2003年9月14日(日)「しんぶん赤旗」
七十歳以上の高齢者の医療費が、自己負担限度額を超えた場合の払い戻しが大幅に遅れています(昨年十月から実施)。全国保険医団体連合会(保団連)が七月に明らかにした調査では、払い戻しが受けられる高齢者の三割が手続きをしていませんでした。高齢者にとって自治体の役所に出向いて払い戻しの手続きをすることは大変な負担です。こうしたなかで、手続きを簡単にして高齢者の負担を軽減している自治体が、医療・福祉団体や日本共産党議員の働きかけもあり、ふえつつあります。
岡山市 |
「医療費がかえってきたときが、うれしい。手続きで市役所まで行くとタクシーだと二千円近くかかるから、(口座振りこみで)助かるよ」と話すのは、岡山市の岩村忠男さん(89)。
リハビリなどで週二回、受診をして、月の自己負担は五千円余り。三カ月に一度の注射(負担が一万円)がある月は、窓口負担は一万五千円になります。妻と二人暮らしの岩村さんは市民税非課税世帯で、高額医療費の限度額は八千円。払い戻しの七千円が銀行口座に振りこまれます。
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岡山市では、県内でもいち早く、老人医療が一割負担になった昨年十月から、高額医療費の払い戻し手続きの簡素化を実施しています。申請手続き(郵送で受け付け可)を最初の一回ですませ、あとは自動的に口座に振りこむ方式です。日本共産党岡山市議団がかねてから要求していたものです。市当局も国の手続き簡素化をはかる通知を受け実施に踏み切りました。
岩村さんは、かかりつけの岡山協立病院のケースワーカーのアドバイスで昨年十月に手続きをすませ、制度を利用しています。
一方、県社会保障推進協議会(岩間一雄会長)がアンケート方式で調査したところ、七十八市町村のすべてから回答があり、昨年十月から今年三月までに、限度額を超えて支払った高齢者、のべ九万五千八百七十五人のうち、45%(四万三千百人)が未申請で、未払いになっていました。県の調査でも、52%が未払いとなっています。
岡山市では昨年十月だけでも、払い戻し該当者のうち、未申請が四千人を超えていました。その四千人すべてに同市がこの七月、郵送で通知をしたところ、「窓口で悲鳴があがる」ほどの申請が殺到。それまで月に千件ほどだった払い戻しが、八月には一気に九千百件に増えました。
九月三日には、中林よし子衆院議員と藤本さとし、久米けいすけ同中国ブロック比例代表候補をはじめ、中国各県の衆院小選挙区候補や県議が上京しての厚生労働省への要請で、全自治体への手続き簡素化の徹底を求めました。
(岡山県・宮木義治記者)
北海道内 |
北海道保険医会(木村健修会長)は八月までに、二百十二市町村を対象にして調査を実施し、医療費の払い戻し(償還払い)が受けられるにもかかわらず、高齢者が市町村に申請していない件数が23%、金額で六千百六十万円にのぼることを明らかにしました。会では道知事にたいして(1)該当する高齢者への徹底(2)支給までの期間短縮(3)未払い金とせず返金を指導する(4)償還払い制度の見直しを国に求める−を申し入れました。
高額医療費の払い戻しとは 七十歳以上の高齢者の医療費の自己負担限度額は所得によって異なり、外来では、市町村民税非課税の世帯の高齢者で月額八千円、一般高齢者で一万二千円、一定所得以上の人は四万二百円です。この額を超えた分が払い戻しされます。 厚生労働省は自治体にたいして、未申請者への通知を個別に行うこと、申請にあたり医療機関の領収書の添付は不要である、治療が複数月にまたがる場合は手続きは最初の一回でいい、などを通知しました。しかし、徹底されていないため多くの未申請者が残されています。 日本共産党は、この問題で全国調査を要求し、すべての自治体が負担軽減策をとるよう徹底する、事前に申請してもらい上限を超えた分は自動的に払い戻しをする制度の検討をする―などを申し入れました。さらに保団連などは、医療機関窓口での月額上限制の復活を要求しています。 |
道内各地では、日本共産党議員が償還払いの簡素化などを求めました。
乙部町では党町議団(松岡功、安岡美穂議員)が、町民課参事にたいし「償還払いの申請は高齢者にはむずかしい。やさしく対処を」と要請。同町での払い戻しの対象者は八十九人、実際に申請・支給された人は七十九人です。夫婦ともに入通院しているKさん(75)は「役場から通知がきたが、何をどうしてよいか、わからなかった。共産党町議が手続きを助けてくれて、お金がもどってとてもよかった」と喜んでいます。
札幌市では、札幌社会保障推進協議会が昨年十月、十一月に対市交渉をして改善を申し入れるなど運動がひろがり、市側は「簡素にする」と答えました。
市は対象者全員に郵送で通知と申請書、返信封筒を送り、本人は自分の口座番号を書いて返送する(二回目から申請なしで自動振り込み)ことになりました。これによって札幌市では該当する一万六千三百件のうち、未申請率はわずか3%にすぎないという好成績をあげています。
社保協の斉藤浩司事務局次長は「札幌方式は高齢者から、面倒なことはなかった、二回目から振り込まれると歓迎されている」といいます。
ことし一月から夕張市の市立病院が外来の受領委任を開始。外来で限度額を超えた高齢者にその旨を説明し、窓口で限度額のみを支払ってもらいます。超えた分は病院が市に請求し、病院に支払われます。これは夕張労連、党市議などが地道に運動し、医師会や市当局の理解を得た結果です。伊達市、栗山町、幌加内町、音更町、佐呂間町など十五市町村も続いています。
(党北海道委員会・佐々木忠自治体部長)
愛知県内 |
愛知県では八十七全市町村が、医療費が自己負担限度額を超えた場合、該当者に通知し、払い戻しの申請が一回あれば、その後は自動的に銀行などの口座に振り込むという方式を採用しています。この結果、払い戻しは件数で91%、金額で92・2%になっています(愛知県保険医協会調べ、昨年十月診療分にたいする五月一日現在支給分の割合)。
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なかでも進んだ手続きを採用しているのが名古屋市、犬山市など四市一町です。
名古屋市の場合、昨年十月からの制度変更に先立ち、「高額医療費支給申請書」を対象者全員、十四万四千人に届けました(医療費の自己負担がない福祉給付金対象の人を除く)。払戻金の振込先の銀行口座を書いて送り返してもらい、以後は自動振り込みにするという「事前申請方式」です。これで52%の申請がありました。そのとき未申請の人も、その後の高額医療費発生の際に郵便で連絡し口座を登録してもらっています。
この結果、昨年十月から今年四月までの十六万四千件の高額医療費払い戻し対象のうち、十六万件余、約九八・四%へ支払いがすんでいます。残っているのは、本人が死亡して口座がなくなっているなどのケースといいます。
この方式について市の担当者は「事前に申請してもらっているので自動的に処理でき、払い戻し手続きも早くできます」と説明します。
県内の手続き簡素化については、愛知県保険医協会や愛知県社会保障推進協議会、両会も参加する愛知県自治体キャラバン実行委員会が、払い戻し制度導入前から粘り強く調査や申し入れをし、各市町村、議会、国保運営協議会、医師会に働きかけてきました。澤田和男県保険医協会事務局次長は「簡素化が前進したのは、キャラバン前後の取り組みが決定的だったと思います」といいます。
(愛知県・板橋幸男記者)