2003年11月25日(火)「しんぶん赤旗」
東京都は入学式や卒業式などでの「日の丸」「君が代」の取り扱いを厳密に定め、職務命令・処分で強制する実施指針(「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」)を決定(十月二十三日)しました。これに対し、「内心の自由を侵す」「学校現場の自主性を否定するもの」と強い批判が起きています。(東京総局・室伏敦記者)
「日の丸」は壇上正面に、「君が代」は司会者が「国歌斉唱」と発声し起立を促す、会場は児童・生徒が正面を向いて着席する―都の「指針」は子どもたちの喜びの日である卒業式の形をがんじがらめにしました。
いま、多くの都立高校では、生徒会に実行委員会をつくるなどして、卒業式の準備を半年以上前から始めます。
準備が進む板橋区内の都立高校三年の男子生徒(18)は「指針」について、「先生から説明を受けたけれど、卒業式はぼくたちのおとなへの第一歩だし、自分たちで物事を決める力があるから卒業できるのでしょう。その卒業式をおとなが勝手に決めるのはおかしい」と強く反発しています。
ことしの卒業式で、「君が代」斉唱で起立しなかった中野区内の都立高校OB・上保匡勇(じょうほ・まさたけ)さん(19)は「学校で特定の思想の入ったものを強制するのは間違っているし、有事法制やイラク派兵にも通じるものを感じる。高校生の平和への思いを踏みにじっている」と語ります。
「指針」は都立盲・ろう・養護学校にも通知されました。関係者からは「壇上で授与とか起立して斉唱とかいうが、子どもの実態を無視している」と当惑の声があがり、都立障害児学校教職員組合は抗議声明で、「障害者の目線に寄り添うといったノーマライゼーション(等しく生きる社会の実現)の流れに完全に逆行している」と批判しています。
「指針」は思想・信条の自由を保障した憲法や教育基本法、児童の思想・良心の自由の尊重を掲げた子どもの権利条約に反しているばかりでなく、国の見解とも異なる、強権的な「日の丸」「君が代」押しつけに足を踏み出しています。
文部科学省の学習指導要領は「日の丸」「君が代」の掲示や斉唱の仕方は定めていません。
小渕恵三元首相は「日の丸・君が代」法案審議のなかで「国旗の掲揚に関し義務づけなどを行うことは考えておりません」(一九九九年六月二十九日、衆院本会議)と答弁しました。
日本共産党の曽根はじめ都議は十一月十八日の都議会文教委員会で「都は指針を周年行事などにも適用させるというが、卒業式、入学式以外の学校行事での『日の丸』『君が代』について、文科省の小学校学習指導要領解説は、学校がその実施する行事の意義を踏まえて判断するのが適当としている」と指摘。「都のやり方は学習指導要領はもちろん、『日の丸』『君が代』を強制しないという政府の答弁や文書さえ逸脱し、内心の自由を侵し、特定の価値観を押しつける」としてその撤回を求めました。
「(指針のやり方を)高校生が納得できないと拒否した場合、個人の自由の問題であり、それ以上の指導はできないはずだ」と再三追及した曽根氏に、近藤精一都教育庁指導部長は「指導を積み重ねても起立しないとなれば、やむを得ない」と、生徒に強制できないことを認めました。
本来、学校の入学式や卒業式は、仲間を新しく学校生活に迎え入れ、また送り出すことをみんなで祝うもの。主人公は子どもたちです。だからこそ各学校では、児童・生徒や保護者も含めた、思いのこもったさまざまなやり方が行われてきました。
指針は学校の自主性を一切認めず、都が一方的に決めたただ一つの形式をおしつけるものです。
都は指針を区市町村教育委員会にも送りつけました。卒業式の季節を控え、指針の実施をめぐって地方議会や教育委員会の論議の焦点となります。
「日の丸」「君が代」強制や、養護学校の教育への介入など、この間の都の教育行政に対しては、教職員や教育研究者、保護者などから批判や懸念の声が上がっています。
十二月七日には、東京の教育は戦後最大の危機を迎えているとして、「教育を壊すな! 市民と教職員の12・7大集会」が千代田区の星陵会館で開かれるのをはじめ、各地でとりくみが始まっています。
石原都政のもとで強権的な教育への管理、統制を進めている都教委の「指針」は、学校行事での「日の丸」「君が代」の扱いや会場の形式を、「国旗は、式典会場の舞台壇上正面に掲揚する」、「国歌斉唱にあたっては、式典の司会者が、『国歌斉唱』と発声し、起立を促す」、「教職員は、会場の指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する」、「卒業式を体育館で実施する場合には、舞台壇上に演台を置き、卒業証書を授与する」、「式典会場は、児童・生徒が正面を向いて着席するよう設営する」などと十二項目にわたり事細かに指定。
「指針」に基づく校長の職務命令に従わない教職員は、「服務上の責任を問われる」と処分の対象とされ、校長などの学校管理職も「適格性に課題のある教育管理職の取扱いに関する要綱」で、一般教員への降格がありうるとしています。
「指針」は、都立高校や盲・ろう・養護学校など都立の学校を対象としていますが、同時に区市町村教育委員会にも送付されており、都内のすべての公立小・中学校でも同様の問題が予想されます。