2003年12月21日(日)「しんぶん赤旗」
ここが知りたい特集
保守「二大政党」づくりなぜ
財界 当事者の発言にみる
憲法改悪と消費税増税の道を進む保守「二大政党」づくりの動き。日本経団連の奥田碩会長は総選挙結果に、「二大政党がアメリカみたいにうまくやれれば一番いいと思っていたが、今回、二大政党時代というものが目に見えてきた」(11月10日、記者会見)と大はしゃぎです。なぜいま保守「二大政党」づくりなのか。当事者の発言(報道を含む)から考えてみます。
総選挙最中の十一月二日、奥田氏は、日米財界人会議で「日本の改革を加速するために、政治に対し、大いにモノ申す」と宣言。「改革に真摯(しんし)に取り組む政党に対しては、資金面も含め、応分の協力を行ってまいりたい」と語りました。
なぜか。奥田氏は、「日本がバブル崩壊後、長期にわたる景気低迷に陥ったのも、政治家が抜本的な改革を先送りしてきたことが大きな要因だ」からだといいます。
「経済の低迷と時を同じくして、九〇年代の政治は大きく混迷した」「政治が混迷したことで政策対応が先送りになってきたことが経済の傷口を広げた」(〇二年十月三日、サンケイビル創立五十周年記念講演)とものべています。
経済のグローバル化のなかで、財界が求める「構造改革」が遅々としてすすまないことへのいら立ちです。「われわれはいろいろな提言をやっているわけだが、その提言が実行に結びつかないのが現在の日本の一番弱い点」(奥田氏、五月二十七日記者会見)だというのです。
「九〇年代のような、離合集散が繰り返される政治状況」ではなく、「政権交代可能な政治勢力が対峙(たいじ)するような緊張した状態が絶対に必要」(〇二年十二月十八日、読売国際経済懇話会での奥田講演)−保守「二大政党」づくりは、こんな“反省”から出発しました。
奥田氏は、「私たち企業人も、政治を単に批判や陳情の対象としてとらえたり、あるいは、政治から距離を置くことをよしとしてきたことも反省しなければならない」(前出、日米財界人会議)とものべています。
「政治との距離」には二重の意味があります。一つは、一九九三年に旧経団連が自民党への企業献金あっせんをやめて以来、政治への影響力が落ちてしまったという認識です。奥田氏は、献金関与再開の狙いについて「政治への影響力行使か」と問われ、「結局そういうことになります」「提言をたくさん出しましたが、実行に移されてこなかったと身にしみて感じています」(「朝日」八月五日付インタビュー)と答えています。
もう一つは、グローバル化がすすむなかで国際競争力をつけるには「政経一体」でなければならないという認識です。
「財界候補」として参院選に出馬し、いま道路公団総裁を務める近藤剛前参院議員は、出馬前から「経済界も政治に深くコミットする時代が到来した」「実質的には『政経分離』の時代は終わっている」と強調していました。(〇〇年十二月二十五日)
今年の経団連総会後の記者会見(五月二十七日)では「活力ある日本経済を取り戻すためにも今やらなきゃならんことは山ほどあるわけだが、一企業活動だけでは解決できるものでは到底ない…政治と経済が日本の将来のために携えていくことが時代の要請だ」(御手洗冨士夫副会長)などの発言があいつぎました。
「政経一体」で実現しようという「改革」は、法人税減税や規制緩和など直接企業のもうけにかかわる分野だけではありません。奥田氏は、「最近では社会保障制度や雇用制度などが、企業の競争力を考える上で大きな課題、関心事項となっている」(〇二年七月二十二日、日本記者クラブ講演)とのべているように、社会全体の改造なのです。
「夜警国家(注)の時代に戻れとはいわないが、政府の仕事は、経済面ではせいぜいルールの整備(だ)」(読売講演)というように、資本主義が労働法制などで規制を受けない自由放任時代までも持ち出しています。
(注)夜警国家 政府の活動を国防・治安、公共事業など最小限にとどめて大資本の活動を自由にしようとする主張。十九世紀ドイツの労働運動家ラサールが国家社会主義の立場から、私有財産制を守る以外なにもしない資本主義国家を批判して使いました。
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昨年、日経連と経団連が合併して日本経団連が誕生したときに、「政治との新たな関係」を課題の一つにあげた奥田会長は、政治と企業のかかわりについて次のように語りました。
「もし政治が機能不全に陥ったときに、だれがそれを正すことができるのか。また、そうならないようにするには何が必要なのか、経済界と政治の関係を、癒着でも追従でもないものにしていくためにどうすべきかを、私自身の宿題として考えてまいりたい」(前出サンケイ講演)
自民党政治のゆきづまりのなかで、その「機能不全」を予測し、その対処策を考える必要があるとの認識です。
今年一月に発表した「奥田ビジョン」で、野党にたいし、「政府・与党への単なる批判勢力から脱皮し、いつでも政権にとって代われるだけの能力を備え、国民の信頼を得ていかなければならない」と求めているのも、政権党=自民党が「機能不全」の際の代替(スペア)政党が必要との認識からです。
こうした考えは、九三年の「政治改革」以来、財界人が折にふれて表明してきたものです。
「米国や英国のような国民政党であり得る二大政党による政権交代があったほうがいい。…しかし革新政権への交代は困る」(鈴木永二・前日経連会長=当時、「日経」九二年十月十九日付)
