2003年12月18日(木)「しんぶん赤旗」
|
日本共産党の小泉親司議員が十六日の参院外交防衛委員会で行った、自衛隊のイラク派兵問題についての質問は、“復興人道支援”の名で占領支援、戦争支援の実態を隠そうとする小泉純一郎首相の矛盾を鋭く突くものとなりました。
首相は九日、自衛隊派兵に関する「基本計画」の閣議決定を受けた記者会見で、自衛隊は占領軍の「武器・弾薬の輸送は行わない」と述べた上で、「日本は戦争に行くんじゃない。自衛隊は復興人道支援に行く」と強調しました。
これは、政府関係者には「驚天動地の発言」(外務省幹部、「朝日」十一日付)と受けとめられ、大きな衝撃を与えました。政府はこれまで“自衛隊は米軍などの武器・弾薬を輸送する。輸送物資の中からいちいち武器・弾薬を取り出して別にすることはできない”と説明してきました。首相発言どおりだと、占領軍支援に大きな障害が生じかねないのです。
実際、武器・弾薬を運ばないと言うなら、輸送物資を一つひとつ点検しなければなりません。小泉議員がこの点をただすと、首相は、「お互いの信頼関係を理解している」というのが精いっぱいで、結局、「運ばない」という担保は何一つ示すことができませんでした。
首相は、占領軍支援である「安全確保支援活動」について、前日の衆院イラク特別委員会で「安全確保活動をしなければ(復興人道支援活動を行う)隊員も安心して活動できない」と、まるで自衛隊の安全を守る活動であるかのような答弁をして、失笑を買っていました。
首相の支離滅裂答弁は、占領支援、戦争支援を“復興人道支援”“戦争に行くのではない”とごまかすところからきています。その矛盾を突いた小泉議員の質問(大要)を以下紹介します。
|
(小泉議員は質問の冒頭、イラク派兵問題について、日本共産党の立場をのべ、「イラクへの派兵の撤回を強く求めたい」と強調しました)
小泉議員 まず自衛隊の活動範囲の問題です。(パネル1を示す)
(自衛隊派兵の)「基本計画」によると、自衛隊の活動区域は南東部のムサンナ県だけではなく、クウェートを拠点にして、バグダッド空港、中部のバラド空港、北部のモスル空港、それから南部のバスラ空港。さらに海上自衛隊は、ペルシャ湾からインド洋まで活動ができるようになっています。
イラク特措法で自衛隊の派兵は「非戦闘地域」に限られています。なぜか。「わが国が海外で武力の行使をしないことを明確にするための制度的担保」−つまり憲法九条違反に踏み出せないような担保をしているんだということです。しかもイラク特措法では、この「非戦闘地域」に加えて、安全が確保される地域でないと派兵できないことになっています。
こうした空港を「非戦闘地域」と判断した理由をお聞きしたい。
石破茂防衛庁長官 「基本計画」で定めた範囲は、「非戦闘地域」を多く含むだろうということはございます。
今どこを「実施要項」の中で実施区域として定めるかということを作業中で、「基本計画」に書いたものは、おおむねそういうことが認められる範囲という大まかなものを示しました。
小泉議員 総理は七月十八日、「バグダッドは今戦闘地域か非戦闘地域かということは断定できませんが、そんなに安全な地域ではないと思っております」と答えています。しかも、「どこが非戦闘地域でどこが戦闘地域かと今この私に聞かれたって分かるわけがない」と答えていた。
ところが、今度はこの決定をされた。しかも、バグダッド空港は、この二カ月間だけでも民間貨物機や米軍輸送機がミサイルで攻撃される−七月の時点より(治安は)いっそう悪化しているんです。そのバグダッド飛行場を「非戦闘地域」と判断した根拠をお示しください。
小泉純一郎首相 七月の時点でどこが「戦闘地域」かどこが「非戦闘地域」かと聞かれても私に分かるわけがないと。それはもう当然なんですよ。私、現地行って調査したわけじゃないんですし、専門家でもありませんから。そして、今回政府調査団も派遣し、状況報告を聞き、今後自衛隊を派遣する場合には「非戦闘地域」であると。
「非戦闘地域」の中でも安全なところとそうでない場合があると。「戦闘地域」でも安全なところとそうでない場合があると。「基本計画」にはバグダッドと書いてあります。バグダッドにおいても安全が確保される地点とそうでない地点があると思っております。そういう点については、今、防衛庁長官が「実施要項」策定中です。
