2003年11月21日(金)「しんぶん赤旗」
政府・与党は十九日に開会した特別国会の冒頭、小泉純一郎首相の所信表明演説や各党の代表質問を行わず、会期を九日間(土日祝日を除き実質六日間)にとどめる日程を多数の力で押し切りました。
首相の所信表明演説は、政府の基本方針を国民の前に明らかにするもの。仮に来年一月召集される通常国会での施政方針演説まで首相演説を行わないとすれば、総選挙から二カ月間も、国民は政府の基本方針を知らされないままということになります。
総選挙をうけた今回の特別国会は、事態悪化の一途をたどるイラクへの自衛隊派兵の是非、二〇〇四年「年金改革」が大きな焦点となっています。日本道路公団の藤井治芳前総裁の発言に端を発した道路行政をめぐる政官財の癒着疑惑も未解明のままです。だからこそ、野党側は、十分な審議を確保し、少なくとも首相の所信表明演説とそれに対する各党代表質問を要求していたのです。
イラク派兵や「年金改革」といった国の基本にかかわる重要問題で、政府の基本方針を示すことは、政府の責任です。国会での方針説明と議論を避けて、審議会など密室の議論だけで事を運ぶようなことがあってはなりません。
だいたい、国民的な議論を行うことは、与党自らが選挙前に国民に約束していたことです。
自民党の安倍晋三幹事長は「年金改革」について、「国民的な議論をしながら決めていけばいい。これは党派戦、政争の具にするのではなく、国民みんなで考えていく。だから、われわれは拙速な議論を避けたいと考えている」(十月十日、テレビ朝日系番組)と語りました。この発言は、与党が選挙前に「年金改革」案をまとめない理由を司会者から問われて述べたものです。
小泉首相も、「野党とのあいだでの話し合いも必要だし、与党のなかでも今度は国民の声にこたえて一緒にやりましょうという方がでるかもしれない」(十月二十七日、NHK番組)と述べました。
選挙が終われば、所信表明演説も代表質問もやらず、国民的議論を封殺する政府・与党。一方、日本経団連の奥田碩会長ら民間議員が入った経済財政諮問会議で「年金改革」の集中審議をして、「改革」案をとりまとめようとしているのですから、一体どこに顔が向いているのかとなります。
国民無視は、イラク派兵問題をめぐっても顕著です。最近の世論調査では国民の七割がイラク派兵反対の声をあげていますが、政府は「情勢は厳しいが、日本として国際社会の責任を果たすために積極的に貢献すべきだ」(小泉首相、十九日の記者会見)と派兵の立場に固執しています。国会審議をさせないために、イラク派兵の大枠を定める基本計画の閣議決定を特別国会後に先送りし、議論もせずに派兵しようとしているのです。
政府・与党はイラク特措法をたてに「戦闘地域にはいかない」と自衛隊派兵に突き進もうとしましたが、泥沼化を深めるイラクの現実がその政府・与党の建前がまったくの虚構であることを示しています。ここまで総破たんした言い分を放置しておくなど重大な問題です。
イラクの現状をどう打開するのか、真剣な検討が国会でもはかられるべきです。政府の方針さえ国民に示さず、国民の前での議論を回避する小泉首相と与党。これでは政権担当能力が疑われます。(高柳幸雄記者)