2003年11月16日(日)「しんぶん赤旗」
日本には、長い歴史を持つ伝統の技術、産業が各地にあります。しかし、生活様式の変化や機械化、新しい素材の開発などで、戦後急速に衰退してきました。国や地方自治体は、衰退する伝統工芸品産業を残そうと、後継者育成や需要開拓に取り組んでいます。手すき和紙や漆器、織物などの保存・育成に取り組む岐阜県美濃市と沖縄県那覇市の模様をみました。
岐阜・美濃手すき和紙 |
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岐阜県美濃市では、千三百年の歴史を持つといわれる「美濃手すき和紙」の職人技が、いまも息づいています。
天然アユが泳ぐ板取川が流れる山あいの民家に、手すき和紙の大光工房があります。
同工房の職人・澤木健司さん(23)が、「すき舟」の水中に漂う紙の繊維を木枠の「簀(す)」「桁(けた)」で手際良く集め、たて約六十五センチ、よこ約一メートルの紙にすいていました。
澤木さんと手すき和紙との出合いは、美濃市が主催した「美濃手すき和紙基礎スクール」(一九九七年七月開校)でした。職人技への驚きと「何か変わった仕事がしたい」と職人の道へ。工房の師匠、市原達雄さん(70)のもとで腕を磨き、四年がたちました。
一九五〇年代後半、手すき和紙の生産者は千二百軒ありましたが、機械化による大量生産や石油化学製品(ポリエチレンシート)の台頭により、手すきによる生産は年を追うごとに減少しました。
八五年、旧通産省(現経済産業省)から伝統的工芸品に指定されるものの、手すき和紙は四十軒にまで減っていました。現在は十九軒がつくりつづけています。
そんななか、市は九四年、美濃和紙振興の拠点として「美濃和紙の里会館」を完成。会館建設のさい、日本共産党の西部和子市議の提案により、和紙の博物館的な要素も取り入れられました。
美濃手すき和紙 歴史は奈良時代にさかのぼります。お経をうつす写経が盛んになり、都を中心に流通するようになりました。史実から千三百年以上の歴史があると考えられています。 |
同時に、手すき和紙職人の後継者育成にも着手しました。後継者育成奨励金制度をつくり、職人のもとで働く若者に研修生として二年間、月五万円を支給するものです。これまで五人の若者が制度を利用し、職人の門をたたき修行しました。
和紙は、ほぼ問屋からの注文生産のため、職人として食べていける人はわずかで、アルバイトをするなど、それぞれの生き方で技を磨き、手すき和紙の新たな形を模索しています。
大光工房の市原さんは、十七歳から働き、手すき和紙職人を続けてきた経験から、「手すき和紙だけで食べていくというやる気を持たなければならん」と職人の生き方を説いています。
(東海・北陸信越総局 小川浩記者)
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那覇・首里の工芸品 |
琉球王国時代、貿易を中心に栄えた沖縄では、諸外国の影響をうけたさまざまな工芸品が生まれ、数百年間にもわたり沖縄独特の伝統工芸として受け継がれてきました。
それが第二次世界大戦末期の空襲や地上戦により、那覇・首里などの伝統工芸は存亡の危機を迎えました。
しかし戦後、工人たちの不屈の努力や、沖縄県が一九七三年、全国に先駆けて「沖縄県伝統工芸産業振興条例」を制定するなど、振興策を積極的にすすめ、次第に復興を遂げました。
経済産業省の伝統的工芸品に指定されている首里織、琉球びんがた(染物)、壷屋焼(陶器)、琉球漆器の中心的産地である那覇市は、一九九三年に伝統工芸館を建設し、工芸品の体験教室や展示販売などを行っています。
さらに、各産地組合へ後継者育成補助金(年四十万円〜五十万円)を支給するなど、伝統工芸の継承や需要開拓をめざした施策を実施しています。
それでも生活様式の変化や後継者不足、また、みやげ物店でびんがた模様をプリントした製品や東南アジア産の安価な陶芸品、織物などが販売されるようになり、新たな困難に直面しています。
壷屋陶器事業協同組合の島袋常栄理事長は、「少し値段の高い、手づくりの工芸品がなかなか売れなくなってきている」と訴えます。
各事業組合では、産地の活性や技術の向上、消費者ニーズに合った製品開発などに努力し、伝統的工芸品マークや産地組合証紙を貼付(てんぷ)し、外国製品などと区別しています。
昨年六月には、那覇市内の二つの小学校で、学校給食への琉球漆器の使用が試験的に始められました。
日本共産党那覇市議団は、伝統工芸館への市職員の派遣や壷屋焼博物館の建設、学校給食への琉球漆器の使用などを議会で繰り返し訴え、伝統工芸産業を守り発展させるために全力を尽くしてきました。
島袋理事長は、「私たちはお金もうけが目的じゃないですから」と、にっこりと笑いながら、「市街地のなかで、少しでも昔のたたずまいを残して、壷屋を訪れる県民や観光客が『ここに来たら心が休まる』と思ってもらえる地域を、みんなとがんばってつくりたいんです」と語っています。
(沖縄県・浅野耕世記者)
205品目 国指定の工芸品 国は一九七四年に伝統的工芸品産業の振興に関する法律をつくり、振興する工芸品を指定して、産地組合が行う後継者の確保と育成、需要開拓、技術の育成・継承の事業に補助金を出してきました。 国指定の伝統的工芸品は、北海道を除く全都府県の二百五品目。繊維製品、陶磁器、漆器、木・竹工品、金工品、仏壇・仏具、和紙、文具、石工品、貴石細工、人形・こけし―などです。 指定の条件は、(1)百年以上続き、主として日常生活に利用されるもの(2)製造過程の主要部分が手工業である(3)伝統的技術・技法によって製造されるもの(4)原材料が伝統的に製造されてきたもの(5)一定の地域で産地を形成していること―など。 地方自治体も同様に、国指定以外の伝統工芸品も指定し、さまざまな振興策を行っています。しかし、東京都が財政難を理由に二年前から産地組合への補助事業を順次撤退するなど、後退の動きもあります。 |