2003年10月8日(水)「しんぶん赤旗」
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間近に迫った総選挙を前に、悪化した雇用をどう立て直すかが大きな問題になっています。日本共産党の綱領改定案は日本社会の特質の一つとして雇用と労働のルールが確立していないことを取り上げ、「日本社会の重大な弱点」と指摘しています。そのルールを確立すればどのような効果があるか、現在あるルールにしぼってみてみました。(篠田隆記者)
改定案は「『サービス残業』という違法の搾取方式までが常態化している」と指摘しています。
労働基準法によると使用者は、労働者に週四十時間(一日では八時間)を超えて労働させてはならないとしています。残業などをさせた場合は通常の賃金より25%−50%の「割増賃金」を支払わねばなりません。
違反すれば刑務所(六カ月以下の懲役)に入るか、三十万円以下の罰金刑で、現に経営責任者が逮捕され、罰金刑を受けた事例が出ています。残業しても賃金を払わない「サービス残業」強要は“立派”な犯罪です。
この「サービス残業」を根絶すると、経済波及効果が生まれると試算した人がいます。第一生命経済研究所の門倉貴史副主任研究員です。
(1)「サービス残業」を新規雇用に振り替えれば、全産業で百六十一・六万人の雇用が増え、その結果、完全失業率は2・4ポイント低下(2)雇用者報酬の増加、余暇時間の拡大で実質個人消費は5・1ポイント上昇する。その結果、プラス2・5%の実質GDP(国内総生産)押し上げ効果が生まれる−−
企業が法律違反の「サービス残業」をやめれば、景気も上向き、最終的には企業にとってもプラスになるのです。
年次有給休暇でも日本はひどい状態です。ヨーロッパなどでは年休取得は100%が当たり前。日本は48・4%(二〇〇二年)です。年休日数の半分も休んでいません。
労基法は使用者に「有給休暇を与えなければならない」としています。パート労働者でも同様です。ルール通り日本も年休完全取得が当たり前になったらどういう効果があるのか。これも試算結果がでています。経済産業省、国土交通省、自由時間デザイン協会の共同報告書です。
(1)余暇の広がりで消費が七・四兆円拡大(2)消費拡大による新規雇用拡大(五十六万人)で消費が一・九兆円拡大(3)年休の代替要員拡大(九十二万人)で消費が二・五兆円拡大。合計十一・八兆円の波及効果と百四十八万人の雇用創出ができる−−
代替要員確保など企業負担はあります。しかし、それによって労働者の活力回復、消費拡大は企業に大きなプラスをもたらすはずです。
正規社員とパートの賃金格差もひどい状況です。同じ仕事なら同じ賃金にするのが原則でなければならないはず。パートタイム労働法は事業主に、就業の実態、通常の労働者との均衡などを考慮して、適正な労働条件の確保を図るように努めることと定めています。
企業がこの方向を守るとどんな経済効果が生まれるか、試算したのは三菱総合研究所です。
(1)パートと正規従業員の賃金格差縮小、正規従業員の労働時間短縮−−。この両方を実施した場合、いずれも実施しなかった場合に比べ、二〇〇五年には二〇〇〇年より正規従業員が百十九万人増加、パートが七万人増加、合計百二十六万人の雇用増(2)正規従業員とパートの賃金格差縮小で、パートへの急速なシフト(置き換え)が緩和。労働費用も、生産額が増加するため、企業のコストアップ要因とはならない−−
賃金格差を是正しても、全体では所得・消費の増加で経済効果が生じ、企業のコスト負担増は相殺されるとしています。
以上三つの試算を合わせると、雇用創出効果は四百三十五・六万人です。直近(八月)の完全失業者は三百三十三万人で、もし、日本で雇用ルールが確立すれば、失業問題は解決する計算になります。
しかし小泉自・公内閣は、雇用ルールを守らない大企業のリストラを支援し、雇用と中小企業経営を悪化させ、社会保険料や税の国民負担を重くし、消費を後退させ、景気悪化を招いています。
逆に日本共産党は、働くルール確立、労働者・国民所得向上を主張。それは日本の経済、社会に持続的発展をもたらすと訴えています。ここに道理があることは、以上の試算が証明しています。それは企業にとっても再生の道になるはずです。
十九日に東京都内で開かれる「若者に仕事を」全国青年大集会に、日本共産党の志位和夫委員長が参加して、激励のあいさつをする予定です。
この集会は、労働組合や青年団体、業者団体などでつくる実行委員会が主催するもの。「政府・大企業は、若者の雇用を増やし、労働条件を改善してください」をメーンスローガンに、▽サービス残業(ただ働き)をなくして雇用を増やすこと▽医療・福祉・教育など国民のくらしに必要な雇用をふやすこと▽フリーターの労働条件を改善し、希望者を正社員で採用すること▽大学生や高校生の就職難を解決し、就職活動のルールを確立すること−などをもとめます。
日時 十九日午後二時からプレ企画、三時から集会開催
場所 東京・渋谷区の宮下公園(渋谷駅下車)
大企業・財界の横暴な支配のもと、国民の生活と権利を守る多くの分野で、ヨーロッパなどで常識となっているルールがいまだに確立していないことは、日本社会の重大な弱点となっている。労働者は、長時間・過密労働に苦しみ、多くの企業で『サービス残業』という違法の搾取方式までが常態化している。雇用を保障する解雇規制の立法も存在しない。