、特定商品の製造部門を閉鎖してアウトソーシング専門の別会社に移してコストダウンをはかる例も多発しています。このため、一社で何社ものブランドの電機製品を並行して製造している会社もあります。

 人減らしとともに、リストラの主要な柱とされているのが、パート、派遣、契約など「雇用形態の多様化」による低賃金不安定雇用労働者の拡大です。過去五年間に、非正規雇用労働者は労働者全体の24・6%から32・0%へと急増してアメリカ並みの比率になっています。

先進の米国

 リストラ・「規制緩和」先進国アメリカでは、企業が直接雇用している労働者を突然解雇して派遣会社に移籍したり、「個人請負業主」にしたりしながら、仕事はまったく変わらないなどの乱暴なやり方がされています。賃金は安くなり、付加給付(健康保険や有給休暇、企業年金など)もないか、あっても少ない、労働組合にも組織されない非正規雇用労働者が一九八〇年代以降に急増しました。

 かつてAFL・CIO(アメリカ労働総同盟・産別会議)のジョン・スウィーニー会長は、来日講演で次のように述べました。「一九七九年から九五年のあいだに『ダウン・サイジング』(規模縮小)によって四千三百万人の職がなくなりました。これらの労働者のうち三分の二はより低い賃金の仕事についています。五分の一の労働者は健康保険がありません。企業は年金と手当を削減し、労働時間を増やし、休暇を減らしています」

 九〇年代はじめのクリントン政権時の「景気回復」はジョブレス(雇用なき)という形容詞がつきましたが、いまブッシュ政権下の「景気回復」はジョブロス(雇用を失う)との形容詞つきで呼ばれ、三年間で二百三十万人もの雇用が奪われています。財界・大企業は、このアメリカの横暴なやり方をそのまま持ち込んでいるのです。

雇用の多様化

 財界は、「雇用の多様化」について、「個々人の多様な価値観を受け止め、それに応えられるような働き方を用意する」「本人の意思によって自由に移動できる」などといいます(日本経団連「二〇〇四年版経営労働政策委員会報告」。以下「経労委報告」)。

 しかし、正規から非正規への労働移動が36・1%であるのに対し、非正規から正規への労働移動は22・4%にすぎません。しかも、企業へのアンケート調査によれば、非正規労働者を雇用する主な理由は相変わらず人件費の節約と雇用量の調整のためです。まさに低賃金不安定雇用なのです。

 このような人減らしと不安定雇用化の強行――労働力の新たな全面的再編成が、労働者のモラール(士気)を低下させ、企業帰属意識を破壊し、チームワークを乱し、長時間過密労働とあいまって、うつ病などのメンタルヘルスを含む健康問題をひきおこし、企業の生産性の低下、重大災害や事故増大の大きな要因になっていることは明らかです。

2、成果主義による賃下げ

 正規雇用で残っている労働者への攻撃も重大です。「経労委報告」は、正社員についても短時間正社員など雇用管理を多様化して「雇用の最適編成」をはかることを主張しています。また「年功型賃金システムから能力・成果・貢献度反映の賃金システムへ」と、成果主義の全面的導入を主張しています。

 成果主義賃金は、労働者の「仕事」の「成果」を個別に評価・査定して賃金を決定する「降格もありうる制度」で、労働者間競争を激しくさせ、総額人件費の削減をねらうものです。賃金を個別管理するのですから、当然、平均賃上げは無意味とされ、定期昇給もありえないとされます。

仕事効率低下

 「経労委報告」は、「ベースアップは論外」「定期昇給制度の廃止・縮小」「ベースダウンも労使の話し合いの対象」「生活給の要素が強い諸手当については、今後は削減されていくべき」などと露骨に賃下げを迫っています。

 しかし、成果の評価はそもそも主観的恣意(しい)的であり、成果主義導入のねらい自体が総額人件費削減にあるのですから、大きな矛盾を内包しています。総額人件費削減の大枠の中で賃金を「成果」に応じて上げるためには、他方で大多数の労働者の賃金を切り下げなければなりません。

