2003年9月10日(水)「しんぶん赤旗」
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児童虐待の相談が急増するなか、その第一線で対応する児童相談所の数も、専門職員数も不足し、体制整備の遅れが問題となっています。児童相談所は全国に百八十カ所。虐待への対応としては全国的にも厳しいといわれる「虐待通告から四十八時間内の、訪問による児童の安否確認」の取り組みをすすめる埼玉県の実態をみてみると−。川田博子記者
「数本の電話が鳴り響いているのに、部屋には自分一人だけ。とくに週休あけの月曜日の朝は、ひどい状態です」−−埼玉県内のある児童相談所の児童福祉司は、こうため息をつきます。
児童相談所は、十七歳までの子どもについての相談を受けて、家庭への援助を行う専門的行政機関。児童福祉法により、都道府県・政令指定都市に設置されています。虐待だけでなく非行や不登校、しつけの問題など、相談は多岐にわたります。二〇〇二年度に受け付けた全相談件数は、県全体で約一万三千件。うち虐待相談は千四百五十八件でした(グラフ)。
児童相談所の設置基準は、「児童相談所運営指針」によると「人口五十万人に最低一カ所」。埼玉県の人口は七百三万人。現在七カ所。同指針からいえば最低必要な数の十四カ所の半分です。児童福祉司、心理判定員などの専門職員の数も不足しています。
相談受け付けは、仕事の入り口です。子どもや家族との面接、学校や保育所などへの問い合わせ、児童養護施設への入所手続きなど、一つの相談で数十回の対応が必要になることもしばしば。
ある児童福祉司は、「みんな百件を超える相談を抱え、昼間は出張や電話などがびっしりです」と話します。別の職員も「それぞれの子の将来まで見とおした対応には、十分な時間が必要です。でも時間に追われ、いまを救うだけで精いっぱいです」と大幅な人員増を訴えます。
自治労連埼玉県職員組合(山口正則執行委員長)は、昨年十二月、児童相談所職員を対象にアンケートを実施しました。児童相談体制が現状のまま続けばどのような事態が生じるかとの問いに、回答者の85%が「職員の健康が損なわれ病休者が増える」、56%が「職員の退職が増える」と答えました。「このままでは燃え尽きてしまう」「もう児童相談所の対処能力を超えている」などの切実な声が寄せられました。
同組合は児童相談所や子どもを緊急保護する一時保護所の増設、職員増を県へ要望して一部を実現させてきましたが、まだ足りません。病休・退職者が続出し、在職中に死亡した職員もいます。
「職員は『子どもを守り、健やかな成長を助けたい』と、子どもと家族への最善の処遇へ懸命の努力を重ねている。でも多忙とストレスで、どの職員が倒れてもおかしくない状態です」と、現場の人員不足を訴えます。
全国児童相談所長会(飯山幸雄会長)は、児童虐待に的確に対処するためには児童相談所の体制整備が欠かせないと、(1)児童福祉司の配置基準を現行の人口十−十三万人に一人から人口五万人に一人に(2)児童相談員や心理判定員の配置基準を明確にし改善する−などを要求。児童養護施設の職員配置基準の改善や子ども一人当たりの居室面積の拡充も求めています。