2003年7月28日(月)「しんぶん赤旗」
イラク特措法の強行成立を受け、政府・与党は、早くも九月の自民党総裁選と、その後に予想される解散・総選挙へ向けて動きを強めています。特措法強行の背景と動き出した政局を見てみましょう。(梁取洋夫・政治部企画委員)
「六月の有事法制成立だけでも大変化。なのに、今度はイラクの戦場に公然と自衛隊を出す。『奴隷の平和は選ばない』という小泉(純一郎首相)は、何としても“陸軍”(陸上自衛隊)を出したいようだ。戦後六十年足らずのこの変化は、公明党の政権参加がもたらした。後日、日本はあの日『戦争をする国』に戻ったんだと後悔しなきゃいいが……」。自民党長老のつぶやきです。
米軍占領下のイラクへ武装した自衛隊を派遣するという、憲法上どこから見ても許されないこの悪法の背景には終始、米国の強い“意思”がありました。「湾岸戦争では日本は野球を観客席で見ただけだった。(今度は)野球場に出てプレーすべきだ」。アーミテージ国務副長官の言葉は、その象徴です。
有事三法案の衆院可決のめどが立った五月十四日、ベーカー駐日米大使が与党三幹事長に、自衛隊派遣への「期待」を表明。これを受けて小泉首相が日米首脳会談(五月二十三日)で、協力を約束したのです。
もう一つ、同法は出発点から、政局絡みの思惑がついて回りました。
当初、自民党最大派閥・橋本派の最高実力者でありながら小泉首相の“後見人”を自任する青木幹雄参院幹事長らは、山崎拓幹事長らの強引なやり口に反対でした。「(有事法制という)大きな仕事をやったのだからここはいったん幕を閉じ、仕切り直しをすべきだ」
それががらりと様相を変えるのは、エビアン・サミット(主要国首脳会議)を終えた小泉首相が青木氏、森喜朗前首相らと六月九日、都内の料亭で会談してから。首相はその席で「総裁選で再選されれば、内閣改造をやってもよい」とのべたといわれます。
「小泉に政策転換させ、何とか総裁再選を」と“軟着陸”を目指す「融和派」の青木、森両氏らは、その証しとして「大幅な内閣改造・党役員人事を」と要求。首相が「再選後」とはいえ要求を受け入れたのは、重大な変化でした。加えて、米側の強い姿勢を知らされた青木氏らは、これを境に「テロ特措法(の延長)は秋(の臨時国会)で間に合う」とはいうものの、イラク特措法案については一切、批判をやめたのです。
ところが、これには“第二幕”が――。同法案が衆院を通過する前日の三日、都内のホテルで開かれた与党三党首会談。その内容を、どうしても来年の衆参同日選を避けたい公明党の神崎武法代表が「臨時国会を九月中旬に召集することで、三党が一致した」と発表。加えて公明党幹部が「自民党総裁選は当然、前倒しになる」「十月解散の流れを確認した」との“解説”をしたものだから大変です。
青木氏と同じ橋本派に所属しながら、「打倒小泉」の亀井静香前政調会長らと行動を共にする「主戦派」野中広務元幹事長などは、「同日選回避のため何でもありというのは、まことに不見識だ」と、他党の総裁選にまで首を突っ込む公明党の態度にも怒り心頭に。
ついには首相が「(総裁選は)規定通りで結構だ」といわざるを得ませんでした。
結局、自民党総裁選は山崎幹事長の要請で九月二十日と決定。臨時国会は直後の九月下旬召集ということになりました。
走り出した自民党総裁選。さまざまな名前が取りざたされていますが、小泉首相は、最近発売の月刊誌でのインタビューで「総裁選で私が勝てば、その方針が党の公約になる」と公言、「いやなら総裁を変えればいい」などと挑発。「小泉対抵抗勢力」の構図で総裁選に臨み、その勢いで総選挙を乗り切る構えです。
「最近、首相は明けても暮れても公明党、公明党だ」と語るのは首相周辺。「昨年秋の国政補選で創価学会票の力を知らされた首相は、秋谷(栄之助会長)らとの極秘会談(昨年十一月)を経て、いよいよ公明・学会に傾倒している」「とくに衆院各小選挙区で二万票前後あるとされる学会票の“魔力”を無視できるはずもなく、彼らが嫌がる同日選などやるわけがない」
一方の公明・学会側は――。
「池田(大作名誉会長)の体調不良で公明党の連立政権維持は至上命題。そこでスタンスをはっきり小泉寄りにした」(政治ジャーナリスト)。なかには「(反小泉の)野中とは“点”の付き合いだが、(融和派の)青木とは“面”の付き合いをしている」と公言する公明党幹部も出るほどです。
かつては「一致結束箱弁当」といわれた自民党最大派閥。それが最近、「自民党総裁選 苦悩深まる橋本派」(「毎日」)、「折り合わぬ主戦派・融和派 苦悩の橋本派結束いずこ」(「朝日」)などの観測記事が相次ぐ背景には、こうした事情が横たわっているのです。公明党・創価学会が重要法案の行方を左右し、最大派閥をも揺さぶり、自民党政治全般に“強い影”を落とす……。
悪政の限りをつくす自公連立政治に、主権者が審判を下す場が、確実に近づいています。