小泉議員 総理は私の質問にお答えになっていない。(「基本計画」には)バグダッド全体だとは書いてありません。バグダッド飛行場と特化してある。「非戦闘地域」なんですね。安全な地域なんですね。
首相 飛行場区域の中でバグダッドと明記しているわけです。それで、これから「実施要項」でバグダッド飛行場が「非戦闘地域」に当たるかどうかはっきりさせたいと思います。
小泉議員 それは全くおかしい。(「基本計画」には)「バスラ飛行場、バグダッド飛行場、バラド飛行場、モースル飛行場等」と書いてあるんですよ。「バグダッド」とは書いてませんよ。「バグダッド飛行場」と書いてあるんです。ごまかし言ってはだめです。
防衛庁長官 「基本計画」の中には、範囲を記しました。「実施要項」で実施する区域を確定するときに、自衛隊が活動を行う地域は「非戦闘地域」と、安全の確保という二つの要件を満たすことが必要になるわけです。
小泉議員 (「基本計画」に)バグダッド空港と書いてあるから、それは「非戦闘地域」なんだ、行くのだと書いてあるわけですから、なぜそういうことが明確にできないのか。これはごまかし以外の何物でもないと思います。
例えば、基本計画に明示されたこの四つの空港。多くのところで飛行場が攻撃される。
イラクには米英占領軍が管理している飛行場が十二あるんです。だから(「基本計画」では)「飛行場等」となっているんです。実際にはこういう空港も使えるという内閣官房の答えですから、広大な区域が自衛隊が活動できる範囲になるんじゃないんですか。
国連が十二月十日の情勢報告でも、イラクは危険が伴わない場所はない(と書いている)。実際にあなた方が行けるところなんかないじゃないですか。「非戦闘地域」という問題は憲法九条にかかわる重大な問題だから私は問題にしている。ところが、これに対して総理が明確にできないというのは問題だと思います。
|
小泉議員 総理は「人道復興支援」と重ねて言い、ASEAN(東南アジア諸国連合)の首脳会議では米英のテロ掃討作戦には関与しないと説明している。しかし、これもごまかしではないか。
「基本計画」には、「安全確保支援活動」が含まれている。どういう活動か、パネルにしました。(パネル2を示す)
これはイラク特措法で防衛庁長官が答弁したことです。「米軍の武器弾薬の輸送、武装兵員の輸送」「イラク人による米占領軍への抗議・抵抗運動の鎮圧の支援」「フセイン軍残党の米軍掃討作戦の支援」「武装解除や敵の部隊を打ち破る攻撃の支援」−つまり支援活動としてはこういうことができるんだとこれまで説明してきた。
総理、こういうことも今度の「基本計画」には含まれているんですね。
首相 そういう活動ができるということになっております。
小泉議員 これは米英占領軍を支援する、まさにその活動だと思います。
そこで、武器・弾薬の輸送について具体的にお聞きします。総理は(九日の)記者会見で、武器・弾薬の輸送をやりませんというふうにお答えになりました。ところが、昨日の委員会(衆院イラク特別委員会)では、武装兵員の輸送をやるんだということを認めた。
イラク特措法の三条三項では、武器の輸送、弾薬の輸送というのは排除されていないんですね。「基本計画」には全く同じ文言で、米占領軍の支援として、イラク特措法第三条三項に規定する医療、輸送、保管、通信、補給などを行うと言っていますが、この「基本計画」の「輸送」の中には武器・弾薬は含まれるんですか。
福田康夫官房長官 この、何と言ったかな、支援活動ね、安全確保支援活動、安全確保支援活動のいろいろなその業務を書いてございます。その中に輸送というものがございます。その輸送の中には、兵員の輸送というものもこれも排除されないと、こう考えております。
小泉議員 ちゃんと聞いておいてくださいよ。武器・弾薬の輸送は含まれるんですか。
官房長官 武器・弾薬(の輸送)も排除されないということですが、武器・弾薬は総理のお考えとしてこれは輸送しないと、こういうふうに総理が判断をされたものです。
小泉議員 ということは、「基本計画」に含まれるということですね。お認めになりましたね。はっきりしてください。
官房長官 はっきりもくそもない、何度も同じことを言っているじゃないですか。武器・弾薬はね、これはこの中に入っているけれども、総理の政策判断として運ばないと、こういうふうに言っているじゃないですか。
