2003年9月15日(月)「しんぶん赤旗」
農水省は干拓事業で諫早湾の三分の一を閉め切り、広大な干潟・浅海域を一挙に消失させて、干拓地と調整池を造ってきました。その悪影響がどのくらいのものになるのかを解明することが課題になっていました。佐々木克之氏らの研究はその課題を科学的に解明し、経済的損失もいかに大きいかを明確にした点が注目されます。
一九九七年四月に諫早湾を閉め切って以降、本明川などの河川水は調整池に一時滞留したあと諫早湾ヘ排水されるようになりました。漁民は調整池から排出される汚濁水が赤潮やそれに伴うノリ不作、タイラギ不漁などの原因だと早くから訴えってきました。しかし農水省は、干潟消失の影響は小さいとし、排水による悪影響もいっさい認めずにきました。
ノリ不作などの原因究明で農水省が設置した第三者委員会は干拓事業による有明海の環境変化の一つとして、水質浄化機能の喪失と負荷の増大を想定。その検証のために調整池に海水を入れる短期と中長期の開門調査の必要を指摘しました。
ところが農水省は短期開門調査を実施したものの中長期開門調査は実施しないできました。このため第三者委員会の指摘を検証する具体的な研究成果がないままです。それだけに今回の研究成果は画期的な意味をもっています。
三河湾(愛知県)の一色干潟ついては、干潟の浄化力がどれくらいの下水処理施設に匹敵するかが算定されています。その手法に基づき宮入興一・愛知大学教授が諫早干潟の浄化力は人口三十万人分の下水処理施設に相当すると算定しました。 しかし一色干潟は砂質で、諫早干潟は泥質の違いがあり、干潟に生息する生物も違いがあります。農水省は、現地で進行している裁判でもその違いを強調し、論争点になっていました。
今回の佐々木氏らの算定は、すべて諫早湾の調査データを使用したもので、裁判所の判断にも影響するとみられます。(松橋隆司記者)