2004年1月8日(木)「しんぶん赤旗」
「夜から翌朝まで勤務し、その日の夜また勤務に入る。それを四回繰り返しなさい」−こんな勤務を命じられたら、体はどうなりますか。二月から、実際にこうした勤務が全国の郵便局に導入されようとしています。 原田浩一朗記者
日本郵政公社が各郵便局の労働者に示した勤務パターンがあります。日本最大の郵便のセンター、新東京郵便局(東京都江東区)の第一普通郵便課の労働者が目をむきました。
「深夜勤」という泊まり勤務が新しくつくられ、午後七時半から翌朝午前六時半まで、もしくは午後九時半から翌朝午前八時半までの十時間、勤務します(図1)。現場の労働者たちは、現行の深夜勤務と区別して「ふかやきん」などとよんでいます。
勤務が明ければ、その日は勤務から解放されるのが普通の夜勤システムです。ところが「深夜勤」では、明けの日の夜もまた泊まり勤務に入るのです。これを最大で四夜繰り返します。
昼夜逆転した一週間が終わると、次の週は泊まりのない勤務が一週間つづき、次はまた昼夜逆転した一週間です。
悲惨なのが遠距離通勤者です。
栃木県内に住む労働者はいいます。「たとえば午前八時半に勤務が明けて、帰宅するのが正午近く。昼飯か朝飯かわからない食事をとって、午後二時に眠ったとして、夕方六時には起きて出勤。四時間ぐらいしか眠れない。夕食は出勤途中の電車の中でとるしかないな。これでは死んでしまうよ」
職場では、「とても体がもたない。定年まで間があるけど、退職させてもらう」という労働者が何人も出ています。
「いまの夜勤でさえ過酷だ」という労働者たち。一九九四年に導入された現行の「新(ニュー)夜勤」は、当時から、健康を破壊するとして大問題になってきました。
新東京郵便局の第一普通郵便課のAさんの勤務パターンを例にとると、午後五時二十分から翌朝午前九時三十分までの十四時間勤務です。間に七十分から八十五分間の無給の中断時間を含んで、二時間十分の「仮眠時間」が取れるとされています。
「新夜勤」は過酷なため、四週間に五回以内とし、勤務明けの翌日は、極力週休ないし勤務のない非番日とすることになっていました。(図2)
「実際には、まともな仮眠などとれない。勤務明けはとにかく眠い」という労働者が多く、「昼間はなかなか眠れず、アルコールの力を借りる」「昼間はいろんな音が聞こえてくる。電話も、セールスもきて、何度も起こされる」と訴えます。
健康破壊は深刻です。新夜勤制度導入から十年間で、全国で百人以上の在職死亡が出ています。
こんなひどい夜勤体制を、さらに改悪したのが、今度の「深夜勤」です。いまの夜勤から仮眠時間を省いて、拘束時間を短くし、四夜連続させるという、非人間的なものです。
どうしてこんな過酷な勤務を導入しようとしているのでしょうか。
昨年四月にスタートした日本郵政公社は、「郵政三事業の民営化」を政権公約に掲げる小泉首相のもと、公社の総裁に民間会社経営者である生田正治氏(商船三井会長)をすえて、当面の経営計画である「アクションプラン」を進めています。
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当面の二年間で目標を達成するとしたもので、「民間的経営手法を取り入れ、郵便・郵便貯金・簡易保険の三事業を各々独立採算的に成り立つようにし、公社の健全経営を実現する」ことを強調。とくに、「赤字」という郵便事業の「黒字化」をめざしています。郵便事業に携わる十二万六千五百人の職員を、二年間で一万二千二百人減らし、人件費を六百億円減らす計画です。
その一方、「最高水準のサービスと品質で小包もダイレクトメールも市場を拡大する」としています。
大幅な人減らしで、これまで以上の業務を遂行する−。このために「効率的な服務方法(勤務時間の見直し)」として、殺人的な勤務を労働者に押しつけているのです。
モデルは、「乾いたぞうきんをさらに絞る」といわれるトヨタ方式です。人間をロボットのようにムダのない動作で働かせ、限りなく少ない人数で作業を遂行させるやり方です。
トヨタの社員七人が二〇〇三年一月、埼玉県越谷郵便局に派遣され、ストップウオッチとビデオカメラで職場をチェックしました。「座るのはムダ。イスをなくせ」「机上に輪ゴムが散乱、動作にムダが多い」などと、四百八十項目の改善点を指摘し、徹底的な「効率化」をはかっています。
生田総裁は、「トヨタ方式の基本理念は人間性の尊重です」と公言しています。
郵産労新東京郵便局支部の橋本忠委員長は、「この服務規定の改悪は、全国の三百二十局の二万人の労働者を直撃します。“昼間働き、夜眠る”という人間の生理を無視し、文字通り命と健康を奪うもの。家庭を崩壊させ、社会生活もままならなくする。絶対に反対です」と話しています。