2003年8月3日(日)「しんぶん赤旗」
岐阜県と高知県では、アユ漁など川の漁業振興のために、漁業者が山に木を植え、間伐をするなど、山の保全にのりだしています。海の漁業振興のために、山に植林するのは、十数年前から東北地方を中心に始まり、いまでは北海道から沖縄まで全国的な事業になっています。しかし、川の漁業振興を目的にした山の手入れは、新しい運動です。漁協の取り組みと、これを支援する自治体のもようを現地にみてみました。
岐阜・木曽川 |
岐阜県では長良川最上流部の白鳥町の山林で一九九七年から三年間、また二〇〇一年からは木曽川上流の同県東白川村の村有林で、サクラやケヤキ、トチ、クリ、ナラの落葉広葉樹を毎年秋に一回、約二千本ずつ植えてきました。
昨年は東白川村で、地元スタッフを含めて総勢四百六十七人が参加して、二ヘクタールのヒノキ林の間伐した間に植えました。参加者は毎年増えてきています。ことしも十月十八日に同村における最後の植樹をする予定です。
|
「東白川村は私たちのテリトリーでもあるから」と、飛騨川とその支流を管轄する飛騨川漁協も植樹運動に力を入れています。
同漁協の太田嘉俊(かとし)組合長(68)は「東白川村はヒノキの産地で、落葉樹があまりない。そのために山林の保水力が乏しくて雨が降れば川はすぐ増水し、日照りが続けば水が無くなる。洪水になればアユは死滅し、水が減れば魚の生活圏が狭くなる。山の保水力が大きくなってこそ昔の川に戻ることができる。川を守るためには、山を守らなければならない」と強調します。
植樹運動について太田さんは「東白川村の八千ヘクタールの山林のうち二ヘクタールに植える木はわずかで、それ自体の効果は小さい。しかし、漁協の取り組みが五千四百人の組合員とその家族へと影響し、山、川を守る運動が広く一般市民に広がっていけば、何十年か先には昔の山、川が戻ってくるはずだ」と期待しています。
岐阜での植樹の主体は、長良川や木曽川が注ぐ伊勢湾岸の愛知、三重両県と岐阜の三県漁連が共同して、“山・川・海 思いやりの森造成運動”に取り組んでいます。
三重県桑名市の赤須賀漁協の秋田清音(すずね)組合長(62)は「われわれの運動が川、海を汚さないようにしようとか、山を見直すとか、市民の意識を変え、林野行政が山の役割に目を向け直すことにつながれば」と期待しています。
伊勢湾の漁業不振は深刻です。
秋田さんは「ぼくが漁師になったころの赤須賀は十以上の漁法でいろいろなものをとっていた。今ではシジミとわずかなノリ、ハマグリ漁だけになった」といいます。原因について「干潟が埋め立て開発され、魚の産卵、生育の場が狭まり、川の水利用と排水汚染、そして海に注ぐ川の水量自体が減ったことが考えられる」といいます。
三重県漁連では、とくに青壮年部の若手漁師が推進役になって運動を進めています。
一方、植樹運動の受け入れ側の東白川村では村役場あげてバックアップしています。昨年は大型バス五台分の臨時駐車場をつくり、乗用車五、六十台分の駐車場を確保。駐車場から植樹現場までのシャトルバス大小六台を運行。昼食用のマツタケごはんや野菜汁、地元の白川茶などを準備し、臨時の手洗い場や式典の舞台もつくりました。
同村役場総務課の担当者は「村としてはフィールドを提供して全面的にバックアップ態勢です」と話しています。
(東海・北陸信越総局・大川清市記者)
|
高知・伊尾木川 |
高知県安芸市の芸陽漁協は、水とアユの豊かな伊尾木川の清流を取り戻そうと、源流の山林を購入し手入れをする取り組みをはじめています。
伊尾木川上流の山は、戦後植林されたヒノキなどの針葉樹があまり手入れをされずに放置されてきたことなどから、保水力が低下。雨が降るとすぐに大水が出て、泥が川へと流れ込みます。日常的には水量が大幅に減少し、川がやせてきました。このため、多くの稚魚を放流しているにもかかわらず、アユの量は減ってきています。
|
伊尾木川を管理する芸陽漁協は十年ほど前に総代会で、「ただアユをとるだけでなく、川の保全に参加する」ことを確認。水源の山林を購入し手入れをして保水力を回復しようと、購入する山林の規模、位置などを研究してきました。その後、水源かん養林としてふさわしい場所にある民有林がみつかり、昨年購入しました。これは、伊尾木川の上流、香美郡物部村に接する同市別役地区の山林百四ヘクタール。うち三十七ヘクタールがヒノキの人工林で、それ以外はブナなどの天然林です。
市も、この取り組みを支援しています。芸陽漁協と森林保全協定を結び、山林を水源かん養保安林とし、国の緊急雇用対策事業を導入して、市森林組合に間伐作業を委託。森林組合は昨年十一月から今年の春にかけて人工林を間伐しました。
芸陽漁協は今後、天然林で、有用な広葉樹を残して十分な日光などを確保するための受光伐に取り組むことにしています。
趣味でアユ釣りを楽しんでいる正木功さん(63)=同市東浜=は、「別役のブナ林には二回ほど行ったことがありますが、水がきれいで豊富です。山を手入れをして清流を取り戻し、アユを取り戻そうという取り組みは、大変によいことだと思います。水害を防ぐことにもつながる」と話します。
芸陽漁協の取り組みについては、安芸青年会議所やボランティア団体なども協力を申し出るなど、市民の関心も高まってきました。同漁協の樋口清允組合長は「多くの住民が関心を持って取り組みに参加し出すと、荒れた山を元に戻そうとする活動の基盤ができるのではないかと思います。この関心の高まりを一過性のものにしてはいけません」と語ります。
同漁協、安芸青年会議所、市森林組合などが参加して七月二十三日、「森林(もり)を考える会」(仮称)設立準備会が開かれました。今後、林業への理解を深めるなど「山に入り山を知る活動」、間伐・枝打ち、植栽活動など「山と共生する活動」などを話し合っていくことにしています。
(高知県・浦準一記者)