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2020年6月2日(火)

主張

科学技術法改定案

研究基盤の崩れ深刻化の危険

 安倍晋三内閣が提出した科学技術基本法改定案が1日、衆院科学技術特別委員会で、日本共産党以外の賛成多数で可決されました。改定案には、基本法を根本的に変質させるとして研究者らから懸念の声が相次いでいます。わずかの審議で推し進めてはなりません。

基本法の根本的変質

 今回の改定は、現行法の「科学技術の振興」に「研究開発の成果の実用化によるイノベーションの創出の振興」を加えるなどが柱です。法律名も「科学技術・イノベーション基本法」に変わります。

 現行の科学技術基本法は、1995年に全会一致で成立した議員立法で、科学技術振興の理念・原則、方針を定めています。第5条は、基礎研究の推進における国の役割の重要性を規定しています。

 当時の提案者の尾身幸次・自民党衆院議員は、基礎研究は「営利を目的とする企業に多くを期待することは困難であり、大学、国立試験研究機関等の公的部門が果たす役割が重要」と強調し、「基礎研究を重点にして、科学技術全体のレベルアップを図っていく」(『科学技術立国論』)と基本法の眼目を語っていました。

 ところが、政府はこの25年間、目先の経済的利益につながる研究に集中投資するための「選択と集中」政策を推進し、基礎研究を軽視してきました。科学技術関係予算を24%増やしましたが、国が審査し、配分先を決める競争的資金の割合を6%から12%に倍増する一方で、公的研究機関の研究開発費は、基本法制定前よりも218億円減らしています(2017年)。国立大学の運営費交付金は04年の法人化後、約1400億円も削減し、基礎研究をないがしろにしてきました。質の高い論文数の日本の順位は4位から9位に後退し、「研究力の低下」といわれる深刻な事態を招いています。

 安倍政権は、こうした失敗に反省がありません。基本法改定で、経済的利益をもたらす「イノベーションの創出」をすえようというのがその表れです。「イノベーションの創出」につながらない基礎研究の振興がさらに弱められかねません。改定案が、法律に書かれた振興策に沿って活動する「責務」を大学などに課すとしていることは、大学の自主性・自律性を損なう危険があります。

 安倍政権は、大学などに企業からの投資を25年までに3倍増にする目標を押し付けています。こうした目標の達成が「責務」として基本法で位置付けられれば、企業からの投資を増やす圧力が強まり、大学は企業が望む研究課題を優先し、すぐに成果の出ない基礎研究は後景に押しやられます。

 改定案が、これまで振興対象から除いていた人文・社会科学を対象とすることにも懸念があります。人文・社会科学が「イノベーションの創出」の手段とされるなら、現在の人間と社会のあり方を相対化し、批判的に省察するという本来の役割が失われかねません。

学術全体の振興こそ

 基本法制定時の原点に返り、人文・社会科学系も含めて、学術全体への振興を強めるために、大学や公的研究機関への基盤的経費を抜本的に増額することこそ、国の責務です。それなしには、新たな知識を生かした文化的・経済的・社会的・公共的な価値の創出を望むことはできません。


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