 その結果、賃下げされた労働者の不公平感など不満が高まり、ここでもチームワークと労働意欲がそがれ、仕事の効率が下がることになります。評価制度の公開・透明性を求める声も増大せざるをえません。

 したがって、富士通のように早くから成果主義を導入したところでは、なんらかの修正を迫られており、なかには東海

ゴムのように廃止にふみきったところもあります。

労働組合否定

 日本経済新聞は昨年暮れの社説で、導入容認の立場からですが、息の長い野心的な仕事への意欲を損なう、チームワークを阻害する、職域を広げようとしないなど、成果主義のマイナス面を指摘し、これらを放置すると「幅広く柔軟な職務能力を備えた人材の育成がおろそかになり、長期的には企業固有の強さを失う恐れがある」として、「限界見極め」が必要と結論づけています。

 労働者を個別に管理する成果主義は、集団的労資関係、労働組合の機能と存在意義を否定する攻撃です。民間大企業の労働組合があいついで成果主義の導入に賛成していることは、団結して労働条件の向上をめざすという労働組合の本来の任務を放棄する自殺行為だといわねばなりません。

3、財界都合の労働法制改悪

 こうしたリストラ戦略を法制度的に支えるために、財界は持ち株会社解禁や会社分割法、産業再生法などを要求し成立させてきました。また、「多様な働き方を推進するため」と称して、労働基準法、労働者派遣法、職業安定法など労働法制の連続改悪による雇用・労働市場の「規制緩和」をすすめてきました。

 いま財界は、もっと自由に雇用・労務管理政策を展開できるように、いっそうの改悪を主張しています。

派遣置き換え

 いくつか例をあげると、派遣労働者特定行為の全面解禁(派遣先企業の事前面接などによる選別採用を合法化し、使い勝手のいい労働者を都合のいいときに使用者責任・雇用責任ぬきで使えるようにするもの。派遣労働者の派遣先への従属性・無権利性はますます強まり、常用雇用の派遣への置き換えを促進し、派遣元の雇用責任もあいまいにする)。

 ホワイトカラーエグゼンプション制度の導入(アメリカの一部エリートホワイトカラーや営業職などのように労働時間の法的規制自体を撤廃するもの。裁量労働制では「みなし労働時間」としてわずかに残る労働時間との関連さえ取り払い、底無しの長時間労働の強制を合法化する)。

 過重労働による健康障害防止措置の見直し(現在は、残業が月四十五時間を超えた場合、産業医の助言指導を受けなければならないが、受けるかどうかは労使の話し合いにまかせるもの。労働者のいのちと健康をますます脅かす)。

 産別最賃の廃止(四百三万四千人が適用されている産別最賃は、平均で時間額七百五十六円と地域最賃平均の六百六十四円より約九十円高いが、それを廃止することで賃下げをいっそう容易にする)などです(日本経団連の〇三年度「規制改革要望」)。

 まさに、アメリカを手本とし、それに輪をかけた無権利状態をねらうものにほかなりません。

二、多国籍企業化の推進と日本改造計画

1、東アジア中心に多国籍企業化を推進

 リストラ戦略の背景にあるのが、財界の二十一世紀戦略です(日本経団連「活力と魅力溢れる日本をめざして」、〇三年一月一日、以下「新ビジョン」)。

安い労働力求め

 その第一の柱は、東アジアを中心に多国籍企業化を推進することです。東アジアを中心に多国籍化を推進することは、当然ながら東アジアの低賃金無権利労働者の活用と資源の収奪による利潤の拡大をねらうものです。

 海外現地で事業を展開する優位性について、「低コストな労働力」と回答した製造業企業は中国の場合で32%、東南アジア諸国連合(ASEAN)の場合も33%でいずれも第一位です。これに、「低コストな部品等の調達」と回答した企業を含めるとそれぞれ約五割にのぼります。

 これまでも、日本企業は、進出先国の賃金が少し上がるとベトナムやカンボジアなど新たな低賃金国に移転し?渡り鳥?のようだと批判されてきました。日本的長時間過密労働の押しつけによる「品質管理」も反発をまねいています。

