2004年1月7日(水)「しんぶん赤旗」
緒方 日朝交渉そのものが、あらゆる問題をテーブルにということで始まったものですが、一昨年(二〇〇二年)十月、ケリー米国務次官補が訪朝したときの話し合いのなかで、北朝鮮が核兵器の開発をすすめている、という状況が表に出て、そこから、北朝鮮の核問題が大きな国際的焦点となってきました。そこで、その解決のために、いろいろなイニシアチブがとられた結果、昨年四月に北京で三カ国協議(中国、アメリカ、北朝鮮)がおこなわれ、八月にはそれが日本、韓国、ロシアが加わった六カ国協議に発展しました。
いま二回目の六カ国協議が準備されつつあるところですが、日本外交の立場から、この六カ国協議を見るのに、どのような視点が大事でしょうか。
不破 日本から言えば、日朝間でこの四年来やってきた“交渉で諸問題の解決”という路線が、国際的な広がりをもった新しい局面に入った、という位置づけが大事だと思いますね。
しかも、その国際協議に、北朝鮮と韓国、日本と中国、ロシアとアメリカがそろって加わったというのは、たいへん画期的なことです。ここには、北東アジアの安定と平和にかかわるすべての国が参加しているわけですから。
協議の前途はなかなか複雑な状況があり、その成否を簡単に予測することはできません。しかし、この六カ国協議を通じて、北朝鮮の核問題が道理ある解決に到達したら、その成果が朝鮮問題で画期的な意義をもつことはもちろん、より広く、北東アジアの平和という問題についても重要な足掛かりを残すことは間違いありません。そういう意味で、この地域の平和と安定の新しい枠組みを生み出すという問題でも、発展的な可能性を持つと言えるでしょう。もちろん、いま言えることは、潜在的な可能性の域を出ませんけどね。
北朝鮮問題の解決についても、いちばん対立的な立場にあるのが、アメリカ対北朝鮮ですが、枠組みが六カ国になっていて、どちらかの側に対立を先鋭化する状況が現れた時には、四カ国が調整役になったり、対立をそれ以上鋭くしないで解決できる出口を探究したりできる。いわば六カ国協議という仕組みそのものが、難しい問題の解決策を着実に探究するための枠組みを提供している、とも言えます。
不破 経過と動きを見ていると、参加国のそれぞれがなかなかユニークな役割を果たしていますよ。
――会議の舞台は北京だし、中国の役割には、特別なものがありますね。
不破 中国が、この問題で新たな積極外交に踏み出した様子が、はっきり現れていますね。最初に八月の六カ国協議のときにも、中国の二人の外務次官、戴秉国さんと王毅さんが、各国を走り回って準備にあたったことが目立ちましたね。二回目の会議の準備にあたっても、アメリカと北朝鮮のあいだで一致点を探る中心にいます。
私たちが、中国共産党との関係を正常化したのは六年前の一九九八年だったのですが、それから外交問題で話し合ってきた経過からいっても、こういう問題の国際的な解決のために、中国がこれだけ乗り出す、というところには、中国外交の大きな転換を感じますね。
緒方 一昨年、不破さんが中国を訪問したとき、唐家=外相(当時)が、中国は国力からいってまだ国際舞台で正面にたつ状況にないということを、中国の歴史上の故事を引きながら解説しましたよね。
不破 ええ。その四年前に、正常化のあと最初に訪問したときにも、「文化大革命」の混乱を抜け出して以来、外交的な突出を避けることを基本にしてきたということは、何回も聞いてきたことです。
しかし、一昨年の訪問のときは、そういうなかで、議論を積み重ね、私と江沢民総書記(当時)との首脳会談で、アメリカのイラク攻撃に反対する立場を公然と打ち出した。世界の平和の危機に直面して、大きく足を踏み出したものでした。それ以後、フランス、ロシアと組んで、国連でイラク戦争反対の共同声明を出すなど、国際舞台での外交活動の展開ぶりは、きわだったものでした。
緒方 国連で三国共同声明が出たとき、フランス大使館の人に話したら、そのニュースをまだ聞いていないで、「中国が共同声明に加わるはずはない」と頑張るんです。あとで、「本国に照会したら、あなたのいう通りだった。あなた方の的確な情報活動を評価する」というていねいな電話をくれました。
不破 その中国が、今度は、北朝鮮問題で踏み出した。この転換の意味の大きさは、私たちも、これまでの交流の経験からよく分かるのですが、関係諸国は、それぞれなりに、中国の果たす役割の重要性をみんな知っているのですね。
緒方 「一国主義」を大いに主張しているアメリカが、北朝鮮問題では、六カ国協議に加わって、多国間協議のなかで問題解決をめざしている、ということも、注目すべき点ですね。アメリカの当局者の説明を読んでも、受け身での対応ではなく、アメリカはアメリカなりに、詳しい戦略的な検討をおこなった上で、六カ国協議の推進という立場をとっているんですね。
不破 ロシアの参加も大事なんですよ。ロシアと北朝鮮のあいだには、経済的にもかなり密接な関係があるでしょう。いわば北朝鮮が国境を接するすべての国が参加している協議ですから、この協議の枠組みを、北朝鮮の側から道理のないやり方で壊したとなると、まわりのすべての国との関係を壊すことにもなりかねない、客観的にいって、こういう枠組みになっています。
