2003年7月20日(日)「しんぶん赤旗」
日本の美しい森を形づくる主役の一つ、ブナ林。このブナ林の乱伐を防ぐうえで、全国各地のブナを守る運動は、大きな役割を果たしてきました。この運動が奥山のブナなど広葉樹ばかりでなく里山の重要性にも視野を広げ、植林、幼樹保護育成などにも力を注ぐなど、最近新たな発展の息吹を示しています。こうした動きにスポットをあてました。
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日本の国土の約七割を占めている森林。この森林は空気を浄化し、洪水などの被害を防ぐ緑のダムの役割を担っています。その中でも、広葉樹のブナ林は特に保水力が高いといわれます。ブナ林に入ると、みずみずしい木々の生命力を感じ、豊かな森のたたずまいにホッとします。とくに芽吹きのときの緑のスクリーンの素晴らしさは、帰宅しても目の奥に映像として残っているほどです。
大事なブナ林ですが、国の森林政策・環境政策の誤りから、林野庁による大規模な乱伐の対象とされてきました。原生林が根こそぎ切られ、山は破壊されてきました。こうした乱伐にたいし東北・北海道をはじめ全国でブナを守る住民運動が起こりました。環境保護を求める世論が高まり、各地で乱伐にストップをかける成果が広がってきました。日本共産党の国会議員、各県議、市町村議員は、こうした運動と力を合わせてきました。現在では運動は、乱伐阻止から、ブナの植林、観察、幼木の成長を助けるササ刈り行動などへと、幅広い展開をみせています。
最近では、奥山のブナも里山の林も守ろうと、林野庁との間に「森づくり協定」を結ぶ等の取り組みが広がるなど、新たな動きもでています。
私も、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)建設から東京の森・高尾山を守る運動をはじめ、神奈川・丹沢のブナを守る運動などたくさんの運動にかかわってきました。まさに日本の美しい森を守る仕事は私のライフワークです。
六月三十日の参院行政監視委員会では、森林の保全・管理について質問しました。森林の七割近くが民有林であり、アメリカなどの要求で外材輸入が増え国産材が売れなくなり木材価格の低迷で林業経営が苦境にあえぎ、荒れた山林が増えている、それを緊急に解決するための対策の一つとして、学校をはじめ公共工事で国産材・間伐材を使うなどして利用を拡大し、林業が成り立ち、山が元気になる対策をとるよう求めました。
今後、生物多様性の宝庫である森林を守り、日本の豊かな自然を後世に残していけるよう、みなさんと力を合わせさまざまな場で努力していきたいと考えています。
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鳥取・大山 |
私の郷里鳥取県江府町は大山(だいせん)の南側に位置し、山ろくには広大なブナ林があります。そのブナ林がいつまでも残ってくれることを願って八年前から巨木を中心にブナ林の調査に取り組んできました。休日を利用して岡山県から大山に通いブナ原生林の分布、ブナの幼樹などの調査と、ブナの苗を育てて希望者にお分けするなどブナの普及にも取り組んでいます。
これまでに千二百ヘクタールほどあると思われる南大山の七割ぐらいの調査を終え、ブナやミズナラなど、幹周り三メートル以上の巨木二百三十三本を確認しました。大山最大のブナ(幹周り五・五七メートル、推定樹齢四百八十年)を発見することもできました。こうした活動の横のつながりが生まれてきたのが昨年からです。昨年鳥取県では国民文化祭が行われ、江府町では「水」をテーマに多彩な行事が取り組まれました。中学生によるブナの植林やシンポジウムなどブナにかかわる内容のものもたくさんあり、実行委員会からの依頼でビデオでの出演や学習会の講師、写真やブナの実、苗など展示物の提供をはじめ多面的な協力ができ、住民のみなさんのブナの理解に少しでも役立つことができたと思っています。
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今年の冬には鳥取県日南町で調査を行い、原生林の中から幹周り三メートルを超える巨木をみつけ町に連絡。「町としても大切にしたい。保護の方策を考えたい」との声が担当者からよせられました。
岡山県北部の神郷町では農村地域の活性化をめざして活動している「いなかを考える会」が地元の山に大規模なブナの植林を計画しており、協力を要請されています。大山最大ブナの発見後、「巨木を見たい」という希望がたびたび寄せられるようになり、毎年最大ブナの観察会を行うことにしました。今年で二回目ですが毎年十数人が参加しています。参加者からは「とても感動しました」「ぜひ来年もいきたい」などの声が寄せられています。これらの活動を通して自然保護やその一つの象徴としてのブナ原生林、そして巨木、これらを守っていくことの大切さが行政を含め広く住民に理解されつつあるということ、ブナを中心とした人々の輪が広がっていることを実感しています。
(長尾昭・南大山ブナ林愛好会代表)
岩手山・葛根田 |
「山は森に支えられているというのが一つのスローガンです」−盛岡市の自然保護団体、八幡平(はちまんたい)の葛根田(かっこんだ)ブナ原生林を守る会(永野正造会長)の白藤力事務局長は、こう話します。
会は昨年十二月、盛岡森林管理署と、「岩手山における森づくりと自然保護活動に関する協定」(岩手山森づくり協定)を結びました。
同協定により、国有林が大半を占める岩手山と周辺の七千五百ヘクタールの広大な地域が開放され、森の再生と自然保護の多様な市民活動を展開することが可能になりました。同地域は標高が百八十メートルから二千三十八メートルで、ブナ原生林のほか生産林、雑木林など多様な自然が存在しています。それら全体を後世に伝えていくことが同協定の目的です。
市民側と行政の双方が共同作成する方式は全国でも初めて。白藤さんは「福嶋雅喜署長(当時)と夜中まで話し合って作成した」と振り返ります。
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また、一般的包括的な内容となっており、市民側の自主性の尊重を重視していることと、森を支える社会システムの探究が大きな特徴です。
白藤さんは「協定を基礎にテーマ、場所を決めて、学習や調査をしながら考え、力量に応じて活動をすすめたい。行政に代わって市民が林業をやるということではない」と強調します。
会は山村労働者の指導も受け、ブナ林などの原生林の保護再生活動、生産林を自然林や混交林に誘導する作業活動(既存の樹木の育成や種集め、苗木苗畑づくり、下刈り、植樹など)、雑木林の育成拡大などの作業に取り組む予定です。
会は一九八七年の結成以来、雫石町の葛根田川源流部のブナ原生林伐採計画を断念させるなどの大きな成果をあげてきました。日本共産党の横田綾二元県議と斉藤信県議も、県議会や現地調査を通じてブナ林を守る運動に協力してきました。
会と対立関係だった森林管理署は、森林調査を共同ですすめるなかで、昨年六月、同協定締結を打診。白藤さんは「反対運動の中でも相手との意見交換をしてきた。会の森づくりの活動を営林署も見て、自然な形で協定を結ぶことになったと思う」と語っています。
(岩手県 三国大助記者)
9月に全国集会 全国のブナを守る運動団体などが9月に、仙台で第16回の「日本の森と自然を守る全国集会」を開きます。「森林再生のみちすじ」がテーマ。ブナを守る運動団体、森林組合などが参加。9月13〜15日=仙台市福祉プラザ、問い合わせ先・仙台のブナ林と水・自然を守る会 http://hb5.seikyou.ne.jp/home/obata/ |