2004年1月13日(火)「しんぶん赤旗」
国立大学の法人化をめぐって、予算削減をはじめ重大な諸問題が浮上しています。
昨年七月に成立した国立大学法人法の国会審議で、大学への国の統制を強めながら財政負担は弱める悪法であることが浮きぼりになり、そうした弊害への配慮から一定の歯止めとなる数多くの国会答弁や附帯決議がおこなわれました。これを厳格に守ることは、立法府に対する政府の重い責任であり、法人化にあたっての前提条件です。
ところが、今年四月からの法人化を前に、政府は国会答弁や附帯決議をじゅうりんして、国立大学の存立をおびやかす計画を次々にくわだてています。
その最たるものは、運営費交付金の一律削減計画です。
政府は国会などで法人化の目的を“財政削減のためではなく大学改革の一環”と説明していました。附帯決議には「大学の教育研究機関としての本質が損なわれることのないよう、国立大学法人と独立行政法人の違いに十分留意する」、「法人化前の公費投入額を十分確保」することが盛りこまれました。
ところが、政府は、国立大学法人の二〇〇五年度以降の運営費交付金を、既存の独立行政法人と同様に「裁量的経費」として扱い、「効率化」「経営改善」などの名目で毎年一律に削減する算定ルールを決めようとしています。文部科学省は、これを一月中には決定し、各大学が作成する中期計画原案に反映させるとしています。
算定ルールの主なものは、各大学の予算に毎年、一般管理費の3%と教育研究費の1%の削減、附属病院収入は2%の増収を義務づけ、それらの分を交付金から削減するというものです。文科省の説明をもとに試算すると、五年間で一千億円を超える削減になります。これは法人化初年度(二〇〇四年度)の交付金総額の一割近い額にあたります。一方で、時限的な事業費などの項目で交付金の増額もめざすとしていますが、これは毎年の予算編成時に政府の裁量で決まるため、必ず増えるとは限りません。
この計画が執行されれば、国立大学の中期計画が大きくゆがめられます。五年間にわたって交付金削減がつづけば教育研究基盤が深刻な打撃をうけ、基礎研究の後退や教職員のリストラ、学費値上げを引き起こすことは必至です。規模の小さい大学では存続にかかわる死活問題となります。とりわけ、「教育研究の効率化」による経費削減を求めることは、附帯決議に反するだけでなく、法人法第三条の「教育研究の特性に常に配慮する義務」に反する疑いさえあります。
国立大学協会は、昨年十二月六日に河村文科相に提出した要望書で、「貴省の大学関係者への説明や国会審議での貴省答弁とは全く異なる内容」であることに抗議し、学長指名の返上を含む「重大な決意」を表明して、大臣の対応を求めました。マスメディアからも「財務、文科両省はそういう国会の意思を余りに軽んじてはいないか」(「朝日」十二月二十九日付社説)との指摘がなされています。政府はこれらの声を重くうけとめるべきです。
さらに重大なことは、大学の中期目標や評価に数値基準を導入し、それにもとづいて大学の改廃・民営化さえおこなおうとしていることです。
附帯決議は、法人化のもとでも大学の自主性を最大限尊重するため、「中期目標原案の変更は、財政上の理由など真にやむを得ない場合に限る」、「国立大学法人等の主要な事務・事業の改廃勧告については…各大学の大学本体や学部等の具体的な組織の改廃、個々の教育研究活動については言及しない」としていました。
ところが、政府の総合規制改革会議は、「規制改革の推進に関する第三次答申」(十二月二十二日)で、国立大学法人の中期目標・中期計画が「数値目標の設定等も含め、可能な限り具体的なものとなるよう…評価基準を明確化する」ことを求めています。さらに、中期目標期間(六年)終了後の評価の結果、「十分な機能・役割を果たしていない」とされた大学を改廃、民営化することまで提言しています。文科省の国立大学法人評価委員会が意見を示し、各大学が昨年九月に提出した中期目標素案の見直しを行うよう文科省に対応を求めたことも、これと軌を一にしたものです。
政府のねらいは、「効率化」を名目に大学法人の予算を一律に削る一方、数値による評価をおしつけ、その結果、立ち行かない大学を統廃合するか民営化しようとするものであり、わが国の学術研究と高等教育に対する国の責任を放棄するものです。そのため、「制約」となる一連の政府答弁・国会決議を、なし崩し的にじゅうりんしようとしているのです。これを許すかどうかは、法人化後の大学運営のあり方を大きく左右するといって過言ではありません。
いま、多くの国立大学で、法人化に際して大学の自治と教職員の雇用・権利を守り発展させるとりくみがすすめられています。「学内対話重視」を主張する学長の選出や、教職員の組合加入などもひろがっています。これをいっそう前進させるとりくみと結びつけて、予算削減計画の撤回、中期目標原案づくりへの不当な介入の中止を求める新たなたたかいを全国でひろげることが必要です。
(かいしょう みつる・党学術・文化委員会事務局次長)