2003年11月17日(月)「しんぶん赤旗」
女性の仕事は補助的業務であるとして賃金を低く抑える「コース別人事制度」。これによる男女差別の是正を求めた総合商社・兼松の女性六人が起こした裁判で、東京地裁は国際的な流れに逆行する不当判決を出し、働く女性と男性の怒りをよんでいます。(原田浩一朗記者)
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原告の女性たちが是正を求めているのは、女性を「二級従業員」扱いする「コース別人事制度」です。
兼松が同制度を実施したのは、一九八五年一月。男女別だった賃金体系を「コース別」に再編。男性を全員「一般職」、女性を全員「事務職」に振り分けました。「一般職は基幹的業務、事務職は補助的業務」とし、“仕事の内容が違うのだから、賃金に差があるのは当然だ”と男女別の賃金体系を維持したのです。
逆井征子(さかい・ゆきこ)さん(60)は、当時をふり返っていいます。「女性は男性より賃金が低いことに不満をもちながらも、一生懸命働いていました。それなのに、『コース別人事制度』によって、女性は二級従業員だとレッテルをはられたわけです。これにはがまんできませんでした」。
「コース別人事制度」で男女の賃金格差はむしろ拡大。女性たちの努力でやっと実現した二十二歳の男女同一初任給も崩されてしまいました。定年まで勤めても、女性の賃金は男性二十七歳の賃金を超えることがなく、六人の原告の女性たちの同時期入社男性社員との賃金格差は、一人あたり約二千三百万円から六千三百万円にのぼります。
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総合商社の業務は、契約を結ぶ仕事、受注・発注、配送手配、クレーム処理、支払い、代金回収と多岐にわたります。契約を結ぶのは男性社員が多いとはいえ、ほとんどの分野で男女の区別なく、仕事をしています。
兼松は、一部の職場で、取引先からのテレックスを事務職社員(女性)に回覧しないようにしました。一般職社員(男性)からの指示を受けないと女性社員は仕事ができない、という姿を見せるためです。しかし、「仕事が回らず、半年で撤回された」(逆井さん)といいます。
また兼松は、“「事務職」は転勤がない。「一般職」は転勤がある。賃金に差があるのは当然”とも主張しました。
しかし、副社長を務めた男性も含め、一般職社員でも一度も転勤しないまま昇給昇格していく社員も珍しくないことを原告が示すと、反論できませんでした。
兼松は、九七年、「事務職」から「一般職」への「コース転換制度」の受験資格要件を緩和。「能力・実績優秀な者」「本部長の推薦が必要」との要件をなくしました。
とはいえ、論文や面接試験の評定基準も結果も非公開。「女性社員だけ高いハードルを越えなければ男性と同じ処遇を受けられないなんて、男女差別そのものです」と原告の女性たちは批判しています。
「あまりにひどすぎる判決に、最初の一歩に戻ったつもりで、やっていきます」と逆井さん。同じく守芙美子さん(66)も、「私たちだけの問題ではありません。後に続く女性たちのためにも、ここで引き下がるわけには、いきません」
女性たちは、東京高裁に控訴することを決めました。
東京地裁(山口幸雄裁判長)が五日に出した判決は、職場の実態に目をつぶり、国際的な批判にさらされている「コース別人事制度」を擁護するものでした。
社員を基幹業務と補助業務に二分して管理する「コース別人事制度」は、男女雇用機会均等法(旧均等法)が施行された一九八六年前後から、従来男女別賃金制度をとっていた金融業や商社などの大企業に拡大しました。コース別の形をとって、女性を「補助的業務を担う者」とみなして、その昇給・昇格を低く抑えるものです。女性の低賃金をテコに、労働者全体の賃金を引き下げています。五千人以上の大企業の53%に広がっています(労働省一九九八年度女性雇用管理基本調査)。
地裁判決は、兼松で導入された「コース別人事制度」について、男女雇用機会均等法(旧均等法)をのがれて男女別賃金制度を維持するためのものと認めながら、「旧均等法は男女差別の禁止を努力義務としていたから、違法とまではいえない」と容認しました。
さらに、九九年に均等法が改定され、募集・採用・配置・昇進における男女差別を禁止規定にした以降についても、兼松のコース転換制度が九七年に改定されたことにより、もっぱら本人の希望と一定の資格要件を満たせば転換試験を受けられる合理的な制度になったとして、「コース別の賃金体系は公共の秩序に反しない」と会社をそっくり免罪したのです。
この判決の論理にしたがえば、コース転換制度を「充実」させれば、「コース別人事制度」は免罪されます。判決直後の報告集会でメモを取っていた一般紙の女性記者からも、「ひどすぎる」と声が漏れたほどでした。
日本の大企業に広がる「コース別人事制度」には、国際的な批判が高まっています。
ILO(国際労働機関)条約勧告適用専門家委員会は、コース別人事制度のもとで男女間賃金格差が拡大していることにくりかえし懸念を表明。国連女性差別撤廃委員会は八月、日本政府の報告への「最終見解」を出しました。そのなかで、憲法が両性の平等を規定する一方、国内法に差別の明確な定義がないとし、法律に明記して間接差別を禁止するよう勧告したのです。
国際的な批判をうけ、「コース別人事制度」は合法としてきた厚生労働省でも、「男女間賃金格差研究会」が二〇〇二年に発表した最終報告で「コース別雇用管理が男女間賃金格差を生み出している面がある」と指摘せざるをえなくなっています。
原告弁護団の中野麻美弁護士は、今回の地裁判決について、「ILOや国連から男女差別であると指摘されているコース別人事制度を容認したもので、国際的な流れに逆行しています。国際社会から厳しい批判を受けることは間違いないでしょう」と語っています。