2003年9月15日(月)「しんぶん赤旗」
過重なノルマを押し付けられ、泣く泣く会社を辞めた同僚がいました。その人に花束を贈ったらクビにされてしまった――。兵庫県神戸市で、夕食の献立セットを宅配していた「ヨシケイ」の若い女性八人が、生まれて初めて労働組合をつくり、たたかっています。
組合をつくったのは、「ヨシケイ・ナラ」(本社奈良県、長谷川睦取締役)神戸西営業所で働く二十二歳から三十四歳の女性たちです。ヨシケイグループは、全国に六十五営業所、社員約六千五百人、営業車四千台をもち、五十万世帯に夕食材料の宅配をしています。
ヨシケイ・ナラは奈良県と兵庫県に営業所があります。神戸西営業所は十コースを十人で配達、上司二人を除いて全員女性の職場でした。
Nさんは六月末、顧客拡大のノルマ未達成を理由に退職させられました。同僚たちはせめてもの心づくしと送別会を開き、花束を贈りました。
すると課長が、「成績の上がらなかったやつにそんなことをする必要はない!」「無断でこんなことするな」といきなり大声で罵倒(ばとう)。机やいす、ごみ箱などを手当たり次第にけとばしました。びっくりしたのは女性たちです。過呼吸で失神する人もいました。
翌日、仕事を終えてから反省会が始まり、主任がいいました。「謝罪文を書かなければこの職場にいられないぞ」「書けなければ退職届を出せ」。謝罪か退職か。選びようのない二者択一を押しつけてきたのです。
上司によるいやがらせや大声での恫喝(どうかつ)は日常的にやられていました。しかし、あまりにも理不尽な要求にろうばいする女性たち。主任は「書け」「書け」と迫ります。「とても書けません」「じゃあ家に帰ってよく考えてこい」
帰途、従業員同士で話し合いました。「私たちは悪いことしてないのに」「人として許せない」
翌朝、「謝ったら、上司のやり方に納得したことになる」と、全員が退職届を出しました。
従業員九人中、四人がシングルマザーでした。収入が無ければ経済的に立ち行きません。仕事後に冷静になって相談しました。「今なら撤回できるかもしれない」。会社に電話して、退職届の取り下げをお願いしました。会社は「新しい人を採用する」「辞表通り、七月いっぱい働いてくれ」というだけでした。
「生活かかってるし、どないしょ」。八人で公共の労働相談などに電話しました。必死でハローワークなどを回った後、知り合いの紹介で全労連・全国一般労働組合兵庫県本部にたどりつきました。全労連・全国一般は、一人でも入れる労働組合で、パートやアルバイトの労働相談窓口にもなっています。藤尾勝利委員長はじっくり話を聞くと、「労働組合をつくってたたかおう」と呼びかけました。
「労働組合の存在は知っていても、実際にどんな力があるのか分からなかった」と女性たち。
大久保奈美さん(28)の頭には、「八人で何ができるのか」という思いがよぎりました。大久保さんは業績優秀で、特段のいやみを言われたことはありませんが、上司から「あいつを辞めさせたい」「気に食わない」などと聞かされていました。
パッと目を上げると、誰もが「やるしかない!」という顔をしていました。泣く泣く辞めていった人は数知れません。「悔しい思いをしてきた人たちのためにも、会社の横暴を正したい」と大久保さんはいいます。
七月五日、全労連・全国一般ヨシケイ分会を結成しました。分会長は大久保さん、副分会長は前川幸江さん(34)です。
団体交渉を申し込むと、社長が出てきました。会社側は退職届をたてに復職を認めません。社長は団交の場で大声をあげて恫喝しました。「乱暴行為は、ヨシケイ・ナラの体質だとわかった」と女性たちはいいます。
七月十二日、課長が「もうこなくてよい」と通告しました。十四日には会社に鍵をかけて閉め出しました。その日から就労闘争が始まりました。会社は神戸西営業所を閉鎖、業務を小野市の加工所に移しました。
休日には、自分たちの思いをつづった手紙を、配達先の家々に配りました。なぜ配達担当が替わったのか、会社は自分たちにどんな働き方をさせていたのか。手紙を受けた人から、ヨシケイ・ナラに抗議のファクスが送られました。
