2003年12月23日(火)「しんぶん赤旗」
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JRへの採用を差別された国労、全動労に所属する千四十七人の労働者がJRへの採用を求めた裁判で、「JRに使用者責任はない」とする最高裁の不当判決が出た二十二日、十七年間差別の是正を求めてたたかってきた原告の労働者と家族の声は─。
構内作業員として十一年働いて、二十九歳のときJRに不採用にされた国労門司地区闘争団事務局長の竹内俊一さん(46)は、「他界した仲間、離婚した仲間、子どもが進学を断念した仲間。十七年間たたかって、この判決は、残酷だと思います。しかし、五人裁判官の判断が、三対二と割れ、紙一重の差であったということは、私たちのたたかいが国を相手に、一歩追いつめた。国鉄改革法をつくった国は責任を逃れることができない。このことを、運動の糧にしていきたいと思います」と話しました。
国労札幌闘争団長の牧田智雄さん(57)は、「裁判官の判断が三対二に割れたということは、地裁判決以来、不当な判決ばかり出されてきたものとして、われわれの思いが少しは裁判官に届いたというか、大きな光を見た気がします。仲間と、組合員、支援してくれたみなさんの力があったからこそです。これからは、不当労働行為の責任追及を基本に、ILO勧告にもとづく納得できる一日も早い解決に向けて、取り組んでいきたい」と語りました。
「解決につながる判決をと願っていたのに…」と唇をかむのは、全動労争議団副団長の渡部謙三さん(58)。「最高裁が不当判決をだしても、この問題は解決されなければならないし、その責任は政府にある」といいます。北海道登別市で働いていた渡部さんは一九九〇年から東京に単身赴任し、争議支援を訴えてまわってきました。
「十七年前、夫が国に首を切られ、結婚生活の半分を別々に暮らしてきた」という妻の雅子さん(56)は、「涙はだしません。悔しいですけど」といいます。「いまではNTTも国立病院の賃金職員にも首切りが波及しています。私たちの首切りが、国の弱い者いじめの出発点だった。どうしても負けられない。だから涙は流さない」
菊田忠孝さん(60)も十三年間、首都圏オルグとして北海道岩見沢市から単身赴任しています。「私は機関車の機関士だったので、しゃべるのは苦手。それでもがんばって支援を訴え続けてきた。家族六人が一緒に暮らしていたのが、採用差別によってばらばらにされた。なんとしても解決して、北海道に残してきた妻に報告したい」と語っていました。
争議団の青木勝実さん(60)は、「名前を(国鉄からJRに)変えれば気にくわないものを解雇できるとすれば、いくらでも首を切れることになるではないか。こんな前例をつくってはならない。争議団のうち二人がすでに亡くなっている。二人の無念の思いを果たしたい」とのべていました。
千四十七人の旧国鉄労働者の採用差別事件をめぐって、最高裁判決は二十二日、JRの不当労働行為責任を認めた中央労働委員会命令を取り消した昨年十月の東京高裁判決を支持しました。三つの国労事件と一つの全動労事件を審理していた判決は「いずれも上告を棄却する」とのべただけ、わずか十秒足らずで確定しました。十七年もの長期にわたり苦難に耐えてきた労働者と家族の願いを乱暴に踏みにじり、「公正な判決」を要求してきた学者や法曹関係者の声を無視しました。
今回の最高裁判決は、高裁が全動労事件で「JRは使用者」と初めて認めたことについて、どういう判断を示すのかが重大な争点でした。
最高裁判決は、「JRに不当労働行為責任はない」と高裁判決を追認する一方で、深沢裁判長らの少数の「反対意見」を判決文に掲載しています。
このなかで、国鉄がJR職員の採用のために採用候補者名簿を作成し、職員採用にかかわる設立委員のなかに国鉄総裁が加わり、実際の作業も国鉄によって構成された設立委員会事務局がすすめてきたことを紹介。当時の閣僚が“一人も路頭に迷わせない”などとした国会答弁を「重く評価しなければならない」とのべています。
高裁が取り消した中央労働委員会命令(一九九四年二月)で、組合員の採用率が鉄道労連(現JR総連)99・4%、鉄産労(現JR連合)79・1%だったのに対し、全動労は28・1%と極端に低く、「全動労を脱退しなければ新会社に残れない」と上司が説得した事実をあげ、「全動労に所属することのみを理由として、差別的な取り扱いがされたことが一応推認される」と断じています。
これらは、労働者側が法廷でくり返し明らかにし、JRに不当労働行為があることを争う余地のないものとして示してきました。最高裁裁判官の「反対意見」がそれを認めたものです。
最高裁判決が出されたからといっても、千四十七人の解雇撤回・JR復帰のたたかいが終わったわけではありません。
この間、国労闘争団と全動労争議団が全国で展開してきたたたかいで多くの労働者や労働組合、心ある人たちが立ちあがり、「政府・JRの責任で早期解決をはかれ」という国内外の世論を大きく広げてきました。
それは、日本政府が執拗(しつよう)な妨害や意図的な情報提供をおこなってきたにもかかわらず、ILO(国際労働機関)が今年六月までに五度におよぶ勧告(報告)を出し、いずれも「当事者が満足のいく解決」「公正な補償」をくり返し求めたことにも表れています。この点でも、最高裁判決は国際世論にそむくものとなっています。
大義は労働者の側にあります。国労、全動労、国鉄闘争を支援する人たちが政府・JRに解決へ責任を果たさせる運動を広げていくことがますます重要になっています。(名越正治記者)
最高裁の不当判決にたいして、国鉄労働組合、国労弁護団、国鉄闘争支援中央共闘会議が連名で声明を出しました。
最高裁判決がJRの使用者責任の有無という法的判断に限定されたもので、採用差別が反組合的意図のもとになされた不当労働行為の事実はなんら否定されていないと指摘しています。
全日本建設交運一般労働組合鉄道本部、全労連国鉄闘争本部、全動労弁護団は二十二日、JR採用差別事件の最高裁判決にたいし、「断固抗議する」との共同の声明を発表しました。
JRの使用者性を否定することで中労委命令を取り消しているが、これによって労働委員会が認定した不当労働行為の事実が否定されたわけではないと指摘。憲法やILO条約に反する結果をもたらした国鉄改革法を制定・施行した国の責任は重大と強調。不当判決に屈することなく、引き続きたたかう決意をのべています。
広範な法曹関係者や研究者らでつくる「ILO勧告に基づくJR不採用事件の公正な解決を求める連絡会」は二十二日、JR採用差別事件の最高裁判決にたいし、ILOによる国際的な労働基本権の保障に真っ向から反するとの声明を発表しました。
政府が解決に取り組むことを求めるILO勧告の迅速な履行を政府に求めてきたにもかかわらず、最高裁判決の行方を見守るとして、何の対処もおこなわなかったことを指摘。この政府の時間稼ぎは通用しなくなり、批准国の政府としての責任が直接問われるとのべています。ILO勧告を早期に履行し、政府の責任で解決するよう求めています。