緒方 韓国は、北朝鮮の問題だから、同族国家として、中心の役割を果たすべきだと思われがちですが、それだけに意識して自制しているようなところがあります。全体の状況をよく心得て対応しています。
このように、六カ国協議では、各国とも、それぞれがある種の役割分担をし、そのなかで、日・米・韓の協議といった個別のつながりも、多角的にすすめながら、ことにあたろうとしている。
この六カ国協議が、時間がかかっても、北朝鮮問題の解決に成功したら、最初に不破さんが大きな展望として述べたように、その枠組みが、北東アジアという単位での平和と安定のために働くものに発展してゆく可能性がある、私も、こういう印象をもちますね。
――六カ国協議では、核問題と拉致問題との関係が、問題にされますが、これは、どう考えたらよいですか。
不破 見方としては、いくつかの点が大事でしょうね。
一つは、核問題の位置づけです。マスメディアなどでも、核問題は、国際的なおつきあいの課題、拉致問題が日本独自の課題という仕分けで、二つのことの関連を論じている場面に、ときどき出合いますが、この仕分けには、たいへんな間違いがあるんですね。
核問題というのは、北朝鮮問題のなかでも、日本にとっていちばん切実な問題の一つなんです。今日も、北朝鮮問題の政治解決がいつ緊急課題として日程にのぼってきたか、ということをふりかえりましたが、一九九八年のテポドン発射をめぐる緊張でした。
これは、その時だけの一時的な問題ではありません。最近も、小泉内閣は、アメリカのミサイル防衛に参加する方針を決めて、内外の批判を浴びていますが、そういうときには必ず、北朝鮮のミサイルの脅威への対抗措置だということを、理由づけの根拠にします。政府や防衛庁のこういう見方から言っても、北朝鮮の核問題が解決されることは、日本の平和と安定を確保するもっとも重大な条件の一つなんです。これが解決されるということは、北朝鮮のミサイルの脅威なるものを大もとから取り除く国際的な枠組みとその保障ができる、ということですから、北東アジアという地域の、日本の平和にとっての環境条件が、大きく変わってくることは、間違いありません。
――なるほど。
不破 ですから、この問題を、国際的なおつきあいの課題などと見るのは、とんでもない見当違いなんですね。核問題で筋の通った解決に成功すれば、それは、拉致問題をはじめ、ほかの問題の解決への有利な環境づくりとなる、と思います。
不破 もう一つは、拉致問題が、どういう意味で国際的な性格をもっているかを、よく見ることが大事です。はじめに、三つの目標のところで話しましたが、北朝鮮が国際社会に安定した形で復帰するためには、これまでの国際的な無法行為の清算は、避けるわけにゆかない条件となります。そして、そのことは、北朝鮮の安全保障にとっても、なによりも重要なことなんです。
北朝鮮は、核武装が安全保障の決め手だと決め込んでいるようですが、私たちは、どんな国にとっても、安全保障のまず第一の条件は、まわりの国ぐにと信頼できる平和・友好の関係を確立すること、国際社会で、ルールを守る、信頼できる国だと評価される地位を築くことにある、と考えています。国際社会から、あの国は、ルールを守らない、無法な国だと見られている状態にあるということは、自分の国を外国からいちばん攻撃されやすい状態におくことにほかなりません。
北朝鮮が日本とのあいだで拉致問題を責任をもって解決する、ということは、北朝鮮自身が、国際的な無法行為の清算という点で、大きな一歩を踏み出すことになります。そして、そのことは、北東アジアの安定と平和の確立という大目標にとっても、重要な貢献になりうるものです。
拉致問題について各国の理解と協力を求めるという場合にも、この点の理解を求めることが、私はいちばん大事だと思います。日本の国民の切望だから応援してくれ、というだけでは足りないんですね。
拉致問題の解決が、北東アジアの平和という大目標にこういう形で役立つんだという理解を広げながら、そういう問題として、必要で適切な支援・協力を国際的にも求める、この筋道が大事ではないでしょうか。
不破 私たち自身としては、たとえば、いま六カ国協議に参加している諸国のなかで、政権党と私たちが関係をもっているのは、中国だけですが、その中国とのあいだでは、いま述べたような形で、拉致問題の国際的性格について、機会あるごとに提起してきました。
緒方 そうですね。一昨年八月の不破さんの訪問のとき、国際的な無法行為の清算という話をしたことは、最初に出ましたが、昨年八月の私の訪問のときには、実際の展開が進んでいましたから、拉致問題の解決がどんな国際的な意味をもっているかについて、かなり突っ込んで話しました。これらの問題提起は、新鮮に受け止められた感じがします。
不破 六カ国協議の場で、こういう問題をどう関連づけて提起するかということは、交渉のやり方の問題ですが、私たちが関係各国に要望したいのは、問題の性格をよくのみこんで、適切に対処してほしい、ということですね。
北朝鮮問題の解決は、日本の前途にもかかわる日本外交の今年の重要な課題です。私たちも、六カ国協議の推移を注意深く見守りながら、ひきつづき必要な努力をしてゆきたい、と思います。(おわり)