 東アジア諸国の経済が日本の多国籍企業の再生産構造に組み込まれる形で成長しても、その果実は多国籍企業によって吸収されます。工業化が輸出志向型の偏った部分的発展になるだけでなく、農林漁業も多国籍企業の支配のもとで輸出志向型単品生産にされ、世界市場や気候の動向に左右されやすくなります。

対米従属も妨げ

 環境破壊も重大問題です。利潤第一主義の多国籍企業化の推進でなく、平等・互恵、経済主権の尊重のうえに立った民主的な経済関係の構築こそ求められています。

 政治的にも、自衛隊のイラク派兵とミサイル防衛構想に見られる軍事大国化路線、靖国神社参拝を繰り返す小泉首相を先頭に過去の侵略戦争をいまだに反省しない勢力の存在も、東アジア諸国との友好協力関係の拡大の妨げになります。

 また、対米従属外交が大きな妨げにならざるをえません。昨年、東南アジア友好協力条約(TAC)に中国とインドが新たに加盟したのに、日本は日米安保条約との矛盾を理由にいったんは断りました(その後、アジア諸国の批判の声の大きさにあわてて、アメリカにお伺いをたてて加盟の方向を打ち出しました)。

2、国民収奪による新たな経済・社会モデルへの「構造改革」

 財界の経済戦略の第二の柱は、多国籍企業化の推進に対応した国内での高利潤体制の構築であり、その原資を、国民からの収奪(年金・社会保障給付削減と消費税の大増税)と企業の負担減(法人税減税と社会保障費負担削減)で確保することです。

 「新ビジョン」は、まず、いまでさえ大型公共事業と軍事費優先で逆立ちしている財政を、さらに多国籍企業の「生産性の向上と技術革新」にもふりむけること、すなわち国内での高度先端技術の研究・開発・生産拠点の構築に必要な資金を国家財政でまかなうことをねらっています。

 歳出の面では「国の研究開発投資のあり方を根本から変え」て企業が自由に使える資金を大量に供給すること、歳入の面では基礎年金部分を全額消費税に転換することによる社会保障費負担減と法人税減税で手元資金を潤沢にすることです。

7兆円の負担増

 小泉内閣になってから、医療・年金改悪などですでに四兆円の負担増が押しつけられましたが、今度の予算案では、さらに三年間で年金保険料など三兆円の負担増が計画されており、あわせて七兆円です。

 その先には消費税の大増税が待っています。かつて日本は、年金・医療など社会保障・社会福祉の不備による将来不安から、先進国の中で家計の貯蓄率が高いのが特徴だといわれてきました。

 しかし、いまや貯蓄率は6・2%とピーク時の半分以下にまで落ち込み、貯蓄ゼロの世帯が二割を超しています。

 将来不安はますますつのっているのに、貯蓄を取り崩さなければならないところにまで生活が追い込まれているのです。

 自殺者は、過去五年間連続して三万人を超え、合計すると十六万一千五十三人で中規模の都市一つが消滅したに等しい異常な事態です。

第3の開国要求

 財界はさらに、「東アジア自由経済圏」に対応し、農産物輸入のいっそうの自由化、外国人労働者の本格的受け入れなどの「第三の開国」を要求しています。要するに、国内でも多国籍企業がもっと自由に行動できるように、カネ、モノ、ヒト、そして情報が国境を超えて自由に行き来できる社会へと全面改造せよというのです。

 アジアの労働者と直接競争にさらさせることによる賃金・労働条件の切り下げ、農業つぶし、中小下請け・流通・小売業つぶし、地域経済破壊、再生産構造の激変などによって、矛盾は拡大せざるをえません。

 財界の日本改造計画は、労働者・国民との矛盾をいっそう深めざるをえないだけでなく、国民の暮らし置き去りという日本経済のゆがみをさらに拡大し、破壊的作用をおよぼすでしょう。(日本共産党国民運動委員会理論政策チーム)


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