2003年11月18日(火)「しんぶん赤旗」
──国立大学を法人化する法律が成立しました。先生は法人化によって基礎科学研究にお金がまわらなくなることを懸念されていましたね。
独立採算ということになると、お金に結びつかない基礎科学とか文学とかが冷や飯を食うようになるのは当然なんです。それじゃ困るわけですよ。
そうかといって、私が財団つくるといっても、いまのご時世で、何百億、何千億円という寄付金が集められるはずはない。実をいうと、いま財団をつくるのは最悪の時期なんです。それをなんで無理してつくるのか、いろいろ僕は考えた。
いままでの財団とは行き方をまったく変えようというふうに考えたんです。いわゆる特定の団体、経団連(日本経済団体連合会)とか、そういう団体に頼らない。国民全員に背負ってもらおうと。だから、標語としては、“国民一人が年に一円”です。景気不景気にかかわらず、日本国民のみなさんが年に一円ずつ応援してくださいよと、そういう呼びかけをしているわけです。
じゃ、具体的にどうするか。たとえば、東京都が自治体として賛助会員に入ってくれと頼んだわけです。東京都は快諾してくれました。岐阜県も入ってくれるし、岩手県も富山県もはいってくれます。日本全国の都道府県みんな入ってもらいたいと思っています。
そうすると、その県の人口に応じて、たとえば七十万人だったら、年に七十万円賛助会費として入れてもらえば、日本全国で一億二千万円の事業費がでてくる。それを期待しているわけです。
──将来、基礎科学を担っていく若い人たちに期待されていると思いますが、若者の理科離れということもいわれています。
マスコミなんかでそういわれていますがね、このごろ私はいろいろな講演なんかに引っ張り出されていくと、小学生、中学生、高校生がたくさんきます。こどもたちは、みんな目を輝かして聞いている。理科離れなんてどこにあったっていう気がするくらいですよ。
中学なんかの理科の先生が、自分が理科を楽しんでいる、そういう先生が教えることが一番大事なことだと思います。そうでなきゃ、こどもたちがそれに興味をもつはずがない。
だからね、僕はいうんだけど、大学院で物理や化学や生物を学んでいる学生、彼らはそれがおもしろいと思うからやっているわけです。彼らを半年ぐらい中学に派遣する、それをおやんなさいよと。前の遠山文部科学大臣にもいったんです。考えてみましょうっていっていたけど、代わってしまったからどうなったかね。
──先生はお弟子さんを育てるのがたいへん上手だといわれますが、いま日本でニュートリノの研究をやっているのは大体先生のお弟子さんですよね。
まあ、そうですね。神岡(岐阜県神岡町、スーパーカミオカンデなどのニュートリノ観測装置があります)が、ニュートリノ研究の世界のメッカになっていますね。いま、アメリカの研究者だけでも百三十人以上参加しているし、それから、今回問題になっているニュートリノ振動の実験が始まれば、ヨーロッパから何十人か、参加したいといってきています。
七月に、一カ月ヨーロッパにいっていたんですが、そのときも、オックスフォード大学の教授が僕のところにやってきて、研究が始まったらぜひ行きたいと思ってイギリス政府に予算要求しているといっていました。
神岡が世界のニュートリノ研究のメッカになっているというのは、うれしいことですね。
──最後に、ひとことメッセージを。
自分の国の基礎科学は自分たちのものだという考えをもって、全員が少しずつでもいいから、そのために応援しようという気持ちになってほしい。(おわり)きき手 前田利夫記者