日本共産党

2003年12月8日(月)「しんぶん赤旗」

代理人交渉つらぬいた

上原投手の一球

選手が練習や休養に専念― 魅力あるプロ野球へ


 プロ野球・巨人の上原浩治投手(28)が、球団と代理人交渉をしたことで波紋が広がっています。球団側はかたくなに代理人を認めていませんが、労組・日本プロ野球選手会は四日の定期大会で「正規の代理人」(古田敦也会長)と確認しました。一般社会では常識ともなっている代理人交渉が、プロ野球ではなぜ問題になるのでしょうか。(栗原千鶴記者)


 十一月二十七日、代理人交渉を終えた上原投手は記者会見で「認められた権利を行使しただけ」と満足げな表情を見せました。以前から巨人球団は、渡辺恒雄オーナーが「代理人をつれてきたら年俸をカットする」などと発言し、代理人を拒否し続けてきました。その逆風のなかで代理人交渉に臨んだ上原投手の勇気ある行動は、球界全体に影響を与えました。

 渡辺オーナーの「年俸カット」発言を不当労働行為として、二〇〇〇年に国会で取り上げた日本共産党の大森猛前衆議院議員も「代理人交渉は選手の長年の要望。上原投手の行動は、球界の新たな一ページを開くものだ。選手会が積み重ねてきたことの成果でもある」と強調します。

92年に古田要望

 もともと代理人制度は「球団と対等な交渉をしたい」「シーズンオフを練習や休養にあてたい」という選手の願いから出発したもの。大リーグでは一九六五年に始まり、いまでは当たり前のように定着しています。

 日本では九一年、選手会が機構側に代理人交渉を要求していくことを表明。翌年、ヤクルトの古田敦也捕手が代理人交渉を球団に要望し、大きな話題になりました。九三年、選手会は大会で改めて代理人交渉を要求することを決議。その後、毎年のように制度の確立をめざし機構側にはたらきかけ、ようやく二〇〇〇年オフのオーナー会議で承認されたのです。

 しかし、この会議ではさまざまな制限(弁護士一人に選手一人、球団の合意がなければ二回目以降も選手が同席など)がつけられました。選手会はこの条件に「制度を使いにくくする」として合意せず、独自の規約を設けて選手の代理人交渉を援助しています。

 また、当時の話し合いのなかでは、〇一年オフ以降については協議機関を設け検討するとされていましたが、それも球団側に棚上げにされたままです。

不誠実な球団側

写真
上原投手の交渉を「正規の代理人交渉」と確認した労組・選手会の定期大会=4日、大阪市内

 球団側は、代理人制度を拒否する理由に「年俸がつりあがる」ことをあげています。しかし、選手会の松原徹事務局長は「年俸はその選手の価値によって決まるもの。代理人が入ったから年俸が上がるというのは、逆にそれまで選手を正当に評価していなかったということ」と反論します。

 球団側が代理人交渉に嫌悪感を示すなか、導入後の三年間で実際に活用した選手は、明らかになったもので七球団のべ二十七人。少数にとどまっている背景には、制度を骨抜きにして使わせず、話し合いにも応じない機構・球団側の不誠実な対応があります。

 日本のプロ球界は、これまで球団主導ですすんできました。弱い立場に置かれてきた選手が球団と対等・平等の関係をつくっていくうえで、代理人制度の確立は不可欠です。旧態依然とした球界のなかで選手が一歩ずつでも権利を広げていくことは、ファンに愛され、魅力あるプロ野球づくりにつながるはずです。


大リーグでは常識

元プロ野球投手 大リーグ解説者 高橋直樹さん

 大リーグでは、代理人交渉は常識です。

 選手はシーズン終了後、二週間ほど休んでトレーニングに入ります。アメリカは広い。いちいち球団になど行っていられません。故郷のチームでプレーしたい、勝手にトレードしない条項を入れてほしいなど、代理人に自分の要求を話し、練習に専念します。

 日本でも代理人は必要だと思います。私は、一九八〇年のオフに日本ハムから広島にトレードされました。けがの治療をしながら、契約交渉のため何度も球団に足を運び、大変だった経験があります。それに、球団との交渉は対等にはできません。球団とギクシャクすれば自分の活躍の場が奪われたり、意に沿わない形で出されることもあるからです。選手がオフに練習や休養に専念でき、正しい評価をしてもらうためにも代理人は必要でしょう。

社会をまわす動輪

プロ野球選手の代理人を務めた経験のある弁護士 辻口信良さん

 代理人とは、人間社会が発達していくなかで、不可避的に生まれてきた制度です。一人では何から何までできないから、自分の仕事に専念するために代理人をたてる。いわば社会がうまく回っていくための動輪で、それを認めない渡辺恒雄・巨人オーナーの発言自体、みずからのよってたつ社会を否定しているようなものです。

 さすがに、法的にはダメだとはいえないから、代理人を交渉の場に入れたくない人たちは、「プロ野球にはなじまない」とか「必要ない」としかいえない。社会通念上、否定できないことがわかっているからです。

 私が古田敦也選手(ヤクルト)の代理人を務めたときに、彼はお金の問題ではなく、選手がいいたいこともいえない契約交渉のあり方を何とかして変えたいという気持ちも強くもっていました。代理人をどう使うかは、その選手の自由です。いくら球団が悪あがきしても、代理人交渉は時代の流れとして日本球界に定着していくでしょう。


もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp