日本共産党

2003年8月14日(木)「しんぶん赤旗」

シリーズ 取り戻せ働くルール

成果競わせ1割に退職強要

日本IBM、賃金引下げも

組合加入 立向かう労働者


 「業績が低い」と会社が評定した下位10%の社員を、毎年退職に追い込んでいく−情報通信サービス大手・日本IBM(本社・東京)でおきていることです。「日本における人事制度改革の毒味役になる」と公言する大歳卓麻社長。労働者は労働組合に加入して攻撃に立ち向かっています。(原田浩一朗記者)


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リストラ・労働者いじめを告発する商店街宣伝で訴えるJMIU日本アイビーエム支部の組合員=7月5日、横浜市

 大企業はいま、年齢や勤続に応じて自動的に昇給する定期昇給制度を廃止して、年功序列から成果主義へと賃金・処遇制度を大きく転換しています。

 成果主義は、一握りの「できる社員」への報償をエサに、労働者を「成果」競争に駆り立て、大多数の労働者の賃金を引き下げ、総額人件費を減らすことがねらいです。

 日本IBMの「成果主義」は、単に賃金が「成果」で下がるだけでなく、雇用も奪われるという非情なシステムです。

 社員は、年初に所属長と個人面談を行い、業績達成、能力向上、チームへの貢献などの項目ごとに目標を決め、年度末の面談で評価されます。

 評価Aは、上位10%で「極めて優れた業績」=「できる社員」。評価Bは、中位70%で「職務の要求どおりの業績」=「普通の社員」。評価CとDは、下位20%の人たちで、「いくつかの面で不十分な業績」=「できない社員」(C)や、「不十分な業績」と長期病休者(D)など、「評価に値しない者」とされています。

 AとCでは昇給に一万円近い差がつき、年間の一時金では三カ月分もの差がつきます。

 Cの評価を受けた労働者は「ロー・パフォーマー(業績の低い者)」「ボトム・テン(低位10%の社員)」とされ、上司に個別に呼び出されて、早期退職を迫られます。D評価の労働者はいうまでもありません。

 「あなたにやってもらう仕事はなくなる」「給料は下がる。今後どんなにがんばっても、評価されるのは難しい。再就職を考えてはどうか」

 断っても断っても面談がくりかえされ、退職に応じないとその上の上司、さらにその上の上司と退職に応じるまで面談がつづきます。

労組に入ると面談やんだ

日本IBM退職強要

1年で相談200人 JMIUに60人加入

なぜ「C」

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JMIU日本アイビーエム支部の全国大会。あいさつする比嘉恒雄委員長=7月、東京都内

 Fさん(26)は入社四年目の労働者です。ある企業の商品の注文、在庫管理システムの改良や保守を担当していました。三年連続、評価はCでした。

 Fさんはいいます。

 「入社一年目はCが普通と聞いていました。なぜCなのか、どこを直せばいいのかの具体的な指摘もありませんでした。三回目のCをつけられたとき、『他人を押しのけてでも自分をアピールするぐらいでないとダメ。プレゼンテーション(発表)など、他の部署からもがんばっていることが見えるとりくみを』と指摘され、努力しようと考えていた矢先でした」

 Gさん(38)も退職を迫られました。二年ほど前に七、八人のリーダーになり、平日はほとんど終電近くまで働き、土日もどちらか、あるいは両日出勤するなど、「これ以上働けない」というほど働いたにもかかわらず、評価はCでした。リーダーからも降格されました。

 Gさんは「なにか大きな失敗をしましたか」と異議を申し立てました。上司の答えは「こちらが考えていただけの成果があがっていない」というあいまいなものでした。

 Gさんはいいます。

 「プロジェクトに入って四年目の私を、十年近い経験者と比較するのは公平でない。評価の基準もまったく客観的ではありません。こんな評価にもとづいて退職させられるなんて、がまんできない」

 FさんGさんともに日本IBMで活動する全日本金属情報機器労働組合(JMIU)日本アイビーエム支部に相談。組合役員から、退職強要は違法であることを聞き、二人とも組合に加入しました。加入を会社に通告した途端、面談はウソのようにやんだといいます。

社長公言

 日本IBMの大歳卓麻社長は、雑誌のインタビューで「人事制度改革で日本の毒味役になる」と公言。「我々が毒味してみて、大丈夫そうだとなれば、日本の会社のみなさんもやりやすいんじゃないか」とのべています(『日経ビジネス』〇一年四月二十三日号)。

 大歳社長が好んで使うのが「ペイ・フォー・ジョブ、ペイ・フォー・パフォーマンス」(直訳すれば、職務に応じた支払い、業績に応じた支払い)と「ハイ・パフォーマンス・カルチャー」(高い業績の企業文化)という言葉です。

 組合が入手した会社の内部文書には、「ハイ・パフォーマンス・カルチャーのいっそうの推進をはかる」として、「ボトム(低位)10%の社員」「トップタレント(評価A)をのぞいた50歳以上の社員」などを対象に早期退職をすすめることが明記してあります。JMIU支部の追及に、会社側も文書の存在を認めざるをえませんでした。

「灯台だ」

 七月に開いたJMIU支部大会にFさん、Gさんの姿がありました。

 野本鉄夫支部書記長は報告で、一年間に二百人以上から退職強要の問題で相談が寄せられたと紹介。「ハードディスクドライブ製造部門の日立への売却で、転籍を迫られた仲間の加入と合わせ、約六十人の仲間を組合に迎えた」とのべました。

 Fさんは「暗闇を航海する船のような私にとって、労働組合は灯台でした。組合のことを勉強して、みなさんとがんばりたい」。Gさんも「私たち若手ががんばって、まだ組合のことを知らない社員にアピールしたい」と表明。温かく力強い拍手が送られました。


変ぼうする事業内容

 日本IBMの親会社の米IBMは、「コンピューター業界の巨人」として一九八〇年代まで大型コンピューター分野で圧倒的な支配力を誇っていましたが、パソコンの台頭・普及のなかで凋落(ちょうらく)の危機にみまわれます。

 九〇年代初頭から「ハード事業からサービス事業へ」と業務内容を大転換。この過程で、全世界に四十万人いた社員を二十二万人に削減する大リストラを強行しました。

 日本IBMは、「ハード事業」からは完全に撤退。国内二製造工場のうち、滋賀県野洲市の工場は二〇〇一年から製造部門を分社化し、他社と合併、営業譲渡、売却。労働者に転籍・退職を強要しました。工場は約二十社がひしめく“工業団地”と化しています。神奈川県藤沢市のハードディスクドライブ製造工場は〇二年末、日立製作所に約八百人の労働者ごと事実上売却されました。


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