2003年9月27日(土)「しんぶん赤旗」
「ようやく改革の芽が出てきた。木に育てていきたい」――26日開会した国会の所信表明でこう胸をはった小泉純一郎首相。しかし「芽なんてどこにあるの」というのが国民の実感ではないのでしょうか。そして「国際協調」をいいながらイラク派兵を推進。首相演説を検証してみると――。
「構造改革の成果が現れつつあります」
その根拠として首相は「雇用者数が増加」「民間設備投資も上向いて」「倒産件数も減少」などと並べたてました。
しかし、いずれも数字のごまかしや、身勝手な推論にすぎません。
例えば雇用者数。内閣発足直後の二〇〇一年五月と〇三年七月を比べると三十三万人も減っています。
倒産件数もバブル崩壊後二番目に多かった〇二年度に比べて減ってはいるものの、七月を見ても不況型倒産が千九十八件と全体の八割を占め過去最高。深刻な状態に変わりありません。「危機の解消ではなく先送り」(帝国データバンク)と指摘されるゆえんです。
首相の言い分は一事が万事この調子です。
国民生活をどん底に突き落としたのは、「構造改革」路線で巨額の負担増を国民に押しつけ、「不良債権の最終処理」で倒産と失業を増やしてきたからです。
さんざん国民を痛めつけておいて「芽が出てきた」と平気でいえる冷たさはぞっとします。
首相が語らなかったもので見過ごせない問題があります。それは、消費税の大幅アップです。
「任期中は上げない」というものの、「構造改革を徹底的にやった後」というように、社会保障を削りに削っておいて“もう増税しかない”と消費税増税のレールを敷くのがねらいです。
首相は「公平で持続可能な社会保障制度を構築」するとして、「年金改革」法案を通常国会に提出するとのべました。
政府が検討中の「改革」案は、国の負担は増やさずに、保険料の大幅引き上げと給付の大幅削減をはかるものです。暮らしの安心の支えとなるべき社会保障制度をズタズタにしておいて“あとは増税しかない”と消費税増税を飲ませようというのです。
消費税導入から十五年間の税収累計は百三十六兆円にのぼりますが、同じ時期に法人三税の税収は百三十一兆円も減収です。消費税増税は「社会保障の財源」ではなく、「大企業の税負担のいっそうの軽減のため」というのが真実です。
「サービス分野を中心にこの三年間で約二百万人の雇用が創出」などとのべましたが、雇用者全体では内閣発足直後と比べて三十三万人の減少です。
これまで政府の公式発表は「サービス分野で二年間で九十二万人増」。これ自体、パートや派遣など不安定雇用が中心でした。それでも大ぶろしきを広げた「五百三十万人の雇用創出」がムリなため、計算方法を変えて“底上げ”したのです。
しかし、雇用者に自営業者などを加えた就業者全体では九十万人の減少。完全失業者も二十六万人増えて三百五十二万人と高水準のままです。
二百万人雇用といっても「見込まれる」とのべたように推計にすぎません。
首相が保育所「待機児ゼロ作戦」で受け入れ児童を五万一千人増やしたと自慢したのは、必要な保育所をつくらないで、子どもたちを定員以上に詰め込んだためです。ゼロ歳児を定員の200%も詰め込んだところもあり、「保育室が足りない」「給食を廊下で食べている」「お昼寝の布団が敷けない」などの悲鳴があがっています。
それでも待機児は減るどころか毎年増え、四月時点で過去最多の二万六千人。この数字は待機児童を少なく見せるために定義を改悪したもので、従来の定義では四万二千人にのぼります。
首相は今後十万人を増やすといいましたが、内閣府は最初から申し込みをあきらめている待機児童は首都圏だけで二十四万人にのぼると試算。厚労省担当者も「ゼロ作戦で待機児をなくすのは無理」と認めています。
首相は「日米同盟と国際協調が日本外交の基本」であると表明し、テロ特措法延長案の今国会成立とイラクへの自衛隊派兵に強い意欲を示しました。
首相が「国際協調」をいうなら、米国の先制攻撃戦略への批判と、国連中心のイラク復興支援を求める圧倒的な国際世論に耳を傾けるべきです。しかし、首相のいう「国際協調」は決して、国連重視や国際世論の尊重を意味するものではありません。そもそも首相が「日米同盟」と「国際協調」を並列して強調しはじめたのは、今年の通常国会からです。世界の圧倒的多数の国家・国民がイラクへの武力行使に反対するなか、異常な対米追随姿勢への批判をかわすためでした。
それ以前、首相はみずからの外交姿勢を説明する際、あえて「国際協調」に言及することはありませんでした。
しかも、首相のいう「国際協調」は、単なる弁明にとどまらない危険な意味合いを持っています。米国は「有志連合」と称し、国連を否定した米国いいなりの国際秩序をめざしています。まさに米国の一国覇権主義への貢献を意味するのです。首相のいう「日本外交」の具体化がテロ特措法の延長であり、自衛隊のイラク派兵であることからも明白です。
演説では、テロ特措法の延長や、イラク派兵の理由について、何の説明もありませんでした。実態は、テロ特措法が支援対象としている米国の報復戦争の結果、テロの土壌はさらに拡大しています。イラク特措法が支援対象としている米英軍の占領統治も破たんに直面しています。
国民への説明を一切抜きにして、「国際協調」のことばでごまかしながら海外派兵をさらに進めることは許されません。