日本共産党

2003年9月10日(水)「しんぶん赤旗」

きょうからWTO閣僚会議

先進国ペースの自由化に懸念

途上国の利害と激しく対立


 世界貿易機関(WTO)の第五回閣僚会議が、九月十日−十四日にメキシコのカンクンで開かれます。会議は、現在交渉が行われているラウンド(多角的貿易交渉)の行方を左右するもので、各国が強い関心を寄せています。(カンクンで浜谷浩司)

 米国をはじめ「貿易自由化」を推進する国々は、会議を、二〇〇四年末に終結が予定されているラウンドの進展にはずみをつける最大のチャンスとみなしています。一方で、中進・途上国の多くが、「先進国」ペースで交渉が進むことに強い懸念を抱いています。

 公正な貿易と国際経済のために、多くのNGO(非政府組織)がWTOの抜本的な改革を要求して活動を強めており、会議の成り行きにも影響を与えています。

難航する交渉宣言案が宙に

 WTOはこれまで、ジュネーブの本部で断続的に交渉を行うとともに、一部諸国が閣僚級の会議を重ね、交渉の進展を図ってきました。

 しかし、焦点の農業交渉をはじめ工業製品でも、交渉の枠組みについて合意が得られていません。事前交渉は迷走し、カンクン会議の宣言案は宙に浮いたかっこうです。会議は波乱が予想され、宣言がまとまらない可能性さえあります。

 こうした交渉の現状に、米国は懸念を強めています。ブッシュ米大統領は三日、貿易「自由化」の前進は「米国の繁栄にとって不可欠」「米国の利益にかなう」と述べたうえで、期限内の交渉終結が「必須だ」と改めて強調しました。

 米政権は、WTO交渉と並行して、二国間や地域的な自由貿易協定の締結も進めています。WTO交渉が進まない場合、個別協定重視に切り替える姿勢を示すことで、交渉参加国に危機感をあおっています。

日本の農業は崩壊の危機に

 農業は日本にとって最大の問題。食料自給率は40%に落ち込み、国民生活の基本である食料を他国に大きく依存する姿は、発達した経済をもつ国々のあいだでもきわめて異常です。

 唯一自給が可能なコメ。それさえ、WTO体制のもとでは、不要な輸入を押し付けられる一方で、政府は減反に心血を注ぐという倒錯した姿勢をとっています。

 政府は一九九九年にコメの関税化を受け入れた際、その方が交渉に有利だと宣伝しました。しかし、カンクン会議を前に、米国と欧州連合(EU)が農産物の関税に上限を設けることで合意。交渉がこのまま進めば、日本はコメの関税を大きく引き下げ、輸入の無制限な拡大を招き、日本の家族農業は崩壊の危機に直面します。

 ゼーリック米通商代表は四日、関税の上限設定に反対している日本などをやり玉に挙げ、ラウンドの成否がかかっているとして、日本に譲歩を強く求める姿勢を表明しました。

家族農業の危機は世界的

 しかし、現行のWTO体制下での家族農業の危機は、日本だけにとどまりません。日本が孤立するのではなく、国際協力を通じて現状を打開する可能性が、そこにあります。

 米テネシー大学の農業政策分析センターはこのほど、「米農業政策の再検討」と題する報告をまとめました。それによると、米国での農産物価格の低迷は、米国内の家族農家はもとより、世界の家族農家、とりわけ保護を得られない途上国の農家にとって、大きな打撃となっています。

 報告は、価格が下がっても農産物の消費が増えるわけではないとし、「貿易の自由化は問題の解決にならない」と、「自由経済」論の誤りを批判。しかも、米国が農産物を海外に「ダンピング輸出」することで、影響を世界的に広げているとしています。

 価格低迷で利益を受けるのは、おもに大規模な畜産業者、販売や機械、加工などのアグリビジネス、輸入食品を利用する業者だと分析。消費者と経済全体にとって有益だとする主張も、しりぞけています。

 報告は、農業の特殊性を十分に考慮すべきだと指摘。価格支持メカニズムの必要性を強調し、こうした面での国際協力が求められるとしています。報告が描き出した「農家本位の政策」は、現行のWTOの枠組みに「ノー」をつきつけるものです。

 「全米家族農業連合」など家族農家を代表する複数の米NGOは、カンクンで報告書の発表会を開く予定で、それを通じて、世界から集まる農業関係者との交流を強めたいとしています。

投資分野では強い警戒感

 途上国の多くが反対の姿勢をみせているのが、投資や競争など新たな分野への「自由化」推進です。シンガポール・イシュー(議題)と呼ばれるこれらの問題は、交渉を開始するかがカンクンで決められる予定。

