2003年11月18日(火)「しんぶん赤旗」
「景気回復には、個人消費をあたためることがカギ」など、本紙経済面でもよくつかう表現です。読者の方から「ところで、個人消費って何ですか」「数字と実感があわないのはなぜ」とたずねられました。(渡辺健記者)
「家計から直接支出しているもの。これが、個人消費です」
内閣府の経済社会総合研究所の担当者の話です。三カ月ごとに国内総生産(GDP)統計を作成し、発表している研究所です。
推計方法は細かく定められています。個人消費は食料、被服、住居、家具、保健・医療、交通、通信、娯楽・レジャー、教育など八十七に分類された消費支出を中心に推計します。
かつては、総務省発表の家計調査などをもとに推計していましたが、いまは百貨店やスーパーなど供給する側の統計もあわせて使っています。 個人消費はGDPの約六割を占めています。日本の経済の力が上向くかどうかは、個人消費の動向にかかっています。
「われわれが描いている(景気の)持ち直しに向けた動きが示された」。竹中平蔵金融・経済財政担当相は、十四日発表された七―九月期のGDPが前期比で実質プラス成長になったことに、自信ありげでした。
しかし、プラス成長といっても、物価変動の影響を除いた実質でわずか同0・6%増。物価下落がつづいているなかで、より実感に近い名目では同0・0%減です。個人消費は、実質で同0・0%増、名目では同0・3%減でした。これで「持ち直し」といわれてもピンときません。
東京・新宿で百貨店前を通ると、早くもクリスマス商戦を狙ったイルミネーションが華やかです。が、全国の百貨店の売上高は前年同月と比べ十八カ月連続のマイナスです。「売り上げの四割を占める衣料品(うち七割が婦人服・洋品)、二割を占める食料品ともに振るいません。個人消費は底ばい状態が続いており、回復状況ではないという基調判断は変えておりません」と日本百貨店協会の広報担当者はいいます。
うーん、やっぱり竹中さんの感覚にはズレを感じます。
もともと、GDP統計で発表される個人消費の数値に実感とのズレを感じられる方が多いと思います。これには、カラクリがあります。
GDPがプラス成長になった四―六月期の統計ではこんなことがありました。プラス成長の要因にあげられたのが、個人消費。個人消費を押し上げたひとつに保健医療費の大幅増がありました。背景にあったのは四月からはじまったサラリーマン本人の医療費負担を二割から三割に増やす医療制度の改悪でした。
商業メディアも「消費者には医療費が増えるのは『痛み』だが、GDP計算上は個人消費を押し上げる皮肉な結果をもたらしている」(「東京」八月十三日付)と書きました。
今回は、「痛み」によるGDP押し上げ分が続いているため、前期比では「伸び」としては数字に出てきませんでした。しかし、痛みは家計にのしかかったままです。
ちなみに統計上、個人消費から税金分が差し引かれることはありません。発泡酒もたばこも税金分を含めて個人消費としてカウントされます。
現在5%の消費税分も個人消費としてカウントされます。消費税が10%にでも引き上げられることになれば、とたんに個人消費がはねあがり、数字のうえでは一時的にGDP成長率が伸びるなどということも起こりかねません。まるでブラックユーモアの世界です。
実際には橋本内閣時代の一九九七年に消費税を3%から5%に引き上げたことをはじめ九兆円の国民負担増で個人消費を冷やし、経済の失速状態を生み出しています。
雇用や老後の不安をなくし、減税などで直接家計を応援していくことが、個人消費を増やしていく道であることは日銀の「生活意識に関するアンケート調査」の結果にもはっきりあらわれています。