日本共産党

2003年9月2日(火)「しんぶん赤旗」

転職支援、一時金増額など大きな成果

ドイツ・ノイミュンスター

日系企業パナソニック

解雇規制を活用、ストで圧力

工場閉鎖とたたかった労働者


 ドイツ北部シュレスウィヒ・ホルシュタイン州ノイミュンスターにある日系企業パナソニック工場の労働者のたたかいが「大きな成果」(独金属産業労組=IGメタル)をあげ、注目を集めています。ドイツでは工場閉鎖が相次いでいますが、この工場の労働者は解雇規制の法制度を活用、労働組合のストライキを含むたたかいで、転職支援会社の設立や解雇一時金増額などの成果を獲得しました。(ノイミュンスターで片岡正明)

 ノイミュンスターの松下電器現地子会社、独パナソニック・オートモーティブ・システムが工場閉鎖を発表したのは今年三月二十一日。

 カーステレオや監視カメラを製造してきた同社は、賃金の安いチェコへ生産ラインを移転することになり、従業員約五百六十人中、生産ラインの労働者四百人が解雇の対象となりました。一週間前に会社は「閉鎖」を否定したばかり。従業員の一人、バーバラ・インケルさん(45)は「家族のことを考えて涙が出てきた」とそのときのことを語りました。

 州都キールで米国サンマイクロ・システムズ系のカラープリンター製造会社が二〇〇二年に大量解雇を発表してたたかいが続いているさなかのこと。マスコミは「パナソニックも続くのか」と報道しました。

 ドイツでの解雇規制制度は、企業内の従業員代表組織である事業所評議会と解雇規制法を軸に構成されています。

二つの大きな規制

 会社側が整理解雇をおこなう場合、二つの大きな規制があります。第一に、事業所評議会に解雇の理由を十分に説明し、意見を聴取する必要があります。第二に、労働者の経済的不利益を緩和する「社会計画」を会社と事業所評議会の間でとりきめなければなりません。

 社会計画に盛り込まれる内容は解雇一時金の支払い、新たな仕事につくための職業訓練費用の保障などです。会社提案に労働者側が不満な場合、労働裁判所に解雇無効や補償条件の引き上げを求めて訴えることができます。会社側は合理化、新技術導入といった「緊急な経営上の理由」を解雇を正当化する理由にできますが、解雇を避けるため、あらゆる可能な措置をとることが求められます。

 近年、会社側が不十分な内容で、社会計画の交渉を押し切ることがたびたびありました。裁判になっても解雇撤回は難しく、労働者が望む補償条件が得られない状況にありました。

補償条件に的絞る

 事業者評議会は交渉にあたってストに訴えることはできません。ストができるのは労働組合だけです。このためIGメタル・ノイミュンスター支部は、会社の工場閉鎖と解雇発表の後、会社と事業所評議会の交渉よりも先に、労働組合との交渉を要求しました。

 同支部のペーター・ゼーガー代表は「ドイツの解雇規制法や労働裁判所に一定の力はあり、企業側に圧力をかける労組の力が必要です」と語りました。

 工場内の活動家はIGメタル・ノイミュンスター支部と連絡をとりました。労働者のたたかう力を強め、「ストを実効あるもの」(ゼーガー氏)にするには組合員を飛躍的に増やさなければなりません。〇二年末にわずか百四十一人だった工場内の労組組合員は四月二十三日には三百五十一人に増加しました。

 「解雇撤回は現実的でない」とみた労組は「最良の補償条件獲得」に的を絞りました。

 ゼーガー氏は「労組は社会計画に対する要求をめぐって会社に圧力をかけることはできません。労組がストをできるのは労働協約についてです。だから社会計画の中身を盛り込んだ労働協約を会社側に要求することにしたのです」といいます。

 IGメタル支部は、六月五日に警告ストを実施。同十三日には正式なストのスト権投票を行いました。圧倒的な賛成でスト権を確立すると、十六日から四週間のストに入りました。

 「他の企業の労働者が応援にかけつけた。スト中、新聞も毎日発行した」(カトリン・ワルケンホルスト事業所評議会議長)。「苦しいときは互いに勇気づけ、必ず勝つと励ましあった」(ゼーガー氏)

 会社側は派遣労働者の雇い入れでストに対抗しようとしますが失敗。ついにノイミュンスターのウンターレーベルク市長が仲介に乗り出しました。市長仲介のもと七月三日朝から十七時間の交渉の末、翌四日午前三時すぎ、労使が労働協約に調印しました。

 内容は、(1)解雇予告期間は最低二カ月(2)転職に必要な資格取得のための職業訓練会社の設立。最初に退職する労働者百二十人のためには〇三年十二月一日に会社を設立。残りの二百八十人の労働者のための会社は〇四年四月一日から(3)解雇一時金は勤続一年につき月給の90%を支給(4)扶養家族には子ども一人につき七百五十ユーロ(約九万六千円)、重度障害者千五百ユーロの解雇一時金割り増し。

 ゼーガー氏はいいます。「今回、職業資格取得のための新会社設立を勝ちとったことが最も重要なことです。退職後も一年間は給与と職業訓練費用が保障されます」

 労組側は報告・討論集会の後、投票で労働協約案の支持を決定。IGメタルはこの闘争の教訓を広めていこうとしています。


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