2003年11月30日(日)「しんぶん赤旗」
歩くと砂がキュッキュッ、と音をたてる砂浜―自然が保全され砂がきれいな砂浜でおこる現象です。自然保護のバロメーターでもある鳴き砂。この貴重な宝を守ろうと全国各地の鳴き砂のある市町村の住民のなかで、保護の動きが広がっています。北海道室蘭市のイタンキ浜、石川県門前町の琴ケ浜にスポットをあてました。
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北海道の道央に位置する室蘭市は太平洋に突き出した半島に囲まれた工業都市。高炉や煙突が並ぶ市街地の背後は太平洋の荒波を受ける断崖(だんがい)と絶壁が連なり、市街地とまったく違った姿を見せ、沖にはイルカや鯨が姿を見せ、そのがけの下を縫うように四キロのイタンキ砂浜が続いています。その砂浜は踏みつけると「キュウ」と音がする、鳴り砂の浜なのです。
アイヌの人達はこの砂浜を「ハワ・ノタ」といい「ハワ」は音「ノタ」は砂で「声ある砂浜」と名付けていました。日本国内で鳴き砂の個所は三十カ所ぐらい、その中で都市のそばに「鳴き砂」があるのは室蘭市だけです。
一九八六年からこの「鳴り砂」の保全に力を尽くしてきた、室蘭イタンキ浜鳴り砂を守る会の会長の寺地憲一さんは「鳴り砂は都市のすぐそばにある貴重なもの、ここの砂は、日高地方や樽前山の岩石の中にある石英が火山灰とともに、川を通して海底に堆積(たいせき)し海流でイタンキの浜に打ち寄せられたものです。砂が鳴くには、石英の粒がきれいであること、程よく丸みがあること、粒がそろっている、この三つの条件がそろって音を出します」。砂粒を拡大した写真を手にとり「この、ひし形の石英をみてください。火山活動のとき高温で誕生した石英です。透明で水晶の粒のよう。『天使の涙』といわれているのです。それがイタンキの浜にたくさん含まれ、いい音をだしているのです」と。
寺地さんは、「鳴り砂を守るのは大変です、今年は日高地方の大水害で大量の流木がこの浜にも流れついて、市民や行政にもお願いしてかたづけました。海岸の掃除には子どもたちも参加してくれています。鳴り砂の貴重なことが市民の中に広まってきていると思います」と話していました。
流木の除去に参加した田村農夫成日本共産党室蘭市議と一緒に鳴り砂の浜を歩きました。砂鉄を含んだ黒い砂が徐々に白い砂にかわっていくあたり、薄い冬の陽光に石英の粒がキラキラと輝く砂に風紋が連なり、そこに足を入れたら「きゅう」と砂が鳴りはじめました。体力づくりでいつもこの浜を走っている田村市議は「こんなにいい音で鳴くのはいままで聞いたことがない。鳴り砂の価値を市民に伝えたい」といいます。鉄鋼や石油工業都市の背後に豊かな自然が息づいていたイタンキ浜でした。
(内山勝人通信員)
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日本海に長靴のような形で突き出た石川県能登半島、その先端部分は奥能登と呼ばれています。奥能登の玄関口にあたる、門前町に鳴き砂の浜「琴ケ浜」があります。歩くと「キュッキュッ」と砂が鳴る浜です。
日本有数の雪割草の群生地など豊かな自然に恵まれた門前町。その美しい琴ケ浜も、今から三十年ほど前に鳴らなくなりました。「浜の真上の国道沿いの、採石場の排水が原因ではないか、と町議会で質問しました。“泣くに泣けない泣き砂の浜”という見出しのビラで保護を訴えたこともありました」と、日本共産党の町議会議員として長い間活躍している川上清松さんは語ります。その数年後に自然保護の問題と関連して、排水が砂浜に流れない措置がとられ、浜は少しずつ鳴くようになりました。
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一九九七年一月、ロシアタンカーの重油流出事故で大量の油が流れ着き浜が汚染されたのを機に、地元剣地の町内会(二百戸)のみなさんが、「琴ケ浜・鳴き砂を守る会」を結成。毎年五―六回総出で清掃を行うなど、砂浜の自然と鳴き砂を守る運動に取り組んでいます。会長の宮坂侑さんによれば、浜を汚す原因として漂着ごみの問題も大きいとのこと。「漂着するのは、大きなものでは冷蔵庫、ドラム缶、タイヤなど、一番多いのは生活用品のプラスチックや、海藻、漁具などで韓国製の物も多い」といいます。町も砂浜を〈町の天然記念物〉に指定し、海水浴場として整備するなど、保全・保護に取り組み始めています。いま、よみがえりつつある鳴き砂の浜で、仲間とともに清掃作業に精をだす宮坂さんは「こうして、協力してくれる熱心な会員の方がたと一週間に一回の見回りと清掃を続けて、鳴き砂の浜を守ってゆきます」と話してくれました。地元のみなさんの、鳴き砂の浜、奥能登の自然を大切にしようという思いが、ひしひしと伝わってきました。近年、琴ケ浜の北にある千代(せんだい)浜も鳴き砂であることがわかり、町の宝が増えました。
ことし七月、門前町で全国の鳴き砂の自治体・関係者が集まり、「全国鳴き砂(鳴り砂)サミットin門前」が開かれました。宮坂さんはサミットで、活動報告を行いました。
これから奥能登は厳しい冬の季節、荒海の日々を迎えます。
冬怒濤(どとう)無明の闇を越えて来し
(堀間嘉男 門前ブランド〔雪割草〕栽培研究会副会長)
鳴き砂(鳴り砂) 歩くと砂が足の下で「キュッキュッ」「クックッ」と鳴く砂浜。自然が豊かに残って美しく、石英の粒が多い砂浜でみられます。波などで、よく磨かれてつるつるになっている石英粒ほど、音がよくでるといわれます。
最近発見された北海道長万部町の静狩海岸や、茨城県北茨城市の長浜海岸、長崎県松浦市のぎぎが浜海水浴場など、全国で約30カ所の浜が鳴き砂です。