2003年12月22日(月)「しんぶん赤旗」
農地を自由勝手に使うことを財界があの手この手でねらっています。その一つが、株式会社一般の農地取得・農業参入の自由化です。「農地の番人」である農業委員会の縮小・解体も小泉自民・公明党内閣におこなわせようとしています。乱開発を招き環境悪化と農業振興に逆行します。千葉県で実態をみてみました。
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「ここの谷津田(やつだ)の水はトウキョウサンショウウオが住んでいる。処理場に産廃が埋め立てられたら、水源の汚染が心配だ」。千葉県の東北部に位置する海上(うなかみ)町の農業委員、阿部一成さん(日本共産党町議)は、産廃埋め立て予定地を指さします。
北総台地には谷津田と呼ばれる細い谷筋の水田が各地にあります。周辺の台地から浸透した水は、地下水となって谷津田を流れます。二十アールを超える同町の谷津田を含め、谷筋に産業廃棄物を埋め立てる計画が明らかになったのは十二年ほど前。すでに千葉市内の株式会社が業者を使って水田と林地の買収をした後だといいます。
業者は、産廃埋め立ての目的を隠していました。処分場予定地がある集落の区長代理を務める多田勇さん(55)は、「ゴルフ場の代替地だとか農業用だとかいろいろ言って買収した。地下水を飲用にするので、産廃を埋め立てられたら心配だ」といいます。
同町は住民投票もおこない、圧倒的多数で産廃建設反対の意思を示しました。しかし、当時の厚生省や千葉県は、“基準に合っている”として設置を認可しています。
住民らは同県環境部にたいし、設置許可取り消しの行政訴訟、工事差し止めの仮処分申請をしてたたかっています。
農地を農業以外に使うときは、農地法にもとづき農業委員会の転用許可が必要です。同町農業委員会も株式会社による水田の転用を「不許可相当」として千葉県に申請しました。しかし、買収した企業が町外だったこともあり、最終的には権限外となっています。
住民とともに建設反対の運動をすすめる阿部さんは、「交渉にいくと、県側は“問題があれば誠意をもって対処する”というが、建設会社が倒産したり負担能力がなければだれが責任をとるのか」と批判します。
いっそうの規制緩和がすすみ、株式会社一般が農地取得をできることになったらどうなるか―。「住民の水源汚染、水田への風評被害など社会的コストは計り知れない」と阿部さんは指摘します。
株式会社の農地取得やリース(貸借)は、一定の条件のもとで規制緩和されています。
海上町でも個人名義から名義変更の形で株式会社の農業法人がうまれています。花木栽培をする農家です。実際に農業をだれがやっているか、今後も継続するのか、不法な転売をしないかなど、農業委員会は従来にもまして慎重な審議をしたといいます。
ここで役立ったのが、担当した農業委員の日ごろの付き合いです。同農業委員会の服部芳典事務局長は、「地元の農業委員さんに実情を聞かないと農業委員会事務局ではなかなか把握できない。農地保全と農業振興のためには、農業委員の役割は重要だ」と話します。
千葉県の農業会議(農業委員会の県段階の組織)によると、農地規制の緩和のなかで、農地の買い入れや貸し借りをねらう産廃業者が増えています。
同会議が二〇〇二年度に受けた農業法人の新規設立にかんする九十三件の相談のうち、はっきりしているだけで三十四件が産廃処理関係の業者でした。東京都や神奈川県の業者が多く、そのほかの相談者も農業生産や農産物の販売方法が明確でない者が多数あったといいます。
同会議で農業経営の法人化を担当する鴇田(ときた)渉さんは、「どんな農産物を作るのかを聞くと不明なことが多い。今年度はまだ集計していないが、こうした傾向は相変わらず続いている」といいます。
農業法人の設立は、家族経営で有限会社などになる例、農業法人の従業員がのれん分けするタイプ、集落での営農が法人化するもの、過半数の人が農業に従事する株式会社形態(譲渡は制限)があります。
鴇田氏は「法人化支援はあくまで農業生産のためです。農業法人の名で簡単に農地取得ができ、農業を始めれば産廃処理もできると誤解しているようだ」と指摘します。
小泉内閣は、「農地の番人」「地域農業振興の相談役」としての農業委員会の機能と体制を縮小させようとしています。政府の地方分権改革推進会議や、経済財政諮問会議で議論されています。
一つは、都市部を中心に農業委員会を廃止する考えです。現行制度は、九十ヘクタール以上の農地がある市町村は農業委員会を設置しなければなりません(必置規制)。それ未満でも「置かないことができる」とするだけで、市町村の判断で設置する例は八割にのぼっています。