小泉議員 武器・弾薬の輸送がなぜ排除されないのかという質問にあなたは何と答えていたか。
「物品と武器の弾薬とそうでないものと混在して一つの荷物にまとめるということは、戦地では往々にして行われるというように聞いております。武器弾薬を、これを一つひとつ点検して選び出して、それを別にして、このようなことは実際のオペレーションとしてはなかなかしにくいということでございます。要するに、円滑な業務が実施できなくなるおそれがあるんです」−だから法律では排除されないと説明したんです。
総理にお聞きしますが、あなたは武器・弾薬の輸送は行いませんと言われましたが、ということは、一つひとつ点検して選び出して、それを別々にして運ぶ、こういうことを指示なさるんですね。
首相 「基本計画」、イラク特措法では武器・弾薬も輸送することはできる。しかし私は「実施要項」で武器・弾薬は(輸送)しない。自衛隊員だって武器携行する場合あるでしょう。それも武器・弾薬の輸送に入るかというと、そこは入らないんじゃないですか。兵員が武器を携行していく場合までも武器・弾薬の輸送というふうには言えないんじゃないか。
小泉議員 全然質問に答えておりません。テロ特措法のときには、与党の修正でアフガニスタンでは陸上において弾薬の輸送は行いませんという規定が入ったんです。ところが今度のイラク特措法には、武器弾薬の輸送は排除されておりません、つまり行えますということが明記されているんですよ。なぜだと私たちが聞いたら、福田長官は、混合こん包されているんだと。防衛庁長官は何と答弁しているか−小麦粉とバターも一緒に弾薬と積む場合がございますよと、それが区分けできないんだと、だから排除していないんだと言っているんですよ。
ということは、総理が武器・弾薬を運ばないとおっしゃるのであれば、それをどうやって見極めるんですか。一つひとつ点検して、それを明確にしない限りできないじゃないですか。どういうふうに担保するんですか。
首相 はっきりと政策判断として運ばないと宣言しているんですから。日本のやる活動はこうですよということは、お互いの信頼関係理解して、ああ、日本の人たちは武器・弾薬は運ばないんだなということはよく分かっていると。そういうようなことを表明して、日本の復興支援活動に理解を求めていくと、そういう判断です。
小泉議員 あなたはさきほど「実施要項」で作ると言ったんですよ。「実施要項」にそういうものを盛り込むんですか。
自衛隊員に対して防衛庁長官が命令するときに、いちいち点検しなくちゃできないじゃないですか。どうやって担保するんですか。
官房長官 それは前の議論でしょう。今回の議論じゃないんです。今回は総理の政策判断として、武器・弾薬は運ばないというふうに言ったんだから、運ばないようにするしかない。それは「実施要項」を決める中できちんと整理していくと、こういうことであります。
小泉議員 武器・弾薬(輸送)をしないと明言されたのであれば、一つひとつ選び出さない限り見つからないじゃないですか、混合こん包をされているということなんですから。それはごまかしだと思います。
武器・弾薬を運ばないとあなたは政策判断しただけの話で、現実問題としてはわからない。防衛庁長官は昨日の答弁で、それは連合軍のコアリション(連合)だから、コアリションを信頼するほかないじゃないかと言ったわけですよ。米英軍を信頼すると言うんだったら、何の確認もしないで弾薬も乗せちゃうと、これも可能になるじゃないですか。これは全くのごまかしだと思います。
これは米英占領軍への明確な支援活動だ。総理は、武器・弾薬は排除すると言っておきながら、現実に排除する担保については何ら具体的に示し得ない。
こういうことをやるから自衛隊が標的になる。この占領軍の支援の問題については、たとえば今度陸上自衛隊が派遣されるサマワ地域でも攻撃があるんですね。NGOの赤堀さんという方が、今の治安状況では間違いなく自衛隊がターゲットになってしまうんだと(言っている)。
一番問題なのは、アメリカとイギリスの占領軍の枠組みじゃなくて、国連を中心にした枠組みに切り替えて人道支援する−そうすることが安全の問題からしても重要だ、これこそイラクの復興の具体的な方策だということを申し上げて、私の質問を終わります。