「米国の共和党と民主党みたいな(二大政党の)形になってもらわないと困る。…自民党対社会党という中で自民党を絶対的に支持する形とは違う」(諸井虔・日経連副会長=当時、「日経」九六年六月二十七日付)
「冷戦構造が終わり、社会党の一部や共産党を除けば、どの政党も大きな枠の中にいる。同じ考えの中で、二つのチームを競わせたらいい」(牛尾治朗ウシオ電機会長、「朝日」九三年四月二十四日付)
「経済界が求める政策の実現には、自民、民主両党に政策を競わせ、その評価に応じて政治献金を分配する方が、自民党単独支配の政権よりも効果的」(財界関係者、「毎日」〇三年十一月十一日付)
保守二党に、企業献金でひもをつけて財界要求の実現を競わせる−財界の保守「二大政党」づくりには、こんな狙いがこめられています。
政治改革と財界戦略 |
政治・社会の動き | 財界の動き |
《金権腐敗続出に対する財界の危機感。財界が「政治改革」へ乗り出す》 |
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89年 |
2月 リクルート社の江副浩正前会長ら逮捕
4・消費税3%で実施(1)。竹下登首相退陣表明(25)
5・自民党政治改革委員会が小選挙区制を盛り込んだ「政治改革大綱」を答申
7・参院選で自民半減の36議席、8月に海部内閣発足
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6月 経済5団体が「当面の政治改革に関する共同宣言」で小選挙区制採用や政党法制定の早期着手を求める
7・経団連東富士フォーラム、経済同友会夏季セミナーで「二大政党」求める発言相次ぐ
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90 |
4・第8次選挙制度審議会が小選挙区比例代表並立制導入を答申
5・海部俊樹首相、小選挙区制導入など「政治改革」に「内閣の命運をかける」と発言
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1・自民党の小沢一郎幹事長が経団連首脳に献金の前倒し納入を要請
4・経済5団体が選挙制度審議会答申について早期実行を要望する共同コメントを発表
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91 |
1・湾岸戦争ぼっ発
5・自民党総務会で小選挙区比例代表並立制導入を柱とする「政治改革」関連3法案骨子を党議決定
7・「政治改革」関連法案を閣議決定(廃案)
11・宮沢内閣にリクルート汚染政治家10人が入閣
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1・経済4団体が「政治改革」全面支援の見解を発表
6・経済5団体会長が連名で「政治改革」関連法案の早期成立や政党への公費助成を緊急提言
9・経済5団体会長、連合会長などが発起人の「政治改革推進に関する各界署名運動」が海部首相に署名を提出
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92 |
6・PKO法成立
8・自民党の金丸信副総裁、佐川急便からの5億円献金で辞任表明(10月に議員辞職表明)
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4・政治改革推進協議会(民間政治臨調、亀井正夫会長・住友電工相談役)が発足総会
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93 |
3・東京地検が金丸自民党前副総裁を脱税で逮捕
6・自民党の梶山静六幹事長が「政治改革」法案成立断念表明(14)。宮沢内閣不信任案議決、衆院解散(18)。自民党離党の羽田・小沢派が新生党結成(23)
7・衆院選で自民過半数割れの223、社会党半減70
9・細川内閣が「政治改革」関連4法案を提出
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7・経済4団体首脳が政治献金と政党との関係で緊急協議
9・経団連が献金あっせんとりやめを決定(実施94・1〜)
11・経済4団体が「政治改革」関連法案の早期成立を「焦眉(しょうび)の課題」とする共同見解を発表
12・平岩外四経団連会長が座長の「経済改革研究会」が構造改革について答申(平岩リポート)
| 《「非自民」政権崩壊、財界が政治との関係を模索。「構造改革」へ傾斜強める》 |
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94 |
1・参院本会議で小選挙区法案否決(21)。土井たか子衆院議長あっせんで細川首相・河野自民党総裁合意(28)、両院協議会で衆参本会議で可決(29)
4・細川首相が辞任表明(8)。羽田内閣発足(28)
6・羽田内閣総辞職(25)、村山内閣発足(30)
12・新生、公明、日本新など9党派が新進党結党
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1・経済4団体首脳が共同記者会見、小選挙区法案の成立を主張(5)。民間政治臨調の緊急総会で細川首相が法案成立を訴え(27)
12・新進党発足で日経連会長「政権交代可能な大政党としてまとまったことを歓迎」、経済同友会代表幹事「二大政党、政策本位に議会で競い合う政治に」とコメント
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95 |