この基準面積について、市街化区域内農地を数えず、百八十ヘクタールにする案も出ています。この基準を大阪府に当てはめると、農業委員会の設置が義務付けられる自治体は半分程度になります。
市町村の合併にともなって、農業委員の定数を削減する例が相次いでおり、交付金削減となります。
こうした動きにたいし、農業委員会の全国組織である全国農業会議所は「必置規制の堅持」を求めています。
同会議所の柚木茂夫農地・構造対策部長は、新規参入者や、農地を担い手に集積するなどの相談、耕作放棄地の解消、市街化農地も含め乱開発抑制などで、農業委員会の役割が大きくなっていると強調。「農地をいったん転用すると、回復は非常に困難です。食料自給率を45%に引き上げる計画のなかで優良農地四百七十万ヘクタールを確保することは政府の方針。合併で広域になったら管理エリアも広くなる。適正な農業委員会の体制が大切だ」と訴えます。
農水省は次期通常国会に農業委員会関連法案を提出する予定です。
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財界の要求に応じた、自民・公明の政府・与党によって、株式会社の農業参入は、すでにさまざまな形で認められています。
(1)農業法人の一形態として、株式の譲渡制限のあるものに限り、株式会社形態も認められています。二〇〇〇年の農地法「改正」です。この場合は、役員数の過半数が農業や関連事業に常時従事するなどの要件があります。
(2)構造改革特区のなかで市町村・農業委員会が間にはいって農地の貸借を認める「リース方式」があります。
また、株式会社が本当に農業生産をするなら、山林原野を開墾して農地にすることは現在でも自由です。
小泉内閣の農業構造改革は、農地制度を解体して株式会社にたいする農地支配を解禁することです。財界の意向が働く総合規制改革会議では「特区」の範囲を取り払い、どこでも貸借ができることなどが議論されています。
「株式会社による農地取得や農業法人の設立要件等の参入規制を緩和します」(衆院選挙での「全国農業者農政運動組織協議会」農業政策アンケート、十月二十七日)。
日本共産党は、農業を続けたい人、やりたい人はすべて大事な担い手に位置付けています。株式会社の農業・農地参入については厳しい規制を主張しています。
※耕作者主義が農地法の精神 農地法は、「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認め」(第一条)、制定されています。農地の所有・利用は農民とその結合体である生産法人に限定するという耕作者主義の原則を突き崩すことを許すかどうか―正念場を迎えています。
財界は、WTO(世界貿易機関)やFTA(自由貿易協定)の交渉を推進し、その見返りにいっそうの農産物市場開放を小泉自民・公明党内閣に迫っています。国内対策として“国際競争力強化”の名目で、厳しい条件でも日本農業を現に担っている家族農業を切り捨て、「農業生産法人以外の株式会社の農業参入」(2003年度日本経団連規制改革要望、03年10月)をと主張します。
(03年10月、山形市で)
「『家族的営農』という、何千年も前からのビジネスモデルを根本的に改革する必要がある。土地利用のあり方の抜本的な見直し、株式会社の参入を含む経営主体の多様化など通じて、農業を現代的な産業として再編成していくことが必要」
経済団体連合会「『通商立国』日本のグランドデザイン」(01年6月) 「支持価格及び高関税を漸次引き下げ、市場を通じた価格形成をうながすことにより、最終的に国内価格を国際価格に収斂(しゅうれん)させていくことが必要」「農外所得の割合が高く、また小規模等のため生産性が低い農家の農業からの撤退の勧奨」
経済団体連合会「農業基本法の見直しに関する提言」(1997年9月)
「農地転用規制の強化を前提に、株式会社の農地取得を認めるにあたっては、段階的に進めていくことが考えられる。例えば、第一段階として、農業生産法人への株式会社の出資要件を大幅に緩和し、第二段階として、借地方式による株式会社の営農を認める。その上で最終的に、一定の条件の下で株式会社の農地取得を認める方式が考えられる」
「農業経営の多角化、大規模化をすすめるために、耕作者主義への固執は不要であり、農地法の再改正に躊躇(ちゅうちょ)すべきでない」「問題となるのが、直接所得補償制度の対象をいかに絞り込むかという点である。当面は、農家を含めることは認められようが、将来的には、経営内容の公開が商法により担保されている株式会社等農業生産法人に限定していくことが考えられる」(当時、経団連産業本部産業基盤グループ長・井上洋氏、01年7月「週刊農林」)