2004年1月3日(土)「しんぶん赤旗」
消費税増税や賃金のベースダウンまで打ち出した財界総本山・日本経団連で会長を務める奥田硯氏のおひざ元、トヨタ自動車(愛知県豊田市、奥田会長)。同社で働く日本共産党の党員、後援会員たちは、「財界の攻撃をはねかえし、労働者のくらしと健康を守るたたかいを前進させて、参院選勝利の年に」と、新春早々意気高くうってでようと計画しています。(畠山かほる記者)
「職場では『生活が厳しい。会社がこれだけもうけているんだから賃上げを』の声が強い」「三割を超える期間従業員や派遣労働者の無権利状態の改善が必要だ」「健康問題も重視しよう」…。年の瀬も押しつまった昨年十二月二十八日、日本共産党トヨタ自動車委員会のメンバーが集まり、仕事始めの六日に配布・宣伝する職場新聞「ワイパー」づくりをすすめました。
「共産党のみんながいってた通りになってるなぁ」。高岡工場で働く八ケ代亘さん(56)は、最近同僚からこんな声をかけられました。違法なサービス残業(ただ働き)や長時間労働、安全問題で「ルールを守れ」と長年声をあげてきた党委員会の主張に、出退勤時間のIC記録機を設置したり、「働いた分はすべて申告してください」と報告するなど、会社が本腰を入れてとりくむようになったからです。
愛知県豊田市は、トヨタ本社(研究開発部門含む)と国内十二工場中十工場が集中する最強の“企業城下町”です。先の衆院選で日本共産党は、豊田市と周辺町村で構成する愛知十一区(小選挙区)で前回参院選の選挙区票を二・一倍にする二万千百七十九票を獲得。小選挙区制導入以降最高の得票で、初めて得票率が一割を超え、比例得票も一・三倍に広げています。
こうした変化の背景には、財界戦略の先取りをすすめてきたトヨタの労働者支配にたいし、労働者の声を束ねてたたかい続けてきた日本共産党組織の存在がありました。
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昨年末のクリスマスシーズン。トヨタ自動車の社員全員の家庭にクリスマスカードが届きました。差出人は、張富士夫社長です。
カードを開くと、緑色の縁取りに「一年間ご苦労様でした」とねぎらいの言葉があり、「従業員ご本人とご家族の皆さまへ」と書かれています。社員全員を対象に社長からクリスマスカードが届くのは、一昨年に続いて二度目です。会社は、なぜこんな気遣いをみせるのか。トヨタの職場には、大きな矛盾が横たわっていました。
「非常識への挑戦」。トヨタは一昨年から、こんな言葉で激しいコスト削減に労働者を駆り立てています。二〇〇三年三月までの三年間におこなった原価低減活動では、七千五百億円の削減を実現。現在実施中の「BT2」(ブレイクスルー・トヨタ)は、二、三年間で国内全工場で平均20─30%のコスト削減を実施する戦略です。50%減が打ち出された部門も。
「乾いたぞうきんを搾る」といわれてきたトヨタ。「真冬に半そでシャツを着て窓を開けっぱなしで作業しても汗が出る」と、組み立て工程の労働者は仕事の過酷さを語ります。
ある製造職場では、今後人員を23%削減し生産台数は23%増やすとしています。160%の労働強化を強いる計算です。
「トヨタはいつでも仕事がきつい。少々仕事が増えても人を増やさない、減れば人を削るから」。元町工場で働く男性は実感を込めて語りました。需要の増減とコスト削減に活用されるのが、期間従業員と派遣労働者です。昨年期間従業員は過去最高の八千人、今年は九千人に達する見込みです。
トヨタはこうして、史上最高のもうけ(連結経常利益)を連続更新してきました。〇二年三月期決算で日本企業初の一兆円を超え、〇三年は一兆四千億円と大幅増。今年もさらにのばす勢いです。
ところが、賃金を引き上げるベースアップはこの二年間なく、〇四春闘も流れはベアゼロです。労働者が必死にがんばって、どんなにもうけをあげても、“賃上げはやらない”というのがトヨタの方針です。かつてのように、“生産性向上に協力すれば労働条件がよくなる”といって、わずかな賃上げでごまかす気すらありません。
これでは労働者の士気の低下が心配。そこで社長のクリスマスカードで社員と家族の気を引こうという作戦に出ました。賃上げよりはるかに安上がりです。
同時に、トヨタの労働者支配に一役かっているのが労働組合です。
「経営側にとって都合のいい、なければ困る存在。まさに労使一体化なんだ」。トヨタ労組についてこう指摘するのは、元課長の男性です。
この言葉どおり、トヨタ労組は〇二春闘でベア千円の要求が拒否されると、ストライキどころか、〇二年の大会で労働組合の立場を投げ捨てるような方針を決定しました。「賃金をはじめとする『基本的労働条件の向上』など『量』の拡大」は求めず、「働き方の『質』の向上など」に取り組んでいくとしています。これは、労働組合にとってもっとも重要な賃金や労働条件の向上を要求せず、企業の労働強化には協力するというものです。方針通り、〇三春闘でベアは要求せず、〇四春闘にむけても同様の考えを示しています。
いまトヨタ労組は、経営側の提案した「処遇制度の見直し」案を職場に徹底しています。賃下げを伴う成果主義を技能職に導入する内容です。
日本経団連が昨年末発表した経営側の〇四春闘指針(「経労委」報告)は、初めて「ベースダウンも対象」「降給もあり得る制度の検討が必要」と真正面から賃下げを提起しました。このために「労使の協力が欠かせない」と強調しています。
トヨタ労資の姿は、その見本といえます。
こうしたなかで労働者は、日本共産党への期待をつよめるとともに、組合に厳しい目をむけています。
先の衆院選挙では、複数のトヨタ社員が「共産党にがんばってもらいたい」とカンパをもって、党委員会事務所に訪ねてきました。本社に勤務する事務・技術部門の五十代男性は、憲法改悪や消費税増税、大企業リストラの問題を通じて「民主と自民の二大政党では会社寄りになるから好ましくない。家族や今後の生活を考えたら、反骨精神のある共産党にがんばってほしいと思った」と語りました。
年末休暇初日の社宅近くを散歩していた事務部門の五十代男性は、「これだけ会社はもうけてるんだから、組合はたまにはストライキでもすりゃいいと思う。みんなそう思ってるよ」と、不満を吐露しました。
職場では、「うちの組合は何のためにあるのか」という批判や「組合のやるべきことを共産党がいってくれている」という声もあがっています。
「大幅賃上げ実現」など労働者の思いを書いた横断幕を持って工場内をたった一人でも行進する姿から“元町の坂本竜馬”と労働者が敬意を込めてよぶ元町工場の若月忠夫さん(56)。若月さんの職場では、組合の春闘提案を全員一致で否決しました。トヨタではめったにないことです。
本社工場で働く党委員長の苫原敏郎さん(56)はいいます。「賃上げを否定しながら、過酷な労働強化だけを強いる会社と、一体になってすすめる組合の方向に未来はない。サービス残業や長時間労働を是正させた力を発展させ、職場の労働者の願いにこたえた活動をいっそうすすめていきたい」