2003年11月22日(土)「しんぶん赤旗」
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これが日本経団連など財界が描いている消費税増税のシナリオだ――その内容を日程と目的の両面からみてみましょう。
日本経団連は、消費税を将来18%程度まで引き上げることを前提に、「遅くとも二〇〇七年度までには10%とすべきである」(五月二十九日の提言)としています。日本経団連が具体的に描いているシナリオの概略は次のようなものです。
──〇七年四月一日から10%に引き上げるとする。食料品などの税率を低くする複数税率にすると、インボイス(送り状)方式の導入などで納税者側の準備がかかるため、一年間の余裕を置くと、消費税増税法案の成立は〇六年春。となれば、〇五年暮れの政府税調の税制改正答申に盛り込むため、具体的な詰めの準備は同年夏ぐらいからは必要になる。
政府税調の石弘光会長も「(消費税率を)三年後に上げるとしても、議論は二年後からしてもいい。(消費税率引き上げの)時期が決まれば、一年前倒しぐらいで関連法案等々を整備しなくちゃいけない」(十月六日の記者会見)とのべています。
小泉首相は「私の(首相)在任中は(消費税を)引き上げない」とくり返し表明しているものの、小泉氏の任期は長くて自民党総裁任期が切れる三年後の〇六年九月まで。〇七年の消費税増税実施は、小泉発言との整合性もとれるというわけです。
年金財源として露骨に消費税増税を求める日本経団連。社会保障問題と税制問題を一体に提起するようになった背景には、一つの出来事がからんでいました。
「経団連と日経連が統合したことで社会保障問題と税制問題をまとめて提言できる条件ができた」。日本経団連事務局幹部はこう指摘します。
財界団体の中で、税制や企業法制などを担当してきたのが旧経団連で、社会保障問題の担当は、労働問題を担当してきた旧日経連でした。日本経団連は、この両者が二〇〇二年五月に統合して発足しました。
奥田碩日本経団連会長は統合の狙いについて、「最近では、社会保障制度や雇用制度などが、企業の競争力を考える上で大きな課題、関心事項となっております。こうした課題について、経済界の声を一つにして、スピーディーに提案し、改革の実行を求めていく。これが統合の最大の理由」(〇二年七月二十二日、日本記者クラブでの講演)と語っていました。
統合「効果」によって消費税増税と年金改悪を一体で政府に実行を迫ることができるようになった──。これも二十一世紀初頭の財界戦略です。
……消費税導入まで…………
●1986年2月10日 稲山嘉寛経団連会長(当時)が定例記者会見で「増税なき財政再建を放棄するわけではないが、それ一点張りでは無理」と発言。大型間接税導入に積極的な姿勢を示す。日本商工会議所は反対。日経連も慎重。
●86年8月22日 政府税調の公聴会で、経団連の鈴木永二税制委員長(当時)が大蔵省(当時)が推していた製造業者売上税に反対し、日本型付加価値税(消費税)が望ましいと表明。
●87年4月 2月に自民党が国会に提出した売上税法案は、国会内外の反対運動で事実上廃案に。しかし、「議長あっせん」で新しい間接税導入に火種を残す。日本共産党は「あっせん」受け入れを拒否。
●88年6月14日 自民党、法人税率引き下げとともに消費税率3%を導入する「税制抜本改革大綱」を決定。
●88年6月16日 経団連税制委員会が「税制抜本改革部会」とその下に実務者レベルからなる「消費税作業部会」の設置決定。
●88年10月17日 経団連が自民党と共同で「税制改革を考えるサラリーマン大会」を開催。日比谷公会堂に2500人参加。
●89年4月1日 消費税導入。
●1994年9月1日 経団連が税制常任委員会を開催。所得税・法人税の減税と消費税増税による直間比率の「是正」が不可欠であるなどの意見取りまとめ。
●94年11月25日 自民、社会、さきがけの村山内閣が消費税率5%への引き上げ決定。
●97年4月1日 橋本内閣(自民、社民、さきがけが与党)が消費税率5%を実施。
消費税をめぐり、総選挙では民主党が「基礎年金の財源には消費税を充て、新しい年金制度を創設します」(マニフェスト)といち早く呼応しました。自民党も「将来の消費税率引き上げについても国民的論議を行い、結論を得る」(政権公約「小泉改革宣言」)と踏み込みました。
日本経団連は政治献金のための政党の採点表で、消費税率の引き上げについて、自民党と民主党に「B」(良い)という合格点をつけました。日本共産党は「E」(非常に悪い)でした。
日本共産党は、消費税増税に絶対反対だと表明してきたからです。
消費税は所得の少ない人や価格に転嫁できない中小企業に負担が重い弱い者いじめの税制です。日本共産党は、消費税は廃止すべきだと主張してきました。もちろん、二ケタ税率への大増税に強く反対しています。
日本共産党は、大企業や大銀行を応援する政治から、くらしを応援し、社会保障を予算の主役にする政治に切りかえれば、年金などの財源も消費税の増税に頼る必要はないと主張しています。
消費税増税を迫る財界の狙いは何でしょう。
ひとつは大企業の減税です。財界が消費税の導入や税率引き上げを主張するときは、必ず大企業の減税(法人課税の減税)とセットです。
消費税は一九八九年に導入されました。そのさい、当時の経団連代表は政府税調の公聴会で公然と法人税減税の財源確保のために大型間接税の導入を求めた(八六年)ことが、経団連の五十年史にも記録されています。
3%で導入された消費税は九七年には5%に引き上げられました。一方、法人課税は相次いで引き下げられました。
その結果、消費税導入以来十五年間の消費税収の総額は、国と地方で百三十六兆円(〇三年度は当初予算額)になります。同じ時期に法人三税(法人税、法人住民税、法人事業税)は百三十一兆円も減りました。消費者から吸い上げられた消費税は、大企業減税と不況による法人税などの減収の「穴埋め」で消えてしまった計算です。
今回の消費税大増税計画も、さらなる法人課税の減税要求とセットですが、それだけではありません。一部をのぞき労使折半となっている社会保険料の企業負担を軽くせよと求めています。
企業の負担は、法人税減税で「確実に軽減」したが、「この効果を相殺(そうさい)」しているのが「社会保険料負担の増加」などだ(九月十六日の日本経団連の提言)として、厚生労働省の厚生年金保険料率の引き上げ案に強く反対しています。
社会保険料の上昇への対応は「雇用削減を通じて」行うしかない(同提言)と脅し、「企業の従業員についても、自営業者と同様、保険料を全額本人が負担する方法に改めることが考えられる」(一月一日の日本経団連「奥田ビジョン」)とまでいっています。企業負担を軽くするか、なくしてしまえということです。
そのための財源は、「消費税の拡充」しかないというのが、財界・大企業の身勝手な要求です。
もうひとつ、見逃してはならないのは、憲法改悪とからむ軍拡財源との関係です。
経済同友会が憲法問題の提言(四月)を出すなど米国や財界が、海外での戦争のための集団的自衛権の行使を認めるように、くりかえし要求。総選挙で、自民党、民主党が政権公約に憲法改悪をかかげ、選挙後、日米の軍需会社の後援で自民党と民主党の「国防族」が日米の軍事戦略や軍備拡大について話し合うというところまで事態は進んでいます。
軍拡の大きなテーマになっているのは六兆円かかるともいわれる「新ミサイル防衛構想」です。
憲法改悪・軍拡へと進んでいったら、その財源はどうするのか。財政危機のなか、消費税増税の動機のひとつとなっても不思議はありません。