組合の大会で状況を説明すると、見ず知らずの人が「頑張れ」とカンパをくれました。ヨシケイ・ナラ本社への抗議行動では、奈良労連などが応援に駆け付けました。
「みんなが働きやすい会社にしたい」と滝倉幸子さん(24)。「仕事のやりがいを取り戻したい」と佐藤由樹子さん(22)。大久保さんは、「私たち自身に仲間意識ができました。協力し合うことの大切さ、という根本的なことに気づきました」。
八月、女性たちがヨシケイで働けるよう求める仮処分の申請を神戸地裁に提出しました。九月二十五日から審問が始まります。
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激励先 全労連・全国一般兵庫県本部ヨシケイ分会
電話078(371)2991
ファクス078(371)6439
ヨシケイ分会の要求は、(1)解雇を撤回すること(2)未払い残業手当を支給すること(3)年次有給休暇の取得を保障すること(4)業務上の疾病・事故・けがに対し労災保険を適用させること(5)業務上必要な備品(文房具)は会社で購入すること(6)一方的なノルマは押し付けないこと(7)上司は暴言・高圧的な話し方を直ちにやめること――です。
賃金は十五万円前後、基本給七万円に営業手当六万円などがつく、というのが一般的でした。就業時間は午前九時半から午後四時半。「でも帰れたためしがない」といいます。有給休暇もほとんどとれませんでした。
入社前の面接では「ノルマは課さない」と言われていましたが、二カ月に一度は「キャンペーン」として顧客拡大を求められました。期間中は帰宅が夜八時を回ることもたびたびありました。毎週木曜日にはメニューの全戸配布が加わります。
芳賀愛さん(29)は、上司のミスを指摘したことで「反抗した」と教育指導書を書かされました。その後、朝に夕に「ノルマは達成できるのか」「仕事を辞めたらどうだ」と言われ続けました。
全労連・全国一般兵庫県本部の藤尾委員長の話 法的には、従業員にまったく問題ありません。会社側は退職届を理由にしていますが、彼女たちの自由意思で書いたのではなく、無理やり書かされたもの。届に効力はなく、実質的な退職強要、一方的な首切りと考えています。
手紙を受け取った顧客がヨシケイ・ナラに送ったファクスの内容
少なくとも、貴社の社員である佐藤さんは、本当にていねいにお仕事をされており、私の娘が手紙を書くとていねいにお返事を書いて下さったり、とても気持ち良く利用させて頂いておりました。
私としましては、担当の方を、佐藤さんに戻していただきたく、Faxさせて頂いております。…優秀な社員を失うべきでないと、余計な事かもしれませんが意見させていただきます。
「広がり つくる ライフスタイル」をスローガンに青年平和学校「ピースエッグ2003」(日本平和委員会主催)が十三日から十五日まで、東京都内で開かれています。
初日は、メーン企画の早乙女勝元さん(作家)の講演がおこなわれ、およそ三百人の青年が集まって、真剣に聞き入っていました。
早乙女さんは、「黙って見ているのは中立ではなく、共犯です。おかしいと思うことはおかしいと声をあげるのが私たちの使命だと思います。お互い励まし合い、自分と他者を大事にしながら生きていきましょう」とエールを送りました。
友人に誘われて参加した小森萌人(もと)さん(21)=大学生=は、「祖父母は東京大空襲を体験しているのですが、意識していないと忘れてしまうことが多いんです。体験を忘れないように、たまに平和について考える時間をもてれば、もっといい生活につながるのではないか、と思いました」と話しました。
実行委員長の永堀浩矢さん(22)=パティシエ=は、「大事にしたいことはつながり」と話します。「今の社会は競争とかで一人ひとりばらばらにされ、思いを正直に話せなかったりする。ピースエッグは活動している人の話を聞いたり、自分の思いを話したりする場になっていると思います」
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