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2020年4月15日(水)

介護保険20年 現場から 基盤崩壊の危機

感染防止と補償を早く

国対策 布マスク1枚だけ

 「介護の社会化」をとなえて介護保険制度が2000年4月に施行されて20年。いま、介護報酬の度重なる引き下げが介護職員の低賃金を招き、慢性的な人手不足で介護サービス基盤が大きく揺らぐ事態となっています。そこへ新型コロナ感染症が直撃。「このままでは介護崩壊が決定的になる」。現場は強い危機感に覆われています。(内藤真己子)


通所休止 代替困難

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(写真)「NPOわかば」の辻本きく夫理事長

 新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するためとして緊急事態宣言が7日発出された東京都。「世田谷区の感染者は最多でしょ。戦々恐々です」。同区で訪問介護や居宅介護支援(ケアプラン作成)事業などをおこなう「NPOわかば」の辻本きく夫理事長は、声を落としました。

 隣接する目黒区内の通所リハビリ事業所が職員の感染で3月末から休止しています。利用者に「わかば」が介護のケアプランを担当する人がいました。

 厚生労働省は介護事業所が休業した場合、ケアプランをつくる居宅介護支援事業所を中心に代替サービスを検討・提供するよう求めています。「休止が長引いたら対応が必要になります。しかし代替しようにも、どこの訪問介護事業所もヘルパー不足でプラスアルファの対応能力はありません」と辻本さん。

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(写真)マスク不足が深刻な中、利用者と一緒にマスクを作るホームヘルパー(右)=11日、京都市北区(介護事業所提供)

 ホームヘルパーは深刻な人手不足です。有効求人倍率は19年平均で14・75倍(厚生労働省集計)を記録。1人のヘルパーに14以上の事業所から求人が来る状況です。全職業平均1・45倍(同年)の10倍以上。訪問介護事業所の82%がヘルパーの不足を訴えています(18年度介護労働実態調査)。

 辻本さんの事業所もヘルパー確保に悩み、5月から無資格者を雇用し有給で資格研修を受講させて働いてもらう予定でした。しかし感染拡大で資格研修は実施未定に。「医療崩壊が危惧されていますが、介護はさらに基盤が脆弱(ぜいじゃく)です。コロナで利用者も事業所も決定的なダメージを受ける可能性が高い」と辻本さん。

 都は緊急事態宣言のもとでも介護サービスに休止要請をしていません。しかし「宣言」後、休止する事業所が急増し、13日現在、77事業所に広がっています。

 足立区内のある通所リハビリ事業所も宣言後休止に。同区で介護サービスの調整を行う居宅介護支援事業所「ケアサポートセンター千住」は、休止でサービスが利用できなくなる6人の利用者の対応に追われました。

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(写真)石田美恵所長

 「通所サービスが唯一の入浴の機会なので入浴をどう確保するかが一番の課題でした」と石田美恵所長。利用者の多くは80~90代の独居。介護の必要度が重い2人は系列病院に入院してもらうことにしました。家族が来て入浴させることができる人もいましたが、1人でシャワーを浴びるだけにせざるを得なかった人もいます。

 「職員の訪問で代替する通所リハビリもありますが入浴がどうなるのか。訪問入浴サービスは少ないですし、訪問介護に切り替えようにも対応できる事業所がない」。石田さんは苦悩しています。

エプロン・防護服も

 いま、新型コロナウイルス感染拡大のなか、在宅介護の最前線で命と向き合う訪問介護事業所は、高い緊張を強いられています。近隣の大学でクラスター(集団感染)が発生した京都市上京区の総合ケアステーション「わかば」。管理者の谷口賢治さんは「訪問介護は買い物代行や通院介助など人との接触が多く感染リスクも高い。利用者さんと距離をとることもできません。生活を守るためにサービスは続けたいですが、いまの状態で感染防止ができるのか、すごく心配です」と不安を隠しません。

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(写真)管理者の谷口賢治さん

 厚労省は訪問介護について利用者に発熱等の症状があっても感染防止対策をとり「必要なサービスが継続的に提供されることが重要」と通知しています。「わかば」では11人のヘルパーに出勤前の検温、訪問前後の手洗い・消毒を徹底しています。「でも国から配られたのは1人1枚の布マスクだけ。どうしろと言うんですか」。谷口さんは語気を強めます。サージカルマスクは底がつき、1日1枚のヘルパーへの支給が1週間で1枚となりました。消毒薬もいつまでもつか分かりません。

 「感染の疑いがある利用者にもサービス提供をいうなら、国は最低サージカルマスクや使い捨てエプロン、防護服、消毒薬を用意するべきです。そもそも訪問介護事業所は赤字。普段使わない防護服まで備えていません」と谷口さんは訴えます。

2割減収 展望なく

 感染拡大は事業所の経営悪化を招いています。同市中京区で訪問介護事業をする一般社団法人「和音ねっと」は消毒薬などの支出が2カ月で5万円と5倍増。ネットを使った業務の増加を見越してパソコンのソフトをバージョンアップすると、15万円以上の出費となりました。そのうえ感染を恐れた「利用控え」も相次ぎ、減収になりました。

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(写真)代表理事の櫻庭葉子さん

 5割が60歳以上と高齢化が進むヘルパー(同労働実態調査)の不足にも拍車がかかります。同事業所は呼吸器疾患の既往歴がある60代後半の登録ヘルパー(非正規)を、感染した場合に重篤化する恐れがあるため休ませました。国の通知に従う措置ですが休業補償に苦慮しています。「年金が少ないから働いているのに、十分な補償ができないのがつらい」。代表理事の櫻庭葉子さんは暗い表情です。

 一方、緊急事態宣言が発出された大阪市。西淀川区の老人保健施設「よどの里」併設の通所リハビリでは、普段の2倍の、利用者の「お休み」=「利用控え」が出ています。「コロナが心配やと休むと言う人が増えている」と事務長の辰巳徳子さん。

 感染防止対策をとると国が定める介護報酬のランクが下がって、減収になる問題も深刻です。厚労省は「可能な限り同じ時間帯、同じ場所での実施人数を減らす」よう通知。従うと1人当たりのサービス提供時間の短縮を余儀なくされます。「利用控え」のうえに介護報酬のランクダウンで、約2割の減収が見込まれます。

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(写真)事務長の辰巳徳子さん

 同事業所も加盟する全日本民主医療機関連合会の調査では、全国の加盟事業所で1~2割の減収が出ています。

 辰巳さんは「うちは施設が古いので修繕費用を計上すると赤字経営です。2割も減収になれば事業継続の展望が持てません。介護の基盤を守るため国には必ず補償をしていただきたい」と話します。

「崩壊」が現実に

 介護事業所の倒産件数は19年、過去最多と並ぶ111件でした。そのうち訪問介護事業所は58件で、過半数を占めました(東京商工リサーチ)。

 前出の櫻庭さんは「京都市内でもヘルパー事業所の閉鎖が相次いでいます。そこへ新型コロナ感染症。うちみたいは小さな事業所は職員に1人でも感染者が出たら、もたない」と嘆きます。「国は感染防止対策も減収も全部、事業者に押し付けています。これでは倒れる事業者がバタバタ出て、結局、利用者がサービスを使えなくなる。『介護崩壊』が現実になります」。訪問介護に従事して20年余、櫻庭さんの重い警告です。


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