日本共産党

2003年11月23日(日)「しんぶん赤旗」

設備は雨ざらし
食事時間も確保できず

お粗末な安全対策
9人死亡(今年)の新日鉄

人の命をなんと思っているのか


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 北九州市の新日鉄八幡製鉄所で十三日、床が抜けて労働者が転落する痛ましい死亡事故がおこりました。同製鉄所は今年に入って五人の犠牲者が出ました。安全を無視した極限までの人減らしと過密労働で重大事故が頻発している鉄鋼の職場。現地に取材に入り、安全対策のお粗末さにがくぜんとさせられました。

 (内野健太郎記者)


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新日鉄八幡製鉄所のシンボル、東田第一高炉=北九州

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北九州西労働基準監督署に新日鉄の労働災害問題で申し入れる新日鉄八幡製鉄党委員会のメンバーや労働者有志ら=19日、北九州市

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7月に死亡事故が発生した製鋼工場の現場スケッチ(新日鉄八幡製鉄所の労働者提供)

 「定年を迎えて、これからは趣味の陶芸とか、好きなことを思い切りやるんだといっていたのに…。会社のいうことなんかきかんやったらよかった」。転落死した乗越幸次郎さん(62)を知る元同僚は悔しがりました。

今月4日から働き始めた矢先

 乗越さんは二年前、定年退職しました。猛烈なリストラ「合理化」をすすめ、人員不足が表面化した新日鉄は、不足分を退職者でまかなう再雇用制度を実施。乗越さんも今月四日から働き始めていた矢先の事故でした。

 資産評価のための休止設備調査で脱ガス装置の高さ約三十メートルの通路を歩いていたところ、床が抜け十一メートル下に転落。脳挫傷で亡くなりました。調査していた工場は、十九年前から休止したまま。装置の床が腐食していたと見られています。

 「恐ろしいことをやっとった」と労働者たち。「税金対策のため屋根の鉄板を取り払い、設備は雨ざらし」「カラスが巣をつくっていて、ぼろぼろだった」といいます。調査になんの安全対策もとっていませんでした。

 記者が八幡製鉄所で取材をしていた折も折、千葉県の新日鉄君津製鉄所で二十日、関連会社の労働者が作動不良個所の点検中に落下してきた機械に頭を挟まれて即死。新日鉄全体では今年九人目の死亡災害です。

一六〇〇度の鉄を入れた鍋が転倒

 八幡製鉄所でも「信じられないような事故」が多発しています。七月、転炉で精錬した一六〇〇度の溶けた鉄を入れた鍋が転倒し、記録室から逃げ遅れた内尾宏さん(47)が溶鋼に押し流されて黒焦げになって焼死。天井クレーンのブレーキがきかず、つり上げていた鍋が下がり続けて秤量(ひょうりょう)台にのらず、鍋が傾いたためにおこりました。「クレーン運転士か誘導係かどちらか一人でもベテランだったら、事態に気づき、回避措置もとれたのでは」と作業経験のある労働者は指摘します。

 新日鉄では、一九八〇年代に後半から始まった五度に及ぶリストラ「合理化」で、六万五千人(八七年)いた労働者が一万六千五百人へと約四分の一に激減しました。

 職場の多くは一人作業となり、技能や安全に関する知識や訓練も不十分なまま食事時間が確保できない事態も。「弁当ははしを使わないけんけ、仕事ができん。パンをかじりながら仕事をしとる」というほどです。

 事故が起きた製鋼職場は、一組五人でしていた作業が一組四人に。うち半数はリストラで他の職場から配転された“現場新人”で、さらに再雇用制度で六十歳以上の労働者も入ってきています。

 その一方、粗鋼生産高は四年前に二万二千二百トンだったものが、今年七月には四万八千四百トンと二倍以上に増え、一人当たりの生産高は世界で類をみない高水準です。

 軽微・休業災害は八、九月の二カ月間だけで十二件にのぼっています。ねんざとして片づけられていた軽微災害が骨折だったという例も。労働者からは「なぜ休業災害として治療させないのか」の声があがりました。

 事故が続発するなか、製鉄所が打ち出した安全対策は、“やまびこ大作戦”と名づけた「大きな声だし」だけ。「ご安全に」と指を差して声をかける指差呼称を徹底するというものです。

 十月の新日鉄八幡労組の大会では、組合員有志が「労働災害を撲滅する決議案」を提出しましたが、とりあげませんでした。北九州市議会では、日本共産党議員団が「労働災害の防止にむけ指導・監督の強化を求める意見書」を提出しようとしたら、新日鉄の企業ぐるみ選挙で当選した議員を抱える民主党会派が反対し、意見書を取り下げる事態も起こりました。

 組合大会では、「いつ事故・災害がおきてもおかしくないといわれている。再雇用よりも要員配置を安定するとりくみを」「依然として軽微災害が多発している」「増産体制のなかではゆとりがない」と安全問題でいつになく不満の声が代議員からあがりました。

職場の声届くルール確立を

日本共産党が宣伝、対話

 日本共産党新日鉄八幡製鉄委員会は十九日、労働災害問題で会社を厳正に監督・指導するよう北九州西労働基準監督署に申し入れました。同署の高橋勉次長らは「構内で五人も亡くなり、危機感を抱いている」と語りました。党委員会は、利益最優先でなく、労働者の声が届き、命と安全を守るための職場ルールを確立しようと宣伝や対話を強めています。


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