2003年8月2日(土)「しんぶん赤旗」
大阪市の東部に位置し一万四千余の事業所が集積する府下有数の中小製造業のまち、八尾市。二年前に制定された「八尾市中小企業地域経済振興基本条例」(二〇〇一年四月施行)は、大企業が地域に果たす役割を明記した画期的なものです。「振興条例」を力に、労働者と中小業者、市民が共同して要求を前進させています。
「大企業者等は、中小企業と大企業が共に地域社会の発展に欠くことのできない重要な役割を果たすことを認識し、地域経済の振興に努めるものとする」
同市の「振興条例」第八条には、大企業が地域経済に果たすべき社会的責任について、こう規定しています。
その八尾市で〇二年九月、事務用品最大手のコクヨ(本社・大阪市)が八尾工場閉鎖と三百人の希望退職募集を発表。住民に衝撃を与えました。
コクヨ八尾工場は一九五九年、同市が誘致したもので、工場用地として役立つよう道路や上下水道などの環境整備を市が負担しました。操業から四十四年、多くの子どもたちが見学に訪れ、地元在住の従業員も多く、地域に根づいた企業として歩んできました。
閉鎖の理由は、市に払う税金や生産コストが高いからとしています。コクヨは不況のなかでも黒字を続け、三割の株主配当をしている優良企業。ため込んだ内部留保は千九百二十七億九千万円、従業員一人あたりでみると、大阪に本社がある大企業では断然トップです。
この事態に、八尾労連や市職労、民主商工会、生活と健康を守る会、新日本婦人の会などでつくる「八尾の地域経済振興・雇用とまちづくりを考える会」(一九九七年結成)は「地域経済と雇用に重大な影響もたらすリストラ計画は事前の届け出や協議を義務づけるなど責任ある対策を」と要望書を仲村晃義市長に提出。市と交渉するとともに、市内で旺盛な宣伝を展開してきました。
日本共産党八尾市議団も「地域経済と雇用を無視したコクヨ工場閉鎖は許されない」と議会がひらかれるたびにとりあげ、「振興条例」をいかした対策をとるよう要求してきました。
こうした声と運動に、仲村市長は「振興条例」に基づいて工場の操業継続と計画の再考をコクヨに要請。コクヨは、市内に子会社をつくり同工場で働く障害者二十四人の雇用を確保することを約束しました。
工場閉鎖にともなう跡地利用問題では、「まちづくりを考える会」が七月十二日に「大型店と地域経済振興まちづくりを考える市民のつどい」を開催。
コクヨの勝手な再開発ではなく、「振興条例」第八条の趣旨を生かし、市民本位の駅前整備をすすめていく必要があると話し合いました。
「振興条例」は、市民の多様な意見を吸収して日本共産党市議団が他会派に働きかけ、一九九九年三月議会で「振興条例制定を求める決議」の提案にこぎつけ、全会一致で採択。市が二〇〇一年三月議会に「振興条例」を提案し、全会一致で採択しました。
〇二年六月には、市産業振興室のもとに「八尾市中小企業サポートセンター」を設置しました。スタッフは、産業技術研究所OBや元行政マン、元業界紙記者ら四人を配置しています。産業界の知恵や情報を集め、相談にいけば「どこのだれに会いにいけば、アドバイスが得られる」と即座に助言してくれ、開所一年で三百六十八件の相談が寄せられたといいます。
日本共産党リストラ反対・雇用を守る闘争本部は六月下旬、山下芳生事務局長らが八尾市を調査。山下氏は、雇用と地域経済を守るために「企業の社会的責任」を問う自治体の努力を評価しました。市側も「撤退ルールを決めるなど地域社会をみんなで考える自治をつくっていく時代だ」とのべました。