2003年10月24日(金)「しんぶん赤旗」
米国のような二大政党制になれば政権交代が起こり政治は変わる…。こんな宣伝が振りまかれています。しかし「本家」米国をみれば、財界が後押しする二大政党制では、国民の暮らしと平和を守る政治改革が実現しないのは明らかです。(坂口明記者)
米国の民主、共和の二大政党が、財界が後押しする政党という点で変わりないのは、政治献金の流れをみれば明白です。
米民間団体コモンコーズの調査によれば、二〇〇一−〇二年の大企業からの「ソフトマネー」(連邦選挙運動法の抜け穴を利用して政党に提供される資金)と呼ばれる政治献金は、与党・共和党に56%(二億二千万ドル)、野党・民主党に44%(一億七千万ドル)が配分されています。軍事・宇宙産業からの献金は、ほぼ同額です。
大企業に支えられた二大政党が、戦争と平和の大問題で違いがないことは、一昨年の9・11対米同時テロ以降の米国政治をみれば明らかです。私は、これを現地で目の当たりにし、財界が後押しする二大政党制政治の恐ろしさを痛感しました。
同時テロを契機に共和党政権が全世界規模の戦争政策を開始したのに対し、民主党は全面支持の態度をとりました。アフガニスタン攻撃に反対したのは、民主党の下院議員一人だけでした。
二大政党以外の政党が存在しない連邦議会では戦争政策批判の声は聞こえず、完全に「大政翼賛会」化しました。
「世界最大の圧倒的な軍事力をもつ米国はどこに行くのか」−世界中の人々が9・11後の米国に恐怖を抱きました。その恐怖を呼び起こした背景が、二大政党制の下での「挙国一致」政治でした。
今年春のイラクへの先制攻撃戦争でも、民主党指導部は戦争支持の立場をとり、議員の多数が同調しました。
大義なきイラク戦争の真相が明らかになるにつれ、国民の批判は高まりました。来年の大統領選で政権奪還を目指す民主党の予備選候補者たちは、政府の戦争政策をやり玉に挙げ、支持拡大を競うに至っています。
しかし候補者中の現職議員でイラク戦争に最初から反対してきたのはクシニチ氏だけです。同党候補者たちのイラク戦争批判は国民の声に引きずられた軌道修正であり、同党が政治的指導性を発揮した結果ではありません。
「あなた方は先制攻撃戦争をとめることができたんだ」−クシニチ氏はゲッパート前党下院院内総務ら候補者を批判しました。同党が昨年十月のイラク戦争容認決議に反対していたら、イラク問題をめぐる事態は大きく違っていたはずです。
今日の米国の二大政党制の下では第三党に対して分厚い排除の壁があります。広大な米国で、金も組織もない第三党が、完全小選挙区制のもとで連邦議会に進出するのは至難の業です。
米国でも一九三〇年代から五〇年代にかけて一部の地方自治体で比例代表制が実施されていたことがあります。しかし「比例代表制はクレムリン(ソ連)の保護下で混乱を起こす」ためのものだといった反共攻撃により廃止されてしまいました(柳沢尚武著『二大政党制と小選挙区制』)。
それでも第三党を求める国民の声は、繰り返し表明されています。九二年の大統領選挙ではテキサスの大富豪ロス・ペロー候補が千九百七十二万票、18・9%もの得票率を獲得し、全米をあっと言わせました。第三党としては一九一二年以来で最高の得票でした。
前回二〇〇〇年の大統領選では、大企業に奉仕する二大政党制の不毛を痛烈に批判した緑の党のラルフ・ネーダー候補が二百八十八万票(得票率2・7%)を得ました。
今年十月のカリフォルニア州知事選では俳優のシュワルツェネッガー氏が当選しました。同氏は共和党から立候補しましたが、その政策は社会政策も含め今日の同党主流よりは温和な内容でした。同氏の当選は、共和党の勝利というよりは州財政破たんを含む政治の現状への批判票の結集であり、十一年前のペロー旋風と共通しているとの見方が出ています。
同州知事選後の全国紙USAトゥデー十四日付の世論調査では、「共和党、民主党以外の第三の党が必要だ」と答えた人は四割に達しています。
根本的に違いのない二大政党制の下では政治不信が強まり、棄権が増えています。大統領選では有力な第三党候補が立つと得票率は上向きますが、九六年選挙では初めて50%を割り、49%となりました(有権者比)。
二大政党政治への絶望感から選挙人登録する人自体が少ないのが現状です。二〇〇〇年選挙では選挙人登録をしない人は24%(四千九百万人)に達しました。
財界が後押しする二大政党制は、米国の国是である民主主義を掘り崩し、世界の平和を脅かす存在と化しています。
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