2003年12月28日(日)「しんぶん赤旗」
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「芸術家も人として守られるべきです」。ロシアバレエの世界的名門ボリショイ劇場を“不当解雇”されたプリマ・バレリーナのアナスタシア・バロチコワさんが、自らの舞台に戻れないまま年の瀬を迎えています。解雇無効を求めた裁判では勝ったものの、劇場側は主役の座回復を拒否。バロチコワさんは外国からの誘いに応じざるをえなくなる一方、年明けに向け劇場側を相手に新たな訴えも準備しています。(モスクワで田川実 写真も)
「バレエはキログラムの芸術ではなく、魂の芸術なのです」
勝訴後の十二月初め、モスクワ市内で会見したバロチコワさんは、踊りへの熱い思いと劇場側への憤りを語りました。
バロチコワさんは今年九月半ば、突然劇場を追われました。「アイスの食べ過ぎで体重が増えたから」「練習もすっぽかした」などのうわさが流されました。彼女の雇用契約の期限は七月三十日。ロシアの労働法では、解雇するなら契約が切れる最低三日前に通知する必要がありますが、劇場側はそうせず八月分の給与も払いました。契約は自動更新扱いになり、裁判所はそれを認めました。
「本件はバロチコワ氏のバレリーナとしての評価とはまったく関係ない」(バロフ・労働監督長官)のです。バロチコワさんは、「判決は、ロシアで国家の法律が私たちの権利を守ってくれると期待してもいいということです」と話しました。
「今が人生で一番つらい時期」というバロチコワさんにとって、友人やファンの応援が支えです。「彼女は重くて持ち上げられない」と発言したと伝えられた男性の踊り手も励ましてくれたといいます。練習は一日も欠かしていません。
間もなく判決から一カ月。バレリーナの体重コントロールには議論があります。バロチコワさんは劇団員の地位は回復したものの、主役の座に戻ることは許されていません。本格的な劇場シーズンを迎え、新たな決断を迫られています。
インタファクス通信によると、日本を含む世界ツアーや映画、劇への出演企画について近くロンドンで話し合いをする予定です。
同時に、「国立でありながら国の法律に従わない」劇場責任者を相手取り、精神的苦痛に対する補償を求める新たな訴えを検討中です。
「私にはロシアで踊る権利があります」。先の会見でバロチコワさんは前を見つめて言いました。「マイヤ・プリセプツカヤたちのように、ボリショイのプリマになるのが子どもの時からの夢だったのです」