 投資分野では、利益の回収をはじめ、投資する側の権利の確保が中心的な課題とされ、途上国にとっては、自国経済の発展にかかわる政策を、先進国とその大企業に握られることになりかねません。マレーシアやインドをはじめ、多くの途上国が強い警戒感を抱いています。

 「先進国」と途上国との利害が厳しく対立するなか、日本も交渉を積極的に推進する立場で、途上国側の批判を浴びています。

 これらの問題は「貿易」と分野を異にしており、WTOが貿易だけでなく、世界経済全体の管理人になろうとしていることを示しています。この点には、「先進国」のNGOからも、厳しい目が向けられています。

WTO交渉の非民主的性格

 NGOの多くがあげる問題に、WTO交渉の非民主的性格があります。

 交渉は、米国と欧州連合(EU)とのかけひきが重要な位置を占めます。途上国の参加も、一部有力国の賛同を得られるかに焦点がおかれます。

 こうして、議長が一部の国々だけを招いて実質的な交渉を行う、「グリーン・ルーム」方式が定着してきました。

 そのもとで、大多数の途上国は交渉から事実上排除され、会議の進み具合さえ分からない事態におかれがちです。

 カンクンでもこうしたやり方が繰り返されるのではないか、と多くのNGOが批判を強めています。

 しかし、こうしたやり方はもはや限界に直面しています。

公正な経済をもとめて活動

 現在の多角的交渉は、二〇〇一年にドーハ(カタール)で開かれた前回閣僚会議で立ち上げられたものです。一九九九年のシアトルでの閣僚会議が、交渉の立ち上げを決定できなかったことから、とくに、途上国の主張を反映させる必要が痛感された結果でした。

 カンクン閣僚会議は、貧困をはじめ途上国の抱える問題が大きなテーマであるべきです。

 カンクンに集まるNGOの多くが、公正な経済秩序をめざす観点から活動を進めてきました。とりわけ、中南米のNGOは、ブラジルで世界社会フォーラムを三度にわたって開催してきた経験をもち、それを生かそうとしています。

 しかし、「先進国」の多くがラウンドの成否だけに目を向けていることから、カンクンでは、NGOの失望と批判が強まることが予想されます。


写真

国際農民・先住民フォーラムで発言する欧州の農民組織代表=8日、メキシコ・カンクン(菅原啓撮影)

多国籍企業だけが利益

NGO、農民団体が批判

 メキシコのカンクンで十日から始まる世界貿易機関(WTO)第五回閣僚会議を前に、世界各地から集まった農民団体や非政府組織が独自に討論会などを組織しています。

 国際的な農民団体ビア・カンペシーナが呼びかけ、八日から始まった国際農民・先住民フォーラムでは、途上国の開発問題などにとりくむNGO「フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス」のウォールデン・ベロ代表が発言。WTOは「いま危機に陥っている」「それは、WTOの路線では、多国籍大企業だけが利益をえることが日増しに明らかになっているからだ」と指摘しました。

 同氏は、WTO体制のもとで農業分野での合意をめざす米国や欧州連合の意図が、自国内での農業にたいする巨額の補助金はそのままに、「第三世界(途上国)へのさらなる市場参入をめざし、双方が『独占的な競争』をすすめるルールづくりをするためのもの」と批判。WTOの枠組みのもとでは、各国の農業や食料主権を守ることはできず、WTOの農業協定を「改定することは不可能だ。唯一の解決策は農業をWTOからはずすことだ」と強調しました。

 ベロ氏は、WTOが貿易だけでなく、投資など他の分野の支配をめざそうとしていることにふれ、これでは各国が自主的な政策をとることも不可能になるとし、こうした分野へのWTOの権限拡大に断固反対しようと呼びかけました。

 米国、メキシコ、カナダ三国による北米自由貿易協定(NAFTA、一九九四年一月発効)の経験を「われわれ三国の国民は自由貿易の人体実験にさらされている」とのべたのは、ビア・カンペシーナのピーター・ロセット代表。自由貿易の恩恵を受けているのは大企業だけであり、中小企業の倒産が相次ぎ、失業が増大していると、これら三カ国の状況を説明しつつ、NAFTAの自由貿易政策は「人道に反する政策だ」と告発し、「もうたくさんだ。もうこれ以上、このモデルを世界に拡大することを許してはならない」と訴えました。

 ロセット氏は、大国や大企業の利益を優先するWTOモデルの自由貿易は「新たな植民地主義の拡大だ」と指摘。「豊かな北の国々でも、農民たちは新たな植民地主義の犠牲になっている。途上国の農民と同じ運命にさらされている」とのべ、こうした貿易体制を民主的に変革する共通のたたかいを強化することをよびかけました。(カンクンで菅原啓)


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