1・阪神淡路大震災
7・政党助成金初めて交付
12・新進党党首選挙で小沢一郎氏当選
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4・経済5団体による「行革推進5人委員会」が発足
11・経団連が自民党の都銀からの借金100億円を肩代わりするため、会員企業に献金額を割り振る
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96 |
1・橋本内閣発足
6・消費税率5%への引き上げを閣議決定(97.4〜)
10・衆院選で自民239議席、単独過半数確保できず
12・羽田孜元首相ら新進党を離党し太陽党結成
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5・経団連の総会で「企業人政治フォーラム」設立を決定
9・民主党の鳩山由紀夫、菅直人両代表らが経団連を訪れ新党への支援を要請
10・経団連が「魅力ある日本」(2020ビジョン)を発表
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97 |
1・橋本首相が財政、社会保障など六大改革を表明
11・北海道拓殖銀行破たん、山一証券自主廃業
12・新進党解党
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4・経団連が政策立案機能を強化するとして「21世紀政策研究所」を設立
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98 |
1・自由党結党大会(小沢党首)
4・新民主党発足(菅代表)
7・参院選で自民党45議席(12)。橋本首相退陣、小渕内閣発足(30)
10・日本長期信用銀行の一時国有化を決定
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1・豊田章一郎経団連会長が自民党大会で「改革の実行には政権基盤の安定が不可欠」とのべ、参院選で自民党の過半数回復のため「全面的に支援させていただく」と表明
9・経団連幹部と民主党幹部が金融システム問題で懇談
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1・自民・自由連立政権発足
5・自民、自由、公明の賛成でガイドライン法成立
10・自自公連立政権発足
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7・民間政治臨調の総会で「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)として新発足する方針を決める
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00 |
2・衆院比例定数20削減を強行
4・介護保険制度開始。自由党の連立解消表明(1)。小渕恵三首相入院(5.14死去)で森喜朗首相に(5)
11・自民加藤・山崎派が内閣不信任案採決を欠席
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6・「21世紀臨調」が衆院解散にあたり「政権選択選挙」と「業績投票」をキーワードにした緊急提言を発表(6)。経団連が「21世紀を展望した税制改革に向けて」のなかで基礎年金に消費税を充てることなどを提言(20)
| 《小泉政権発足。保守二大政党づくりへ乗り出す》 |
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01 |
4・自公保小泉政権発足
9・米同時多発テロ
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10・自公保与党が一部中選挙区制復活案で合意したことに対し、21世紀臨調が批判する声明を発表
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02 |
4・有事法案が審議入り
6・鈴木宗男衆院議員があっせん収賄などで逮捕
12・イージス艦が対米支援でインド洋に出航
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5・日経連と経団連が統合し「日本経団連」に。奥田碩新会長は「カネも出すが口も出す」と発言
12・経済同友会が消費税14%引き上げを提案
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03 |
6・有事関連3法が成立
7・民主・自由合併合意(23)。イラク特措法成立(26)
10・民主・自由両党が合併大会
11・初の「マニフェスト」衆院選で自民は改選比10減の237、合併した民主は40増の177議席 |
1・日本経団連が「奥田ビジョン」を発表
5・経団連が税制改革意見書で消費税18%構想を打ち出す
7・「21世紀臨調」がマニフェスト作成を政党に呼びかけ(7)。経済同友会が政権公約策定を求める談話を発表(8)
9・経団連が政治献金の「優先政策事項」を発表( )内は日付
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( )内は日付
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