2004年1月20日(火)「しんぶん赤旗」
「改革の芽を大きな木に育て、世界に信頼される国を実現したい」。首相就任いらい三度目となった小泉純一郎首相の十九日の施政方針演説。中国の思想家の言葉を引くなど美辞麗句をちりばめた小泉内閣の基本方針を国民の立場から検証してみると――。
小泉首相は、本論の冒頭においた自衛隊のイラク派兵問題で、米英占領軍への支援・参加・合流という派兵の危険な本質を一切語りませんでした。国民の反対世論の高まりを、いかに恐れているかを示すものです。
イラク派兵の「基本計画」や「実施要項」は、いずれも、自衛隊の活動として、占領軍支援である「安全確保支援活動」を明記しています。ところが、首相は「人道復興支援活動」というだけで、「安全確保支援活動」には、全く触れませんでした。
首相は「イラクをテロの温床にしてしまえば、世界にテロの脅威が広がる」と派兵を合理化しました。
イラクの事態が泥沼化の様相を深めている根源は、世界の平和のルールである国連憲章を踏みにじった米国の先制攻撃の戦争と、それに引き続く軍事占領です。その無法ぶりに、イラク国民が怒り、テロリストの流入も起きているのです。
「平和」を破壊する無法な米軍。それを支援する自衛隊の派兵を、「平和」の名で合理化する―。こんなひどいごまかしはありません。
首相は「戦闘行為が行われていない地域で活動(する)」とのべました。しかし、航空自衛隊の活動区域であるバグダッド国際空港では、地対空ミサイルによる攻撃が相次いでいます。首相の言明でいけば、「派兵はできない」という結論しかないはずです。
米国の要求であれば、成り立たないことが明らかでも、空虚な理屈を平気で繰り返す―。ここに、首相の対米追従ぶりの異常さがあらわれています。
「日本経済は企業収益が改善し、設備投資が増加するなど、着実に回復している」。首相の声が本会議場にむなしく響きます。景気「回復」の恩恵は史上最高益をあげ続ける大企業が享受しているだけです。いくら「構造改革の成果」を自画自賛しても、国民や中小企業が景気回復を実感できない状況は変わっていません。
施政方針には「若者と高齢者が支え合い国民が安心して暮らすことができる社会保障制度の構築」との表現もありました。しかし、来年度予算案は、これまで決まっている約四兆円の国民負担増(平年度)に加え、年金制度改悪などにより、二年後の二〇〇六年度までに、さらに約三兆円(同)の新たな負担を強いるもので、「安心」とは無縁な内容です。負担増計画の一端をみると…。
――年金給付額を連続して引き下げる一方、厚生年金保険料率を今年十月から毎年0・354%(労使折半)ずつ引き上げ、一七年度には18・35に。
――「消費税を18%に」などと主張する財界の要求に呼応し、自民、公明両党は「消費税を含む抜本的税制改革を実現する」とする来年度税制「改正」大綱で合意。
首相は「改革の芽を大きな木に育て」ると強調しました。しかし、それは暮らしに深刻な影を落とす「大きな木」になることは間違いありません。
「これまで困難とされてきた改革を具体化し、日本再生の歩みを確実にする」。小泉首相はこういって「郵政事業や道路公団の民営化」「地方分権をすすめる三位一体の改革」「年金改革」などをあげました。
しかし、「構造改革」路線が国民にとっては改悪でしかないことは、いまや歴然としています。
たとえば、道路公団民営化では、ムダな高速道路計画を見直しもせず、税金を投入してでも全路線を建設することを決めました。古い自民党政治の浪費と利権構造を温存・拡大する以外の何物でもありません。だから首相肝いりの民営化推進委員でさえ抗議の辞任をせざるを得なかったのです。
「三位一体改革」でやろうとしているのも「地方分権」とは名ばかりです。自治体への国の財政支出を減らし、住民サービスの後退をもたらす地方の切り捨てそのものです。全国の知事から「税源の移譲」「地方交付税の堅持」を求める声がわき起こっているのは当然のことです。
ところが首相は、墨子の言葉を引用し、国民の非難など気にしないで「構造改革」路線を突き進む考えを表明しました。
小泉「改革」の底が割れてもなお、破たんした「構造改革」路線を突きすすむ本性だけがむきだしです。党大会では支持基盤の離反をつなぎとめる方針を打ち出した自民党ですが、これでは国民との矛盾を拡大させ、自民党政治の行き詰まりをいっそう深刻にせざるをえません。
小泉首相は冒頭、中国の孟子の「天の将(まさ)に大任をこの人にくださんとするや、必ずまずその心志を苦しめ、その筋骨を労せしむ」との言葉を引き、結びにも、墨子の「義を為すは、毀(そしり)を避け誉(ほまれ)に就くに非ず」の言葉を引用しました。
孟子の引用は“大任に苦労はつきものだ”、墨子のほうは“批判されようが気にするな”という意味です。
昨年の施政方針では、「改革は途半ばにあり、成果が明確に現れるまでには、今しばらく時間が必要です」と小泉「改革」路線の破たんを認めました。その時以上に破たんがあらわになったもとでも、国民の苦しみや声など無視して突き進もうというのです。
ちなみに、墨子は戦国時代に「兼愛」(博愛)と「非攻」(非戦)を説き、弱者の味方になって城を守り、有名な「墨守(ぼくしゅ)」の言葉を残しました。
かたや小泉首相は、弱いものいじめの「構造改革」路線をすすめ、アメリカの侵略戦争と占領支配に加担するために、イラクに自衛隊を派兵しようとしています。墨子のいう「義を為す」とは正反対のことをやっているのです。その首相が墨子を引用するとは、ご都合主義もいいところです。