2003年12月14日(日)「しんぶん赤旗」
高校生の就職難が深刻です。仕事が見つからず、「自分は社会から必要とされていないのではないか」と自分を責めている高校生も少なくありません。未来をになう若者たちが苦しむ背後に、正規雇用を減らして、企業が好きなときに安く使える派遣や契約社員などに置き換えていく大企業・財界の戦略があります。
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愛知県の工業高校で進路指導をしている教師(60)は、各校の担当者といっしょに大手電機メーカー・ソニーの工場を見学しました。人事担当者がいった言葉が忘れられないといいます。「うちは、高卒は採りません」
製造業の企業で、以前は多かった組立工などの求人が落ち込んでいるといいます。百人ほどを雇う企業の求人担当者にもいわれました。「作業員は派遣(会社)に依頼すれば、翌日には集まります。会社が欲しいのは、派遣されてくる人を使える人材です」
兵庫県高教組の津川知久委員長は、商業高校など女子の就職の厳しさを嘆きます。伝統のある神戸市内の商業高校でも、「ホテルの仕事は人気があり、よく採ってもらっていたのですが、最近は派遣社員が増えて、ほとんど求人が来ません」といいます。
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毎年、全国私立学校教職員組合連合といっしょに就職内定調査をしている日本高等学校教職員組合によると、派遣や有期雇用といった不安定雇用の求人が問題になりはじめたのが三年前。ことしの調査では「求人数は昨年度より10%減。人材派遣・業務請負などの求人活動が活発」(神奈川県)、「大手メーカーの工場についてはほとんどが、アウトソーシング(外注)任せになっており、雇用に対する不安感がある」(秋田県)という実態があちこちから報告されています。
厚生労働省の調査でも、高校新卒者の求人数は減り続け、最近五年間は求職者数が求人数を上回っています。(グラフ1参照)
日本経団連・東京経営者協会がことし一月に実施した二〇〇二年度「高校新卒者の採用に関するアンケート調査」に二百八十八社が回答。新卒を採用した企業は33・7%で、前年度より9・2ポイントも減りました。このうち採用数をふやした企業は24・8ポイント減って15・1%でした。採用を減らした企業は4・4ポイントふえて33・3%。
内閣府の「〇三年版国民生活白書」によると、一九九五年から〇一年までの六年間に中小企業は三万人の正社員をふやしていますが、大企業は百八万人も減らしています。総務省の調査を見ると、社員に占める非正社員の比率は、九六年の27・4%から〇一年には32・5%に増加し、その後も増えつづけています。
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日本高等学校教職員組合と全国私立学校教職員組合連合が十一月に実施した「高校生の就職問題一一〇番」には、二日間で高校生、父母、教職員などから九十三件もの相談がよせられました。いちばん多かったのが「求人がない」というものです。「二社受けたがいずれも不合格。次に受けるところがない」(東京都の高校三年生男子)、「学年で二番目の成績で欠席ゼロの息子が不採用だった」(広島県の父親)という声が上がっています。
日高教と全国私教連の「高校生の就職内定実態調査」は、きびしい就職難が「生徒の学習意欲・修学意欲にも影響する深刻な状態になってきつつあり、高校生たちが自分自身と社会の将来に展望を持てない状況が広がっています。高校生の就職難は今や深刻な社会問題と言わなければなりません」と指摘しています。
高校生を正規社員として採用し、時間をかけて仕事を教え、数年かけて一人前の社員に育てるという、かつては当たり前だった発想を財界と大企業は捨て去っています。会社の都合にあわせて必要な時期だけ雇うことができる派遣社員や契約社員の方が、使い勝手がいいと考えているのです。
財界がそんな雇用戦略をうちだしたのは、一九九五年五月でした。日経連の「新時代の『日本的経営』」です。正規労働者は中枢幹部を担うごく一握りに限り、圧倒的多数は有期雇用契約、派遣労働者、パート、アルバイトなど不安定な労働者にする構想です。
日本経団連(奥田碩会長)がことし一月に発表した「活力と魅力溢れる日本をめざして」(奥田ビジョン)では、「企業の正社員としての道は、今後、選択肢の一つに過ぎなくなるであろう」「有期雇用や業務委託型など多様な雇用契約を拡大させる」と、今以上に非正規雇用を拡大することをうたっています。
日本労働研究機構(十月から労働政策研究・研修機構)がことし一月におこなった「企業の人事戦略と労働者の就業意識に関する調査」にもその一端が表れています。「非正社員を雇用・活用する理由」(複数回答)のトップは、「人件費削減のため」が76・6%でトップ。「即戦力・能力のある人材を確保するため」48・8%、「景気変動に応じて雇用量を調節するため」46・9%と続きます。
雇用をまもり、労働者を育てる責任を負わずに、安い賃金で使い捨てる―。こうした大企業に都合のいい社会をつくるのが、財界がねらう雇用戦略です。それで社会不安が増大しようと、痛みを感じない。もうけばかりを優先させて社会的責任を放棄するものです。
小泉首相は「痛みに耐えよ。二、三年のがまんを」と国民にいいつづけてきました。やってきたのは財界戦略にそって不安定雇用を拡大する労働法制の改悪でした。“がまん”の先にあるのは、安定した雇用のない社会です。民主党も不安定雇用の拡大では小泉内閣と足並みをそろえています。
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派遣社員は、人件費を徹底して低くおさえることができます。“即戦力”としていつでも補充でき、いつでも首を切れる“出し入れ自由”な派遣社員は、福利厚生費もかかりません。
高卒の初任給は平均十五万三千円。派遣・請負会社の最大手、クリスタルグループの場合、大手電機メーカーに派遣されている二十代男性の基本給は月十四万程度です。
総務省の労働力調査をみると、正社員は年収二百万円以上一千万円未満の層に八割が入っているのに対して、派遣社員の五割が二百万円未満の層に集中しています。
(グラフ2参照)
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日本共産党は、署名や政府・自治体・労働基準監督署への申し入れ、シンポジウムなど、「若者に仕事を」の運動を全国でくりひろげています。サービス残業(ただ働き)をなくすだけで160万人の雇用が創出できることを指摘しながら、▽政府の責任で雇用をふやすこと▽大企業は新規採用の抑制をやめて若者雇用に責任を果たすこと▽派遣、パート、アルバイトの労働条件を改善し、正社員として採用すること▽職業訓練を充実すること―などをもとめています。
志位和夫委員長は、7月の党首討論で若者の雇用問題をとりあげ、「政府として、大企業にたいして若者の雇用をふやすよう、本腰をいれて働きかけるべきだ」と小泉首相に迫りました。
日本民主青年同盟や労働組合青年部などがすすめている「青年に仕事を」の署名は、4カ月間に6万人を超えています。