日本共産党

2003年12月31日(水)「しんぶん赤旗」

新潟・巻原発建設計画の断念

長年の住民運動 実結んだ

原発バブルに頼らない町へ


 新潟県巻町に計画されていた巻原発建設で、東北電力が臨時取締役会(二十四日)で正式に計画断念を決めたことで、事実上計画はなくなりました。計画断念に追い込んだのは、一九九六年の住民投票を中心とする長年の住民運動が実を結んだものです。住民運動の経過と住民の思いをたどりました。

(新潟県・村上雲雄記者)


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住民投票で宣伝する「町民会議」の人たち=96年8月、新潟県巻町

 「一生懸命やってきたことが実ってうれしい。子どもたちに正しいことを貫くことの大切さを示せてよかった。この結果に誇りをもっていける。原発問題があって本当の町づくりができなかったが、文化も含めこれからは町づくりに取り組めると思うとうれしい」

 こう語るのは、住民投票でハンドマイクを持って必死に反対を訴えた柿崎恭子さん(45)です。同じく杉山節子さん(57)も「やってきたことが正しかったんだと喜びを実感しています。町民の関心の高い合併問題でも同じように情報をきちんと提供し、住民の意思で決めてほしい」と話します。

布石

 巻原発計画が発表されたのは七一年。計画発表以降、原発反対の運動が続けられながら、旧来の保守的な地盤から決定的変化をつくり出せないでいました。反対運動の布石となったのは九四年八月の町長選。日本共産党も支持した「青い海と緑の会」の相坂功氏が原発反対を掲げ、落選はしたものの22%を得票。この得票は、それまで原発反対の候補が獲得した票の二倍近くでした。このときは、今まで原発反対の声を出さなかった女性や商店主などが選挙活動に参加したり、多くの共感が寄せられました。

転機

 大きな転機になったのは町長選につづき九四年十月から起こった住民投票の動きです。当時の佐藤莞爾町長が原発予定地中心部の町有地を東北電力に売却しようとしていたことにたいし、強引に原発が建設されることに危機感をもった保守的な人も含めた住民有志が「巻原発・住民投票を実行する会」を立ち上げ、

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住民投票勝利で喜びにわく「町民会議」の事務所=96年8月、新潟県巻町

多くの町民が参加しました。

 「実行する会」は十一月に住民投票を町に求めましたが、拒否され、自主管理による住民投票実施に踏み出しました。ここで初めて、巻原発に反対してきた六団体が「住民投票で計画をとめようという一点で共同しよう」と、「住民投票で巻原発をとめる連絡会」を結成し、住民投票運動に合流しました。

 町に公共施設使用を拒否されながらも九五年二月、自主管理の住民投票がおこなわれ、地縁、血縁、企業などの圧力をはねのけて有権者の45%が投票。その結果、有権者の43%にあたる人が反対に投票し、前年夏の町長選で原発推進を掲げて当選した佐藤町長の得票を上回りました。

行動

 こうしたなか、九五年四月におこなわれた町議選では、定数二十二のうち住民投票条例制定を公約した候補が十二人も当選。巻町始まって以来の有権者の意識変化を劇的に示しました。

 主婦の亀山和子さん(63)は「住民があきらめずに自主管理の住民投票に結実させ、エネルギーを引き出したことはすばらしかった。合併問題では、同じように住民が学習して自信をもって結果を出せるようにしたい」と語ります。

 その後、住民投票条例は可決されますが、佐藤町長が実施しようとしないことからリコール運動が始まりました。人口約三万人の同町で一万人余の署名提出のなかで同町長は辞職。九六年一月に町長選がおこなわれ、原発推進派が候補をたてられないなかで「住民投票を実行する会」代表の笹口孝明氏が当選しました。

勝利

 笹口町長のもとで八月に住民投票を実施。東北電力の買収・供応、利益誘導、締め付けと、国も乗り出しての激しい切り崩しがおこなわれました。しかし、投票率が89%に及び、反対が61%(一万二千四百七十八人)を占め、賛成の39%(七千九百四人)を大きく上回りました。

 九九年八月、笹口町長は予定地の町有地を反対派住民に売却しましたが、原発推進派は違法だとして提訴。この十二月十八日、最高裁が推進派の上告を不受理にしたことで敗訴が確定し、裁判は決着、原発建設が不可能になりました。

 漁業を営む巻原発反対町民会議の斉藤六蔵代表は「予定地の地元では、漁業補償などをめぐり住民が対立したり、バラバラになったりした悲劇もあったが、最後は町民が金の力に負けなかったことはすばらしいこと」と強調します。

 日本共産党の竹内文雄町議は「住民自治で自らの命と安全を守り、原発バブルに頼らない町づくりを希望する住民が、一致団結して国の大事業を阻止した画期的な運動です。合併問題では、原発バブルに頼らない自律の町づくりに向けて住民投票を求めていきたい」と語っています。



巻原発をめぐる今日までの動き
1971・5巻町に原発立地説明(非公開)
71・6新潟日報が原発計画スクープ
72・1町漁協「原発反対」を決議
77・12町議会「原発建設同意」を議決
1980・12町長「原発建設同意」を表明
81・11政府の電源開発調整審議会で了承
82・1原子炉設置許可申請
1992・9原発予定地内の墓地が裁判で町有地に確定
94・3佐藤町長が凍結から推進の立場で町長選出馬表明
推進の佐藤町長が3選
10「巻原発・住民投票を実行する会」結成
11原発反対6団体で「住民投票で巻原発をとめる連絡会」結成
1995・2自主管理による住民投票実施、投票率45.4%、反対有権者の43%
町議選、投票条例賛成が12人当選
住民投票条例を制定
11町長リコール署名開始
12リコール署名で最終10231人
12佐藤町長が辞任
1996・1町長選で住民投票早期実施を公約する笹口町長が当選
住民投票で反対が61%
1999・8笹口町長が予定地内の土地を反対派住民に売却、推進派が提訴
2003・12最高裁で推進派の敗訴確定
12東北電力が断念を表明


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