2003年10月24日(金)「しんぶん赤旗」
“定期昇給廃止、降格・降給ありの賃金制度、サービ残業を合法化する裁量労働制を導入”――こんな処遇・勤務制度の大改悪が、総合電機トップの日立製作所(42000人、庄山悦彦社長)で提案されています。関連グループ企業をふくむ32万人に影響を与えることは必至です。今月末に労資で最終合意し、来年1月に新制度への移行を見込んでいます。
「こんな重大な制度変更をなんで急いできめるんだ」――。愛知県の事業所の組合支部が九月に行った職場集会。ふだん声を上げない労働者たちから怒りの声が上がりました。
組合の定期大会に全社の支部からよせられた意見は、処遇問題を中心に百四十項目に及びます。職場での賛否では、賛成がゼロまたは少数、保留が多数となり可決されないケースがいくつも生まれました。日立では、めったにないことです。
かつてない職場からの批判に、会社は当初九月末とした労資の最終合意を処遇制度は一カ月延長し、勤務制度は先延ばしすることを余儀なくされました。
「従業員のやる気と能力を最大限に引き出す」「『仕事を通じた価値創造』が大きい者を高く評価し処遇する」と、会社は宣伝しています。
ところが、中身は、勤続年数で毎年賃金が上がる定期昇給制度を、今後技能職を含めて廃止、高い評価を得なければ賃金は上がらず、下がることもあるという内容です。
総合職の場合、「チャレンジングな高い目標」(処遇制度改革最終結論、十月十三日付)を掲げ、必死にがんばって目標を達成し上司もそれを認めたときに、初めて「標準」の評価が得られ賃金が上がります。それは、多くがこれまでの定昇の約半額です。目標を達成できなければ、賃上げはゼロまたは賃下げに。慣れない仕事に異動させられたり降格となれば、総合職で百万円近い年収減となります(三年間に限り一部賃金補償あり)。とりわけ、若年層は賃金が低いまま賃上げの保障がなくなるため、こんご賃金水準は下がる一方です。
いくら働いても残業代が支払われない裁量労働制は、これまで長時間・ただ働きの温床となってきたニセ裁量労働制(Eワーク)の対象者にまるごと適用するもので、法の厳格な要件からも問題があります。土曜日を出勤日扱いとし、一日七・七五時間以上の残業をしても、「個人の裁量」として代休制度を廃止するなど大幅な改悪です。
労働組合は、「『強い日立』を復活させるために、従業員・組合員一人ひとりがやる気と能力を最大限に発揮することが必要」であり、「新処遇制度は組合の考えに沿ったもの」と、会社の方針を支持しています。
「会社に期待していたことがどんどん裏切られていく」。二十代の技術者はこう語りました。−いい仕事をして製品を通じ社会に貢献する。仕事が認められて生活も安定する−こんな願いをもって日立に入社したのに、仕事でも処遇でも失望感が広がっている、と。
「こんなことしたら、会社にとっても未来はない」と訴えるのは、日立地区(茨城県)の事業所で働く五十代の設計技術者です。「職場はいま、だれもが先の見通しを持てず、目先の利益を上げることに没頭し、殺伐としています。リストラによる人手不足と成果主義的査定で、上司を含めて目いっぱい仕事を持たされ競争させられているので、だれも若手に仕事を教える余裕がない。一人で悩んで精神疾患になる若手が後を絶たない」
中央研究所(東京)の総合職の五十代・男性はいいます。「日立の労働者はこの二年間、春闘の逆提案で賃金を5%カットされ、一時金も下げられ年間四十−七十万円もの減収になった。今度は制度そのものを改悪して労働者に犠牲を強いるとは、我慢も限界。組合は労働組合の原点に立ち戻って労働者のためにたたかうべきだ」