2003年11月15日(土)「しんぶん赤旗」
「会社にダメージになるものは抑える。司直の手が入っても証拠さえなければ大丈夫だといわれた」−−。サラ金大手「武富士」に十四日、ついに盗聴という犯罪容疑で捜査が入りました。日本経団連に加盟する上場企業。同日逮捕された同社元法務課長(渉外担当)は、同社と武井保雄会長への批判封じ込めや敵対者監視のため、「合法非合法を問わない」対応に走っていたと法廷で語っています。
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盗聴は、元法務課長の中川一博容疑者が法廷で「会長指示で違法な電話盗聴にかかわった」と自白したことで、一気に表面化しました。
陳述によると、同容疑者がかかわって最初に盗聴したのは同社常務執行役員。「武富士や武井健晃本部長(会長の二男)を批判するホームページの首謀者と疑った」(中川容疑者)といいます。さらに、ホームページ作成者の社員、つづいて暴行した本社社員を刑事告訴した元支店長が盗聴の対象者にされました。
二〇〇〇年秋には武富士の株価が暴落。これを雑誌記事が原因だと考えた同社は、執筆者と見たジャーナリストの山岡俊介氏の調査を開始。複数の元社員によると、経歴調査や尾行、取材の様子を盗み聞くなどして、情報源や人間関係のチャート図も作成していました。盗聴もこの調査の一環だったといいます。
複数の元社員によると、武富士は株価に影響を与える記事に敏感で、情報誌記者への調査を日常的に実施していました。さらにジャーナリスト二人が盗聴されました。一人は通話記録がありませんでした。
「(武富士では)武井会長を批判、敵対する人間は在職中、退職後にかかわらず動向を確認する」と同容疑者はのべています。批判が生まれる土壌は、武富士自身にあったといえます。
武富士は、同和団体と契約して京都市で地上げをすすめた八〇年代から、右翼・暴力団との関係が指摘されています。ことし六月には、武富士が「指定暴力団山口組関係者の助力を得た」と認定する民事訴訟の判決が東京高裁で出されました。
元社員たちが、長時間のサービス残業など過酷な労働実態や、「過剰融資しないと絶対達成しない」(元支店長)という過大なノルマ、違法な営業実態を告発。関東財務局は違法取り立てで同社支店を営業停止処分にしました。社員が債務を保証させられる問題も起きています。
盗聴された元支店長の藤井龍さんは「闇が多い会社。今回の捜査でやっと一筋の光がさした。本当のことが解明されるように徹底的に捜査してほしい」と話します。
警視庁捜査二課は、山岡氏宅から盗聴器を発見。捜査は今後、武井会長の指示の有無が焦点になります。中川容疑者は十月二十二日の公判で、「あるとき武井会長から呼ばれ『小瀧国夫(容疑者)から何か引き継いでいないか』と聞かれた。『ない』というと、(調査会社の)業者一覧表を渡された。盗聴は武井氏の指示です」と話しています。
武富士による盗聴事件で逮捕された調査会社・アーク横浜探偵局代表の重村和男容疑者(57)は、逮捕前の十月中旬、本紙の取材に応じました。
重村容疑者は、武富士との関係について「十年ぐらい前から仕事をしている。上客だった」と語りました。最初の仕事は、武富士元社員がはじめた貸金会社の調査。それをきっかけに「腕がいいと思ってまた頼んできた」といいます。
盗聴を依頼した元武富士法務課長の中川一博容疑者(業務上横領罪で公判中)によると、重村容疑者には盗聴などの報酬として三千万円以上が支払われています。
中川容疑者とは、ひんぱんに連絡を取り合っていました。
重村容疑者は、取材時には武富士への盗聴については「否定」しました。しかし、同社の調査業務の中でたびたび盗聴をおこなっていたことを認め、「どれだけいい音でとるかが、腕のいい業者かどうか」だと詳細な手口を語りました。
盗聴は、電話回線に発信機を装着して電波をとばし、近くの植え込みなどに隠した受信用のテープレコーダーで録音する方式。録音は、通話時だけ作動します。
重村容疑者は、警察の逮捕が「今日来るか、今日来るかと考えると、毎晩つい酒を飲みすぎてしまう。つらい」と話しました。