2003年12月17日(水)「しんぶん赤旗」
〇四春闘にむけ日本経団連が十六日、発表した経営側の指針「経営労働政策委員会報告」は、「定期昇給制度の廃止」「ベースダウンも労使の話し合いの対象」と賃下げを真正面にすえ、その推進のために「労使の協力が欠かせない」と強調しています。
昨年の経労委報告は、賃金について「ベースアップは論外」「定期昇給の凍結・見直しも労使の話し合いの対象になりうる」と主張しました。賃金の引き上げをはかるベアを否定し、勤続年数とともに毎年賃金が上がる定昇制度の存在は認めた上で一時的な「凍結」や「見直し」に言及するかたちで事実上の賃下げを打ち出したものでした。
今回の報告は、定昇制度そのものを否定し、「ベースダウン」を労使交渉の対象に加えて、「降給もあり得る制度の検討が必要」と、いっそう大胆な賃下げに踏み込んでいます。
この違いは、何によるものか。この一年間に象徴的な動きが二つありました。
一つは、日本企業で史上最高の一兆四千億円もの経常利益をあげた、トヨタ自動車のベアゼロです。〇三春闘で同社は、日本経団連会長でもある奥田碩会長が労働組合の要求提出前から「ベアは論外」とのつよい姿勢を打ち出し、労組はベア要求すらしませんでした。トヨタのベアゼロは、“どんなにもうかっても今後賃金は上がらない”ことを他企業に強く印象付け、実際に業績が回復している企業でもベアなしが広がり、多大な影響を日本中に与えました。
もう一つは、大手電機各社を中心とする定期昇給制度廃止の動きです。大手電機各社の多くが、〇三春闘で定昇廃止を組合に提案しました。組合はこれを春闘の交渉と切り離す方針をとり、春闘後、定昇廃止を内容とする賃金制度の見直し協議に着手しました。そして日立製作所、松下電器、ソニーなどで一般社員の年齢給を廃止し完全成果主義を導入することを労使合意しています。
日立を例にとると、対象は現場労働者も含めた全社員。労働者は会社のたてた高い目標を達成してもこれまでの定昇額の半額程度しか賃金が上がらず、高い目標が達成できなければ、賃金が下がる仕組みです。しかも、裁量労働制の大規模な導入が計画されており、労働者は残業請求もできなくなります。
大企業労組は、労働者にとって重大な不利益変更となる定昇廃止提案を、さしたる抵抗もせず受け入れてきました。
まさに、日本経団連が描いた通りの運び。財界は〇三春闘で自信を深め、今回、「定昇廃止」「ベースダウン」を“労使の協力で”と新たな攻勢にでたものです。
労組の役割について、報告はこう指摘します。「今後、個別企業が生き残りをかけ、労使一体となって生産性向上にとりくむとともに、さまざまな改革を成し遂げなければならない」
その内容は、人件費削減を目的とする「多様な働き方」の名のもとに、低賃金で雇用が不安定な派遣、有期雇用労働者の拡大や不払い残業を合法化する裁量労働制の緩和、労働時間法制の適用除外、そのための労働法制改悪、外国人労働者活用のための法的整備など、多岐にわたります。
労働組合に変質をせまる重大な主張です。労働者の雇用、賃金、労働条件を改善するために存在する労働組合を、企業がよりもうけをあげるために労働者に犠牲を強いる「改革」にともにとりくめというものにほかなりません。
報告は「雇用と人件費は不可分の関係にあるという視点が重要」と強調しました。いわば、雇用を守りたいなら、賃金は下げるという脅しです。
しかし、大企業の多くはこの間、大規模なリストラ人減らしで雇用不安をつくりだす一方、賃金制度を見直す本格的な賃下げにのりだしています。実態は「雇用を守らず、賃金は下げる」です。
過労死の増大やメンタルヘルス問題のまん延、一連の重大事故の続出などは、いきすぎたリストラのあらわれです。報告でも、大事故やトラブル問題に言及し「目先のリストラに走るあまり将来的な人材力の蓄積が損なわれていないか、反省の必要がある」とのべたほどです。
こうのべておきながら、リストラ路線を撤回するのではなく、「構造改革の推進、人材戦略の構築」と、従来通りリストラは推進する立場を掲げています。
報告の方向は、財界・大企業がよければあとはどうなってもいいという、あからさまなご都合主義でつらぬかれており、労働者、国民との矛盾をいっそう広げることになるでしょう。(畠山かほる記者)