2003年10月1日(水)「しんぶん赤旗」
デパートの丸井(青井忠雄社長、本社・東京都中野区)は、正社員約六千五百人の95%を子会社に転籍、退職させる大規模なリストラを十月一日から実施しようとしています。「業界の“勝ち組”なのに、なぜ大リストラか」と怒りの声があがっています。(原田浩一朗記者)
首都圏を中心に三十一店舗を展開する丸井は、若者向けの品ぞろえ、自社カードによる分割払い方式を広げ、不況にあえぐデパート業界の数少ない“勝ち組”といわれています。今年一月の連結決算では、売上高は五千五百八十八億六千七百万円、経常利益が三百三十九億三千八百万円を上げている優良企業です。
そんな丸井が正社員の大半をリストラする…。寝耳に水の発表に衝撃が走りました。「これまで会社を支えてきた社員をなんと思っているんだ」と職場の労働者たち。
管理職三百人以外の約五千四百五十人が退職金を受けとって九月末でいったん丸井を退職し、十月からはレディースファッション、紳士服・スポーツ用品販売、アクセサリー販売など、十一の子会社に移らされます。
子会社での賃金は、約三割もの大幅ダウン。厚生年金基金は解散し、退職金制度も廃止します。
労働者が「転籍か退職か」の二者択一を迫られたのは、七月はじめでした。名前と退職予定日を書いた用紙が社内便で一人ひとりに届きました。わずか二週間後の七月十五日が提出期限でした。
五十代の男性Yさんは大学卒業後丸井に入社。仕入れ部門などに三十年近く携わってきました。
「転籍で給料は二十代の若者と同じ水準に下がります。今年からまったく経験のない部署に配転され、ノイローゼになりそうでした。退職金に割増分を合わせるとなんとか住宅ローンは返せるかと自分にいい聞かせ、希望退職をのみました」と悔しさをにじませます。
中学生と小学生の子をもつ四十代の女性Kさんは高校を卒業し丸井に勤務するベテランです。
「要するに会社は『中高年はいらない』という態度です。会社のやり方に愛想が尽きました」
「もうかっているのになぜリストラか」。丸井広報室の小山田薫室長は「体力があるうちに将来を見すえて構造改革をしなくては、今後の小売り業界のなかで生き残っていけない」といいます。今回のリストラを「人員削減目的ではない」というものの、総額人件費の大幅な圧縮になることは認めました。労働者に犠牲を押しつける大企業の身勝手そのものです。
たたかいは終わってはいません。
ある支店では、今回退職に応じた労働者を集めた説明会を開き、「自己都合離職になります」と徹底をはかりました。
「希望退職」といっても、希望退職募集に応じた場合は特定受給資格者となります。そのさい、「希望退職募集とは、名称を問わず、人員整理を目的とし、措置が導入された時期が離職者の離職前一年以内であり、かつ希望退職の募集期間が三カ月以内であるものに限る」(厚生労働省・特定受給資格者の判断基準)という条件があり、丸井の場合、条件をすべて満たしています。会社側のいい分はごまかしです。
ハローワーク新宿の雇用保険適用課の担当者は「事業主と離職者の双方の言い分を聞いて、客観的な事実にもとづいて判断します」といい、事業主が記載した離職理由に納得できない場合は、労働者が「たとえいったん『異議なし』と署名捺印してしまった後でも、居住地の職業安定所に離職票を提出するときに異議を申し出てください」と話しています。
泣く泣く退職に応じたある労働者は語ります。「私たちの行く末を少しでも案じる気持ちがあるなら、会社は希望退職に応じたことを認めてほしい。私は、ハローワークで『希望退職募集に応じました』と主張したい。仲間と一緒に行動する」
労働者にとって、次の再就職先が決まるまでの間、頼みの綱が、失業手当(失業給付)です。
給付日数は「自己の意思で離職した場合」(自己都合による離職者)と「倒産、解雇などで離職を余儀なくされた場合」(特定受給資格者)では大きな差が出ます。
「自己都合」離職の場合、勤続二十年以上でも給付日数は百五十日ですが、特定受給資格者になると、四十五歳以上六十歳未満で勤続二十年の場合、三百三十日の給付と二倍以上になります。